旨味が止まらない「究極の赤身肉」⁈ シェフ森田隼人が挑む和牛の革命

スーパーや精肉店に行くと、さまざまな産地やブランドの牛肉が所狭しと並んでいます。
しかし、そんな中で「本当に美味しい肉が消費者に知られていない」と、新たなブランド牛の開発に取り組む一人のシェフがいます。

「CROSSOM MORITA(クロッサムモリタ)」など、都内で6店舗の焼肉店を経営する「六花界(ろっかかい)グループ」のオーナー兼シェフ・森田隼人(もりた・はやと)さん。

会員制焼肉店の文化を広めたほか、プロジェクションマッピングの映像とリンクさせたコース料理や、発酵による「熟成肉」製法の開発・特許取得など、飲食業界の常識にとらわれない活動でメディアから注目を集めています。


写真左:森田隼人さん/写真右:熊本県天草市で、黒毛和牛の肥育や焼肉店の経営を手がける田中健司さん

そんな森田さんが熊本の畜産家・田中健司さんとタッグを組んで開発するのが、それぞれの苗字を繋ぎ合わせて名付けた「もりたなか牛」。

「12代酒サムライ」(※)としても活動する森田さんが、地産地消の観点から熊本産の酒粕を飼料に使用。AIやVRを活用しながら、放牧によるA5ランクの和牛として、令和時代で最初のブランド牛を目指しています。

※酒サムライ……全国の若手蔵元から組織される「日本酒造青年協議会」が、日本酒と日本文化を愛し、素晴らしさを世界に広めようと活動する人に与える称号

美味しい肉が消費者の手元に届きづらいのは、既存の肉の流通経路に原因があります。『もりたなか牛』では食肉加工を自社で管理することで、本当に美味しい肉が消費者に届く『和牛の革命』を起こしたいんです」と森田さんは語ります。

この「もりたなか牛」を支援する「牛主(うしぬし)」を募集するプロジェクトが、飲食店専門のクラウドファンディングプラットフォーム「3rd table」で始動しています。


『六花界グループがブランド牛を開発!幻を超える和牛「もりたなか牛」プロジェクト!』

このプロジェクトは単に活動資金を募るためでなく、共にブランド牛の開発に取り組むギルドメンバーとしての仲間、いわば「もりたなか牛」を世の中に広める「伝道師」を集めるためだと森田さんは言います。

一般から募ったメンバーと一緒にブランド牛を開発する点でも、業界で今までにない試みとなる「もりたなか牛」プロジェクト。発酵の力を利用して旨味を高めた「究極の赤身肉」を作る挑戦について、森田さんに話を聞きました。

「美味しい肉を選べない」壁を突破する

森田さんはお店で料理を提供するだけでなく、全国の生産者と繋がり、食材の開発にも取り組んでいますよね。一般的にイメージする「シェフ」の役割よりも幅広い活動をされているように思います。

僕にとっての「シェフ」は、食材を知り、神様から与えられた尊い命を捌く仕事であり、その食材を通じて皿の上で表現するアーティストでもあります。食材を深く知るためには生産者を知り、一緒に活動することも必要です。

さらに、シェフは「食の歴史」を知らないといけないとも思ってます。

「食の歴史」ですか?

僕らが食べている食材は、子どもや孫たちが安全で美味しく文化的に食べていけるよう、上の世代が品種改良を重ねて残してきたものなんです。

例えば乳牛一頭からとれる牛乳の量は、この45年で倍になりました。それだけではありません。和牛の歴史はたった60~70年なのに、これだけ多くの日本人が日常的に牛肉を食べられるようにもなっています。そういう食材を後世に残すのが、シェフである僕の使命だと思っています。

なるほど。ただし、食材の背景や優れた生産者が消費者に知られていない現状もあると思います。

消費者は生産者に興味が乏しいんです。肉で言えばブランドのような基準で選ぶしかないですからね。でも、それは業界の構造に問題があるんです。

ほとんどの焼肉屋がどうやって肉を仕入れているかというと、取引先の肉屋に「ロース何キロ、ハラミは何キロお願いします」と電話して、業者が運んできた肉をそのまま出しているんです。それを食べてお客さんが「美味しい」と言っている。

つまり飲食店の方にも「良い食材をセレクトし、紹介する」意識が薄い?

食肉加工場、肉屋、飲食店のような流通の流れがガッチリできあがっていますから、良いと思う肉を自由に選ぶことが難しい状況なんですね。ホルモンなんて消費者にはもっと良し悪しがわからないと思います。例えば「ミノ」と「上ミノ」は何が違うかご存知ですか?

わからないです…。

そうですよね。一般的には特に肉厚な部分を「上ミノ」と呼ぶのですが、違いをご存知でないのも、ホルモンにはブランドがないと言ってもいい状況ですから仕方ないんです。

ホルモンにはブランドがないんですか?

例えば、東京・芝浦屠場で1日約400頭の牛が屠畜されるんですが、ホルモンは心臓なら心臓だけが400個、タン(舌)ならタンだけが400個、ズラッと並べられてます。そこで業者の人が「心臓下さい」と言うと、そこから適当に取った心臓を渡される。「この牛の心臓を下さい」とは指定できない仕組みになっているんです。

なるほど…それでは業者の側も「目利き」として機能できませんよね。

僕は田中さんの助けを借りて、その壁を突破したんです。つまり、僕たちが育てた牛の肉や内臓が、ちゃんと手元に届くシステムを作った。

単に美味しい牛を育てるだけではなくて、加工の過程まできちんと管理できるようになった点が「革命」なんです。その美味しい肉を、家庭でも購入して食べられるようにするためのプロジェクトが「もりたなか牛」です。

「山を一つ崩しちゃった」畜産家の桁違いな熱量

なぜ熊本・天草の畜産家である田中健司さんと、ブランド牛を開発することになったんですか?

2年ほど前に、熊本県から僕の元へ「『赤牛』『馬肉』に次ぐ熊本の名産品を作りたい」と依頼があったんです。「それなら黒毛和牛しかない」と考えて、熊本の和牛生産者に会ってまわったんですが、なかでも田中さんは熱量が半端なかった。

「新しい牛を作りたいから、餌として酒粕を食べさせましょう」なんて僕の提案に、普通は誰も乗りません。自分の牛が1頭死んでしまったら150万円くらいの損失が出ますし、今まで通りの牛を育てていれば、畜産家は食べていけますから。

あえてリスクを取る必要はないですもんね。

そこを彼は「やってみよっか~」って言うんです(笑)。田中さんはミシュランのビブグルマン(※)を日本で唯一持つ優秀な畜産家であると同時に、次世代にもっといい和牛を残そうとしている。

旧態然とした生産者というより、新しい牛を求めるクリエイターなんですよ。こんなに面白くて実力のある畜産家が、世の中に知られてないのはもったいない。

※ビブグルマン……5000円以下(サービス料、席料含む)で食事ができる、おすすめのレストランに対して、ミシュランから与えられる評価。田中さんの経営する焼肉店はビブグルマンを獲得している。


放牧地となる予定の土地

田中さんの牛舎の裏山を切り開いて、新たに土地を作ったとも聞きました。

「もりたなか牛」を一緒にやることになった2ヶ月後に熊本へ行ったら、もうショベルカーで山を削ってるんですから。「60頭分は牛舎のスペースがいるし、裏山買ったから」って。あの時は「マジで言ってるのかこの人……」と思いました(笑)。

すごい熱量ですね。

田中さんほど数字を気にしない畜産家は、なかなかいないでしょうね。彼の経営する焼肉店「たなか畜産」は、3980円でシャトーブリアンも含めた牛肉が食べ放題なんです。ミシュランのビブグルマンを獲った店でこんな価格、普通はありえないですよ。

それはすごい! 最高級のお肉が破格で食べられると、お客さんは嬉しいですね。

でも、一方で「田中さんの肉は安い」というイメージが付く。だから新たにハイブランドの肉を作る際のハードルも上がってしまうんですよ。

僕自身、一人単価2,500円の「六花界」からスタートして、6,000円の「五色桜」、1万円の「TRAYLIUM(トライリウム)」と、店の価格帯を上げていく過程で非常に苦労しました。安い価格に慣れたお客さんを納得させて、上の価格へと来てもらう壁を突破するのは難しい。

だから、田中さんがハイブランドの肉を作るためにも僕が必要だったんです。シェフである僕が一緒になって、牛作りにとことんこだわり、発酵の技術を使って肉を熟成させ、それが消費者の元に届く。だからこれだけの値段がする。消費者を納得させるためには「理屈」が必要なんです。

また、熊本県の酒造「瑞鷹(ずいよう)」にも協力してもらっています。瑞鷹は熊本地震で被災されて、まだ蔵の4割ほどが倒壊したままなんですが、すでに牛の飼料として1トンの酒粕を用意していただきました。今回のプロジェクトには「熊本の復興」の意味も込めています。

「放牧」と「発酵」が肉を旨くする理由


森田さんの手により熟成された肉。日本酒の「発酵」を利用し、旨味がグンと増している

「もりたなか牛」では、なぜ飼料に酒粕を使うんですか?

正確には、稲ワラに酒粕を混ぜて乳酸発酵させたものを牛に与えます。この飼料を与えると肉の旨味が増すことが、味覚の専門家・鈴木隆一さんのAISSY株式会社によって科学的に立証されています。

さらに酒粕を使った餌により、牛の生育が5~10%早くなることもわかっています。通常は30ヶ月で屠畜するんですが、「もりたなか牛」は約27ヶ月で成牛になります。

飼育方法としては、放牧でA5ランク(※)の肉を作ろうとしている点もユニークですね。

放牧すると運動量が多くなるので、普通ならA5ランクは出ないです。しかし「もりたなか牛」では酒粕で発酵させた飼料を与えて運動させることによって、赤身が旨いA5ランクの牛ができるんです。

※A5ランク……可食部が多く、サシがきめ細かく均等に入った牛肉の最高等級

全てにおいて「普通の方法」とは違うことずくめなんですね。

内臓を含めて、牛一頭全部を改革しようと思ってますよ。「もう『ホルモン(放るもん)』じゃなく、『旨いもん』に変えようや!」くらいの勢いですね。

ラボで「発酵」の美味しさと可能性を追求するレストラン

プロジェクトへの支援で誰でも「牛主」になれるのも新しい試みですよね。一般人が牛のオーナーになる方法なんて、普通は見当もつかないですから。

「もりたなか牛」の牛主になると、牛舎で牛が産まれる瞬間や、成長する様子をVRで体験することができるし、「牛主オンラインサロン」で情報をリアルタイムに得られます。

最後は、牛一頭の肉を牛主で山分け。こんなの絶対面白いと思いますよ。


熟成肉や発酵の研究施設兼レストランとして、都内近郊に新設中の「六花界ラボ」設計図

牛主のオンラインサロン会員になると、「六花界ラボ」に参加する権利も得られるんですよね。「六花界ラボ」とはどんなものなんですか?

熟成肉を媒体に、味噌や甘酒、醤油、バターなど、あらゆる発酵食品を会員と一緒に作っていく研究施設です。LEDプラントで苺やハーブも栽培するので、育ったものを会員に摘んでもらって、セントラルキッチンで発酵食品と共に料理し、食べていただくこともできます。

他にはない体験ができるんですね。

海外にある最先端のレストランは、すでに「発酵」に注目し、研究のためのラボを併設するところも出てきています。でも日本人が運営するレストランの「発酵ラボ」は、うちが初だと思いますよ。新しい食がどんどん生まれていくので、ぜひ楽しみにしてほしいです。

同じ「食」の志を持つ仲間を集めたい

話を伺っていると、今回のクラウドファンディングには「仲間集め」の要素が強いように感じられます。

そうですね。実は最初、「もりたなか牛」でクラウドファンディングを使おうとは考えてなかったんです。

でも「もりたなか牛」をブランド牛としてもっと大きく世間に広めるためには「3rdTable」で支援者を広く募ることは意味がある。何より賛同してくれた人たちと、後世に残す食材として「もりたなか牛」を一緒に作り上げていきたいと思ったんです。

例えば、支援者の中に海苔屋さんがいたとしたら「海苔を牛に食べさせてみたらどうかな?」とか、LEDを作る会社の人がいたら「牛舎に青色のLEDを設置したら、牛が安心して生育にいいかも?」とか。みんなの力を合わせて「もりたなか牛」を育てるシステムを作り上げていけたらなと。

新しいアイデアが生まれるかもしれないですね。

「資金」を集めるだけじゃなく「気持ち」を支援してくれる仲間を募集したいです。そういう意味では、「オンラインサロン」というより「オンラインギルド」と言った方がいいかもしれない。

「ギルド」は元々、中世ヨーロッパの職人組合ですよね。「もりたなか牛」では、様々なスキルを持った人たちのチームのようなイメージでしょうか。

そうですね。スキルを出し合いながら、消費者も生産者も一緒にいい食材を作り上げていけたらいいですよね。

それに加えて、「美味しい肉」の知識を共有していきたいです。例えば、夏はメンバーで集まってバーベキューしながら肉について語り合うイベントをやったり、ホルモンの焼き方の勉強会をしたり。あとはメンバーの人に「牛主になった」ってドヤ顔してもらいたいですね(笑)。

「もりたなか牛」は、まずは牛主のオンラインサロン内で販売されると聞きました。今後はどのように広めていきたいですか?

「お米を食べて育った和牛」として、日本の食の価値とともに世界へ発信したいですね。

なるほど。牛の飼料は通常、トウモロコシや小麦ですから、「もりたなか牛」はお米を食べて育った「日本人のための和牛」といえますね。

日本人にとって本当に美味しい和牛は、米から作られた日本酒の酒粕を食べて育った牛だと思います。この安全で美味しい食材を後世に残したいですね。

「もりたなか牛」は僕が責任を持って調理しますから、オンラインギルドで「和牛の歴史を変える瞬間」を共に過ごしてほしいです。

そして何より、見た目や値段で判断するのではなく、ちゃんとストーリーを知った上で食材を選んでもらいたいし、そういう価値観を広めていきたいですね。

写真:藤原 慶(公式HP

六花界グループがブランド牛を開発!幻を超える和牛「もりたなか牛」プロジェクト!
  • プロジェクトURL
    https://camp-fire.jp/projects/view/14613
  • 内容
    「CROSSOM MORITA」など、都内で6店舗の焼肉店を経営する六花界グループのオーナー兼シェフ・森田隼人が、熊本天草の「たなか畜産」とタッグを組んで始めたブランド牛開発プロジェクト。
  • 期間
    2019年5月17日まで
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書いた人 : 都田ミツ子

1982年生まれ。編集制作会社を経て、フリーランスの編集者・ライター・コラムニストとして活動。ジャンルは映画、ビジネス、美容、子育てなど。

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