ニッポン放送・吉田尚記に聞く「問題だらけ」のラジオ考

なぜ、ラジオは生き残っているのか。

2018年2月に電通が発表した『2017年 日本の広告費』が興味深い。

テレビ・新聞・雑誌の広告費は軒並み前年割れする一方、インターネットの広告費は4年連続で2桁成長。日本の広告費の1/4をインターネットが占めるまでになった。

しかし、ここで注目したいのがラジオの広告費だ。テレビ・新聞・雑誌と異なり、2年連続でプラスの推移をしているのだ。インターネットの台頭とともにテレビ離れ、新聞離れが叫ばれてきたなかで、ラジオが今力をつけ始めている。

今の時代でラジオが注目されるきっかけとなったのは《radiko》の存在だろう。特に全国のラジオ番組を聴けるエリアフリー機能、聴き逃しに対応したタイムフリー機能が話題になり、10代のリスナーが増えている。

また、広義の音声メディアという意味では《Voicy》の台頭も無視できない。”声のブログ”と呼ばれ、起業家やインフルエンサーが積極的に番組を配信。映像でもテキストでもなく「音声から情報を得る」という文化を醸成しつつある。

その他のメディアが試行錯誤しながら生き残りを図っているなかで、なぜラジオは消えないのか。それどころかじわじわと勢力を伸ばしているのはなぜなのか。

こんな疑問を胸に訪れたのは、東京・有楽町のニッポン放送。


ニッポン放送・吉田尚記アナウンサー。1999年4月、ニッポン放送入社。2012年5月には第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞を受賞

同局のアナウンサー・吉田尚記(よしだ・ひさのり)さんは、本業の傍ら、ビジネス書を出版したり、イベントの司会をやったり、マンガ大賞を企画したり、DJや落語をやったり……と、とにかくマルチに活動している。

2017年には、クラウドファンディングで全方位型ラジオ『Hint(ヒント)』の開発を主導。”ラジオ局が作る本気のラジオ”と銘打って告知され、支援金は当時、クラウドファンディング・ プラットフォーム「CAMPFIRE」の最高金額である3000万円に届いた。


全方位の「声」の聴きやすさにこだわった音質、ワイドFM対応(AMラジオの放送がFMのクリアなサウンドで聴ける)、Bluetoothスピーカーとしても利用できるといった点がHintの特長だ

クラウドファンディングの成功によって掘り起こされたようにも見える、ラジオの潜在的価値。業界の第一線に身を置く吉田さんに「ラジオのこれから」を聞いてきた。ラジオの未来を占ううえで、Hintの存在は大きな手がかりになるはずだ。

ラジオには価値がある。言語化できていないだけ

ここ最近、ラジオ業界を取り巻く環境が変化してきている印象を受けます。吉田さんから見ていかがですか?

実は、現場ではそれほど手応えはありません。

データをみるとわかりやすいのですが、2016年3月にNHK放送文化研究所が発表した調査結果によると、国内で1週間に5分以上ラジオを視聴した人の割合を示す週間接触者率は約37%でした。一方、欧米の週間接触者率は90%以上。日本人はあまりラジオを聴かないといえるわけです。

ラジオ文化の成熟度という面でも、日本と欧米の差は明らか。日本では「好きなパーソナリティーは誰ですか?」と聞かれてもピンとこない人がほとんどですが、欧米では「好きなミュージシャンは誰ですか?」という質問と同じレベルで成立するほどです。

欧米ではラジオが聴かれているのに、日本では聴かれていない……でも僕は、聴かれていないからこそラジオは日本の成長産業だと思うんです。

ラジオって、テレビが登場してから60年以上も「10年後にラジオは終わる」って言われ続けてきました。でも、一度としてラジオの明かりが消えたことはなかった。生き残り続けてきたのは、やっぱり普遍的な価値があるからだと思います。

では、なぜ日本ではラジオが聴かれないのでしょうか?

価値の言語化ができていないという理由は大きいと思います。わかりやすいカタチで価値が言語化されていなければ、今までラジオを聴いていなかった人を急に振り向かせることはできませんよね。

「じゃあ誰が言語化するべきか」と問われたら、やはり僕たちラジオ局への期待は大きいはずです。価値を言語化するためにいろいろやってきたつもりではいるけど、どこかで見落としがあったんじゃないか。正解はわからないけど、今までどおりじゃダメだ、と。

ラジオには寂しさを打ち消す不思議な力がある

では、なぜHintを開発しようと?

実は、Hintの開発も「ラジオの価値を言語化したい」という想いが原点にあります。きっかけは、ラジオが聴かれない原因のひとつがハードウェアそのものにあると考えたことです。

100年近いラジオの歴史のなかで、ハードウェアとしてのカタチって大きくは変わっていないんですよ。そのことに気付いて「なんでこのカタチのままなんだろう?」、「メーカーはちゃんと考えてきたのか?」って。

100年前は技術的な制約があったかもしれないけど、今は時代が違う。だから、知り合いだったデザイナー/造形作家のメチクロさんに「新しいラジオをつくってみたい」と相談したんです。そしたら彼、何て言ったと思います?

え!?……う、うーん、なんでしょう……??

「ラジオって何ですか?」だったんです。

恥ずかしながら、僕は考えたことなかったんですよ。それからは常に「ラジオとは何か?」を考え続けるようになりました。そう考えるとラジオの不思議さに気付くようになって。

たとえば、「自分が持っているCDの曲がラジオでかかると嬉しい」とか、「テレビ嫌いのタレントさんはいるけど、ラジオ嫌いのタレントさんって実はあまりいない」とか。

あと、ラジオ局に一番多い問い合わせって「この番組は生放送ですか?」なんです。そこで「はい」と答えるとものすごく喜んでもらえるんですが、「いいえ」と答えるとがっかりされる。

自分の経験をフル動員して考えた結果、もしかしたらラジオって寂しさを消す装置なんじゃないかという仮説にたどり着いたんです。

たしかに!ただ音楽を聴くよりもラジオを聴いたほうが寂しくないですね。

ですよね。ひとりで番組を聴いていても、自分以外の誰かと共有している感覚がある。

寂しさを消す装置ということは、つまりは気配を発生させる装置だと考え、メチクロさんに再提案しました。それから「全方位スピーカーを搭載しよう」や「人の声がよく聴こえるようにチューニングを合わせよう」といった議論の末、今の機能に行き着いたわけです。

Hintという名称も、「気配」という言葉の英訳に由来しています。それに、ラジオの場合、アンサーというよりもヒントをくれるメディアという印象のほうが強いですからね。

クラウドファンディングは市場調査

開発するにあたり、クラウドファンディングを利用した狙いは何だったんですか?

市場調査のためですね。全方位型ラジオなんて、この世にありません。だから市場から求められているかどうかを確かめるために、クラウドファンディングを利用しました。

製品の開発に必要な資金を試算すると、「これだけ集まればつくれる」というラインが1300万円。最初は達成するか不安でしたが、トータルで3000万円もの出資をいただきました。出資いただいたことも嬉しかったけど、市場性があることがわかってよかったですね。ラジオに可能性を感じた人がそれだけいたんだな、と。

3000万円って、当時のCAMPFIREのプロジェクトのなかで最高金額ですよね。

そうですね。そのあとすぐ、キングコングの西野亮廣さんに抜かれましたけど(笑)。

吉田さんにとってプロジェクトに出資してくれたみなさんはどういう存在なんですか?

超ありがたいお客さんです。むしろ同志と呼んだ方が近いかもしれませんね。

だから、喜んでもらえるようにリターンにはユニークなものを用意しました。たとえば「吉田モデル」に出資してくれた方には、日本全国どこでも僕が届けに行くという。近いところだと東京の大井町、地方だと宮城の仙台、長野、鳥取の山のなかにも届けに行きましたね。相手も喜んでくれましたが、僕もいろんな地域の方がラジオを聴いていることを知れて嬉しかったです。

吉田さんがそこまでラジオに情熱を注げる理由は何なんですか?昔からラジオが好きでアナウンサーになった、とか?

ラジオのアナウンサーになれたのは偶然です。もともとメディアが好きだったので、就職活動では出版社を受けたんですけど、なぜかラジオ局のアナウンサーに受かってしまったという(笑)。

ただ、アナウンサー業をやるなかでラジオのおもしろさにも気付きましたね。メディアの役割って「調べて、まとめて、伝える」だと思うんですが、ラジオのアナウンサーはすべて自分でできるんですよ。メディアの原点というか。

テレビだとひとつの番組に数百人が関わっていることもザラです。でも、ラジオならパーソナリティーとディレクター、音声、放送作家、ADがいれば、だいたいのことはできますからね。全国放送の「オールナイトニッポン」でも3人でやっていることがありますから。裁量があり、かつスタッフと膝を突き合わせながら「こういうのやったらおもしろそう!」というやり取りから番組ができてしまうのは、ラジオの特長かもしれませんね。

そういう意味では、「ラジオの価値」のひとつですね。

あ、言語化できましたね(笑)。

やっぱりねぇ、ラジオはおもしろいですよ。抜群に。リスナーにおもしろいと思ってもらったときの影響力の大きさは計り知れない。クラウドファンディングでの大成功がわかりやすい例ですよね。もしかしたら、世界を動かすこともできるんじゃないかと思います。逆につまらなければ波風ひとつ立たない。

インターネットのカルチャーに近いのでしょうか?

共通点はあると思います。僕も以前は『ツイッターってラジオだ!』という本を出版しましたから。

でも、今のTwitterはテレビ的になってきているような気がしていて。たとえば有名なタレントさんがTwitterで「俺は今タバコを吸いたい」って呟いたらきっとクソリプの嵐ですよ。テレビも同様。でも、ラジオだと自然に受け入れられる。

理由は、リスナーがパーソナリティーであるタレントさんの全てを受け入れてくれているからだと思っていて。パーソナリティーとリスナーの仲間意識が強いし、つながりも感じている。だから、他のメディアと比べて、あまりギスギスしないんじゃないでしょうか。

ラジオは問題だらけ。だから、おもしろい

これからのラジオについて吉田さんの考えを聞かせてください。最近ではVoicyが話題ですが……。

おもしろいと思ったのが、Voicy代表の緒方憲太郎さんって元々ベンチャー企業のコンサルティングをやっていたんですよね。ありとあらゆるテクノロジーやメディアを見てきた人が新しく立ち上げたのが、音声サービスだったという。

僕も緒方さんに話を聞きに行ったんです。すると「音声は相当な可能性があるのに、誰も本気で取り組んでいない」とか「映像や紙は難しいけど、音声なら24時間触れていることができる」とか「場所を問わない」とか、音声メディアの魅力について語ってくれました。そして「この市場を全部取れたらでかい」と。

今後、Voicy以外にも、新しいラジオサービスがネットを介して生まれるはずです。ジワジワと、みんながラジオを聴く時代がきてほしいと思いますね。

ということは、ラジオの将来も明るいと……?

いやいや、今のままではダメですよ。確かにradikoのおかげで10代の聴取率は上がったけど、雑誌でラジオ特集を組んでもらって喜んでいるうちはまだまだ。今どき、「これからはネットの時代」なんて特集を組んでいる雑誌はないわけですから。ラジオ局が「懐かしのラジオ」なんてフレーズを発信したら終わりですよ。

他にも課題はたくさんあると思います。ひとつはVoicyの緒方さんが言っていたんですが「ラジオは聴く訓練が必要だ」ということ。特に20代はあまりラジオに触れてこなかったせいか、Voicyでも「聴こうと思ったけど無理だった。1分にまとめて」というコメントがありました。確かに内容を1分にまとめられたら効率的だけど、ラジオには情報プラスαの”栄養”みたいなものがあります。それ取り逃がすのは、とてももったいない。

もうひとつの問題が、ラジオ業界にスターを生み出す仕組みがないこと。業界全体で「この人をスターにしよう」という流れがないから、世の中を動かすほどのムーブメントにならない。たとえば、小説になるほど人気があった『アルコ&ピースのオールナイトニッポン』をみんなでもっと盛り上げることもできたと思うんですよね。

僕もいちリスナーとして『アルコ&ピースのオールナイトニッポン』が終わったときは正直ショックでした……テレビでは見せない二人のやり取りとか、リスナーからのネタ投稿とか、めちゃめちゃおもしろかったので……。

TBSラジオで番組を続けているのも、彼らのなかの”光るもの”を見ている人がいたからだと思うんですよね。このようにラジオ業界全体を巻き込んだ動きをもっと明確にしていったほうがいいと考えています。

確かにそのほうがラジオそのものがおもしろくなりそうですね。では、最後にお聞きしたいんですが、吉田さん自身は今後ラジオとどのように関わっていこうと?

これまで以上にラジオの価値を掘り起こしていきたいですね。具体的には、日常的に「今キテいるラジオ番組は?」という会話が行なわれるような文化を醸成していきたい。

そのために、今ツイキャスで全国各地のおもしろいラジオ番組を紹介する『ラジオ情報センター』という配信をやっています。

すると、全国のリスナーからおもしろいラジオ情報が届くんですよ。「愛媛では芸人の友近さんのお母さんがラジオをやっている」とか、「新潟の『宝石みのわ』がスポンサードしている番組のプレゼントは超豪華」とか。

すごくおもしろそうなのに、全く共有されていないじゃないですか。もったいなさすぎる。

課題はたくさんある、と……。

でも、課題があるからこそ楽しめるんですよ。

近著『没頭力』でも触れたのですが、何かに没頭して楽しめるようになるまでって、最初は問題に直面したり不安な気持ちを抱いたりするものなんです。

やっているうちに開き直って、徐々にのめりこんでいく。だからこそ、問題だらけなラジオを楽しめているんでしょうね。言語化されていないラジオの価値を明らかにするために、これからも試行錯誤していこうと思います。

ネットがギスギスしている時代だからこそ、今後ラジオに居場所を求める人が増えていくのかもしれませんね。吉田さんが切り拓いていく「ラジオのこれから」が本当に楽しみです。今日はありがとうございました。

区切り線

この取材の数日後、吉田さんが構成作家・ライターのやきそばかおるさん、放送作家のシオンJr.さんと配信する『ラジオ情報センター』の収録を見学させてもらった。

全国のリスナーから寄せられるローカルなラジオ番組は、聴いたことはなくてもおもしろいものばかり。ラジオのおもしろさ、奥深さ、可能性をあらためて体感することができた。

同時に、ラジオを愛するリスナーたちの存在にも気付かされた。

顔も名前も知らない誰かと時間を共有できるラジオという”空間”は、とても居心地がいい。ラジオが醸し出す独特の温かさも、吉田さんを没頭させる理由のひとつなのかもしれない。

ラジオ局が本気で作る、今までにないラジオ【Hint(ヒント)】
  • 支援総額/目標
    3045万5500円/1300万円
  • 内容
    「カッコいいラジオが欲しい」 ニッポン放送アナウンサー吉田尚記がつぶやいたこの一言から「Hint(ヒント)」の開発は始まりました。 ニッポン放送、Cerevo、グッドスマイルカンパニー。分野の異なる3社のコラボレーションにより、まったく新しいラジオの形が誕生しました。

書いた人 : 田中 嘉人

1983年生まれ。静岡県出身。静岡文化芸術大学大学院修了後、2008年にエン・ジャパンへ入社。求人広告のコピーライターとしてキャリアをスタートする。その後、Webメディア編集チームへ異動。CAREER HACKをはじめとするWebメディアの編集・執筆に関わる。2017年5月1日、ライター/編集者として独立。

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