一億総発信者時代の「幸せ」とは。Mr.CHEESECAKE・田村浩二×BASE・鶴岡裕太

インターネットによって、誰もが発信者になれる時代になりました。

そして個人がネットショップを立ち上げたり、クラウドファンディングで支援を募ったり……インターネットを主戦場にする働き方、生き方はより一般的になってきています。

では「誰もが発信者になれる時代」に、より大きな発信力・影響力を得るにはどうすればいいのでしょうか?

そんな疑問をぶつけたのが、大人気チーズケーキブランド「Mr.CHEESECAKE(ミスターチーズケーキ)」を手がける田村浩二さん。


「Mr.CHEESECAKE」は、毎週月曜日の朝10時からネットショップで商品の予約を受け付ける。予約開始とともにすぐに商品が売り切れるほどの人気。謳い文句は「今までのチーズケーキの概念を壊す」

もともとフレンチの料理人だった田村さんはレストランという場所にとらわれない働き方を模索し、独立。現在はオリジナルブランドを手がけながら、食の未来を広げる活動に取り組んでいます。


田村さんの存在が世に知られるきっかけとなったといわれるプレーンヨーグルトとドライマンゴーのツイート。この他にも家庭料理に役立つツイートを料理人目線で発信している

数年前まではレストランで働くひとりの料理人に過ぎなかった田村さんは、いかにしてネットで発信力・影響力を獲得し、自らの道を歩むことができたのでしょうか。


左から、Mr.CHEESECAKE・田村浩二さん、BASE・鶴岡裕太さん

もうひとり。個人が活躍するためのヒントについて聞いたのが、田村さんも利用しているECプラットフォーム「BASE」の代表・鶴岡裕太さん。鶴岡さんは田村さんのようにビジョンやミッションを掲げ、情報発信するショップオーナーを「オーナーズ」と呼び始めました。

ビジョン、ミッション、情報発信、そして「オーナーズ」……このあたりのキーワードを手がかりに、二人と「一億総発信者時代」の生き方について考えてみましょう。

「Mr.CHEESECAKE」の仕掛け人・田村浩二の生き様を追いかけて

−「Mr.CHEESECAKE」の人気、すごいですね。

田村

ありがとうございます。まぁ、今はブームなんですよね。僕はブームで終わらせるつもりは全くないんです。本当は「チーズケーキといえばMr.CHEESECAKE」と言われるぐらいスタンダードなブランドにしたい。今の時代、新たなチャレンジに美学を感じる部分はあるんですけど、僕はひとつのものを守っていくことも大事だと思うんですよね。

−BASEでも田村さんを特別版CMに起用されています。鶴岡さんから見て「Mr.CHEESECAKE」や田村さん人気の要因は何だと思いますか?

田村淳さんと共演したBASEの特別CM

鶴岡

カッコイイですよね。田村さんのルックスもさることながら、生き方そのものが。チーズケーキはもちろんめちゃめちゃ美味しいし、買おうと思ってもなかなか買えない。運良く買えたときに誰かに食べてもらうと絶対に喜んでもらえる。そうかと思ったら、Twitterを見ればバズっているし……田村さんの理想からしたらまだまだなのかもしれないけど、プロダクトも、ブランドも、つくり手である田村さん自身もカッコイイなんてなかなかありませんからね。

田村

恐縮すぎます(笑)。

鶴岡

もっと言うと、僕は田村さんみたいな人たちこそが、最先端の「起業家」だと思っています。起業家と聞くと近年は「何十億調達した」とか「何百億で会社をバイアウトするぞ」とか言っているような僕を含めたIT関係の人を連想するかもしれません。ですが、田村さんのような人たちと比較するとまだまだのような気がしていて。たとえば田村さんは人生をベットして、世の中の課題を解決しようとしている。もちろんお金は必要なんだけど、お金以上に自分のミッションに軸足を置いている。そういう人たちが、今は最先端にいるんじゃないかと思います。

−田村さんにとって「人生をかけてまで取り組むミッション」とは何なんでしょう?

田村

「食」の可能性を最大化することですね。「食」との繋がりが密接な場所といえばレストランですよね。もちろん、レストランというのは素晴らしい場所です。でも僕にとってレストランという枠は、「食」を広めていくうえで足かせになってしまう気がしたんです。そもそもレストランに来れる人ってかなり限定されますよね。ちょっとおしゃれなフレンチなら1回あたり2万円ぐらいかかって、マナーも求められる。ひとつの店に入れるのは、1日せいぜい20名前後です。僕はある程度フォーマルなレストランを日常的に使う人って、日本人の10%にも満たないと思っていて。その点で言うと、たとえ彼らの心に響く料理をつくったとしても、世の中全体へ影響するわけではないですよね。そうなると生産者の人たちにとって、仮に自分の食材が星付きの有名なシェフたちに認めてもらえたとしても、まず評価されるのはシェフの技術ということになりがち。食材そのものの魅力は伝わりにくい。そもそも、レストランで一人の生産者の食材を大量に使用することは難しいです。そのため、生産者の生活は潤わないし、後継者も育ちにくいという連鎖が生まれてしまう可能性があるんです。

田村

だから僕が、本当にいいものを届けてくれる生産者の価値をちゃんと提示できる場所をつくりたいんです。日本は世界に誇れる食材の宝庫なので。だって、いいものをつくっている人がバカを見るなんて、おかしいじゃないですか。料理人である僕が美味しいといえば、ある程度の食材の価値の指標になるかもしれないし、成分値を出して他の食材と比較して高品質であるエビデンスを示せば、値段が高くても納得してもらえる。ストーリーを含めて料理に興味を持ってもらえる構造をつくることが僕の役目だと思っています。今アイスとか干物とかいろいろつくっているんですけど、アイスをつくりたいというよりも、食材の生産者のことを知ってもらうための媒体がアイスだったという話です。ただ、見せ方は難しくて……いきなりストーリーから伝えていってもウケがよくないんですよね。だから、わかりやすく、食べて美味しいものをつくる。言葉にしちゃうとカンタンですけど、結構ハードルは高いですね。

BASE 鶴岡裕太が提言する「オーナーズ」とは、個人の生き方そのもの

−田村さんの生き方って魅力的だし社会的にも意味があると思うんですが、一方で、組織に属することで得られる安定性を手放すことはリスクのような気もしていて。鶴岡さんはどうお考えですか?

鶴岡

前提として、世の中が共通のモノサシで測れなくなっていますよね。属している企業の売上や組織規模が大きいこと=幸せという時代ではなくなっている。これまでもBASEの事業を説明するとき「中小企業や個人事業主の方がショップを開設してくれる」と話すことが多かったんです。でも、よくよく考えてみたら規模によってショップの価値が決まるわけではないと気付いた。あえて小さいチームを保ち、自信のあるプロダクトでマーケットを選んで戦っている方もいます。そうした方々を中小企業や個人事業主と呼ぶことに違和感を覚えてから、BASEでは田村さんのように意思決定に自身のオーナー権があって、世の中に情報発信している人たちのことを「オーナーズ」と呼ぶことにしました。本来は人間誰しもが自分の意思決定に責任を持っているものです。ただ、企業に属していれば個人の意思決定よりも、決裁者の意思決定が優先される傾向が強く、オーナー権はないといっても過言ではないでしょう。しかし、時代の変化とともに個人の意思決定で社会と関わる人が増えてきています。BASEのユーザー以外にも「オーナーズ」は増えてきていると思っています。お金を儲けることだけが目的ではない今の時代の象徴だといえるのではないでしょうか。

−右肩上がりだけが全てではない、と。しかし、それは組織や人としての成長を停滞させることにはならないんでしょうか?

鶴岡

停滞の定義は人それぞれですし、共通の尺度ももはやなくなっていると思うんですよね。売上が伸びないことを停滞としている人もいるだろうし、売上が伸びていても既存商品の制作や販売に対応するのが手一杯で新商品を生み出せないことが停滞だと思う人もいる。数に追われて商品のクオリティを保てないことを停滞と呼ぶ人もいるでしょう。何のためにやっているのか。ビジョンやミッション自体が多様化しているので、停滞の要因もそれぞれの価値観に紐付いてくるんじゃないでしょうか。今の時代、お金がなくなっても死ぬわけじゃない。そして、お金はもちろん大事だけど、それだけでは満足できない、人生の楽しさは見出せない気がしていて。そのあたりの幸せの価値観みたいなものは、ものすごく多様化していると思います。

−そのあたりは田村さんも共感できるポイントが?

田村

そうですね。僕は当事者なのでまだ鶴岡さんほど達観できないし、ちょっと違うタイプだと思うんですが、BASEを使い始めた理由と重なる部分です。もともとはInstagramのストーリー機能を使ってチーズケーキを販売していたんです。注文はInstagramのDMで受けていたのですが、ありがたいことに口コミで広がっていって、DMでは対応しきれなくなった。知り合いに相談したところ、紹介してくれたのがBASEでした。BASEを始めてから、受注の対応を代わりにやってくれたので僕はものづくりに専念できるようになった。でも、売れれば売れるほどひとりではまかないきれなくなります。そうなると、ある程度売り上げを伸ばして、チームも大きくしていかなければいけない。僕はチーズケーキをつくりたくて始めたのに、いつのまにか売上を意識しなければいけない環境になっているんです。ビジネスマンとしては売上が伸びること=正義なんですけど、料理人のような食品の世界では売上が伸びることをなかなか評価してもらいづらい部分がある。結局「手を抜いた」とか、「お金に走った」とか言われやすい世界なので、今も葛藤を抱えています。

−まだ答えは出ていない?

田村

全然消化しきれていないです。消化できていたら料理人の世界のことは考えずに「俺の生き方最高!」って言ってると思うんですよ。自分を育ててくれた業界だし、料理人の気持ちもわかる。知り合いの料理人たちを見ていると羨ましいし、キッチンにこもって生きられるのなら、それはそれで幸せを感じると思うんですよ。かといって、いつまでも業界の風習に縛られるのがイヤな自分もいるし、自分をきっかけに動きが起きたらおもしろいとも考えています。とはいえ、尊敬している料理人たちに「あいつはダメだ」みたいに言われるのはショックですよ。僕こんな見た目なので目立つし、イケイケだと思われるんですが、全然そんなことなくて。いつも「そんなに悪口は言わないで……」って思ってます(苦笑)。

結局「あきらめないこと」、ここに尽きる

−鶴岡さんにお聞きしたいんですが、田村さんのような「オーナーズ」たちの共通項ってありますか?

鶴岡

うーん……プロダクトやミッションに重きを置いているところ、ぐらいですね。逆の言い方をすると、明らかな共通項はないのかもしれない。一昔前だと、仕入れている商品がほとんど同じで、ラインナップが似たり寄ったりのモール型のネットショップはたくさんありました。一方、BASEには60万のショップ(2019年1月現在)がありますが、生産者や職人、クリエイターがそれぞれに自分がつくったものを販売しているので、ほとんど商品がかぶらない。言うなれば、”小さな経済圏”が60万個存在しているわけです。田村さんは「BASEのおかげ」と話してくれましたが、大きな経済圏で戦わなくてもいい世界はインターネットが実現してくれたものです。田村さん自身も、もともとInstagramやブログで情報発信をして自分だけの経済圏をつくっているので。今後さらに「こういう人しか上手に商売できない」や「こういう商品しか世の中では売れない」といった尺度はひとつずつ崩れていくでしょう。

−情報発信していても田村さんのように影響力を持てるケースってすごくレアだと思っていて。これから発信していきたい人はどうすればいいと思いますか?

田村

僕も全然だったんですよ。2018年1月時点で、Twitterのフォロワーは30人くらい(笑)。何も考えずに運用していました。たまたま「ドライマンゴーをヨーグルトに漬けると美味しい」というツイートがバズって、急にフォロワーが増えたのが5月の終わりぐらい。チーズケーキが広まりはじめたのも同じタイミングですね。

田村

バズってもTwitterのフォロワーって増えづらいそうですね。僕もそれまで全然ダメだったんですが、「昆布出汁のとり方」などの家庭でも使える料理の豆知識を、料理人視点でツイートするとフォロワーが増えることに気づいて。自分の能力を世の中にアジャストするということを考えた結果、バズにつながりました。周りからはいろいろ言われますよ。「ブランディングとしてどうなの?」とか「シェフなんだからこんなことしなくても」とか。でも、それって今までの価値観じゃないですか。「料理人は職人だから!」と仕事の幅を狭めるのは逆にダサい。レストランのお客さんだけではなく、Twitterのユーザーにも言葉を変えて伝えられる料理人のほうがプロフェッショナルだと思うんですけどね。ま、料理人仲間にはなかなか理解されない(笑)。もう少し根っこの話をするとしたら、僕の場合は独立して「やらざるを得ない状況だった」という点が大きいと思います。料理人は語らない方がカッコイイみたいな風潮もありますが、僕は全くなかった。知ってもらわないと何もできないから、とにかく必死でしたね。もし今の僕にそれなりの発信力があるとしたら、根元にあるのは間違いなく必死さです。

鶴岡

「あきらめない」。ここに尽きるのかもしれませんね。田村さんもどこかであきらめていたら、今はないわけなので。良いものをつくっている自信があるなら、やり続ける。良いものをつくっている人がやり続けるために、僕らBASEやインターネット企業は存在すると思っています。ユーザーの皆さんの「良いものをつくっている」という自負が、需要にもつながっていきます。個人の発信力を強化していく方法を模索しながら、皆さんがリスクなくものづくりに向き合えるような仕組みづくりに努めていきたいです。

区切り線

「売上を伸ばすことが悪い、という話ではないんですよね」

取材終了後、鶴岡さんはこうつぶやきました。確かにお二人の話を聞いていると「売上は考えず、ミッションを大事にしなくてはいけない」という印象を抱いてしまいがち。

しかし、田村さんも鶴岡さんも「〜べき」とは一言も発していません。

「こうあるべき」という意見に頼ってしまうのは、ついどこかに答えを求めてしまう人間の弱さなのかもしれません。かくいう取材者自身も、インタビューでは常にお二人に答えを求め続けていたような気がします。

誰もが発信者となり、情報が氾濫している時代だからこそ「自分」を持ち続けること、そしていろんな価値観を受け入れることの意味合いが増してきているのではないでしょうか。

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書いた人 : 田中 嘉人

1983年生まれ。静岡県出身。静岡文化芸術大学大学院修了後、2008年にエン・ジャパンへ入社。求人広告のコピーライターとしてキャリアをスタートする。その後、Webメディア編集チームへ異動。CAREER HACKをはじめとするWebメディアの編集・執筆に関わる。2017年5月1日、ライター/編集者として独立。

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