フードロス? 恵方巻の大量廃棄? 八百屋のセガレが挑む社会問題

答えはまだない。でも、目を背けてはいけない。

毎年1月下旬頃から、スーパーやコンビニの店頭を彩る恵方巻き。

もともと恵方巻きは関西の文化だったが、今では全国的に浸透。年を重ねるごとにイベント化していき、店頭には大きなPOPが用意され、バリエーション豊かな恵方巻きが並ぶ。時代は、豆まきよりも恵方巻きなのかもしれない。

しかし、2016年頃から恵方巻きにまつわるある問題への提言がSNSで拡散された。

売れ残った恵方巻きの大量廃棄、「フードロス問題」だ。その流れは、2017年、2018年とさらに加熱。メディアなどで取り上げられるケースも増えた。

フードロスという言葉の認知度は一気に上がった。しかし、果たして問題は節分の時期だけのものなのだろうか。

「フードロスが起きるのは、何も節分のときだけじゃない。もっと身近なところで日常的に起きている」

こう警鐘を鳴らすのは、京都市下京区で90年の歴史を誇る青果店 『西喜(にしき)商店』の4代目:近藤貴馬(こんどう とおま)さん。大学卒業後、大手ゲーム会社『セガ』へ就職し、営業として実績を積んだ。しかし、その後Uターンを決意。家業である青果店を経営しながら、”日常的に起きるフードロス”の解決にも取り組んでいる。

なぜ近藤さんはフードロス問題の解決に取り組むことになったのか。青果店で日常的に起きているフードロスとは。そして、今どんな策を講じているのか。話は流通の仕組みから、貧困問題にまで及んだ。

4代目は、元セガの営業!?

本題に入る前に、近藤さんについて教えてください。キャリアがめちゃめちゃユニークですよね。大学卒業して入社したのがゲーム会社の『セガ』……なぜ実家を継ぐことに?

セガには営業として入社したんですが、あまり会社の業績がよくなかったんです。いろいろ頑張ったんですが、お世話になった上司や先輩も退職することになってしまって……。

そんなとき、世の中的に都会から地方へ移住する人が増えてきたんです。地方移住のムーブメントを目の当たりにし、営業としての自信もついてきたことから、「今までの経験を活かして実家で野菜売るのもおもしろそうだな」と。セガへ入社するときは家業を継ぐことをまったく考えていなかったので、周りも驚いてましたね。

やはり、家業を守りたいという気持ちが……?

それもありますし、自分の裁量で自由に働けたほうが自分らしくておもしろそうという好奇心も強かったですね。だから、堅実な経営をしていた父からは継ぐことを猛反対されました(笑)。

説得にはかなり時間がかかりましたが、その間に『地元カンパニー』という地域活性化に関わる会社でキャリアを積んで、無事戻ってきたというわけです。

具体的にはどんなことから始めたんですか?

わかりやすいのが小売のチャネルをつくったということですね。

実は祖父が小売をやっていたんですが、父の代でやめていたんです。滋賀県にある競走馬のトレーニングセンターとの取引があったので、競走馬の飼料用野菜の売上だけで家族を養っていました。

でも、最近は競走馬の栄養もサプリメントで補給できるようになり、取引が減ってきていたんです。そんなときに僕が店を継いで「あらゆる販路をイチから開拓しよう」ということで小売を再開しました。店舗も長年使用していなかったので、壁を塗り直したり、照明を取り付けたりも全部自分で。

その甲斐あってかわからないですが、今ではたくさんのお客さんに足を運んでもらえるようになりました。

貴馬さん自身は小売の経験がないのに、数年で地域に愛されるお店に!?

やっていることはいたってシンプルですよ。

1つは卸売市場との距離の近さと父親の目利き力を活かし、安く商品を仕入れてくること。まずお客さんに興味をもってもらわないと始まらないので。もう1つは味がいい野菜を仕入れていること。京都産にこだわらず、地元カンパニー時代に培った縁を活かして、全国から美味しい野菜を仕入れています。

小売以外に飲食店向け販売やオンラインショップも手がけているのはなぜですか?

小売も順調ですがやはり限界がある。そうなると、やはりtoBは外せません。オンラインショップはなかなか動かせていませんが、toB向け顧客の獲得につながればいいなと思っています。

本音を言えば、損はしたくない。でも……

なぜ青果店を経営しながらフードロス問題に乗り出すことに?

八百屋を始めてから「これ、もったいないな」と思うことが多々ありまして。

たとえば夏場。傷みやすい葉物野菜などが卸売市場で宙ぶらりんになっていることがあるんですよね。スーパーへの納品のタイミングですでに傷んでいたから返品されたとか、買い手がつかなくて余っているといった理由で。

廃棄寸前の野菜って通常よりも安く仕入れることはできるんですが、その量が度を超えているので、結局ウチでも廃棄してしまう。要は、供給に対して需要が追いついていない状況です。

野菜の収穫量は天候に左右されるから、農家さんもコントロールできない。出荷量は仲卸業者と調整して決められるのですが、町の小売店でどれだけ売れるかなんて予想できない。需要と供給のバランスを完璧に保つことはそもそも無理なんです。

でも、結局損をかぶるのは自分たちのような小売店なんですよね。

西喜商店さんが? どういうことですか?

卸売市場で取引している野菜のフードロス問題って、小売店か問屋さんが被害者なんですよ。農家さんはすでに“市場に卸しているから”、損はしませんよね。

そうなると、農家さんから仕入れた野菜が廃棄寸前で買い手を見つけられない問屋さんか、廃棄寸前で安く仕入れた野菜を安く売ったところで利益にはならない小売店が一番ダメージを受けるんです。あたりまえですが、僕も商売をしているので損はしたくない。かといって身銭を切って善意で売るほどの余裕もない。

このあたりのジレンマをブログに書いて発信したことが、フードロス問題に取り組み始めた最初の一歩です。反響はかなりあって、「私も」と同調してくれる人は多かったですね。

誤解を恐れずにいうと、タイミングが良かったと思います。恵方巻きのときに話題になっていたので、「フードロス」という言葉はみんな潜在的に記憶していたし、ぼんやりと課題感は抱いていた。だから、時間が経ってから投稿された僕のブログが記憶を掘り起こし、共感を呼んだんだと思います。

具体的にはどんなことに取り組んでいるんですか?

2017年に始めたばかりなのでまだまだ実績は少ないのですが、『さらえるキッチン』というイベントを企画・開催しました。

ゲストシェフを招き、廃棄寸前の食材を使い切って最高の料理をつくってもらって、みんなで食べよう。そして、とにかくフードロスについて知ってもらおう、という内容です。

食材は西喜商店の野菜、果物に加え、趣旨に賛同して企画段階から一緒に協力してくれた佃煮店『津乃吉』の煮汁や販売できなくなった商品、使い道のない原材料などですね。結構盛り上がりました。

『さらえるキッチン』の様子

もう1つは、まちづくり系のイベントに登壇してフードロス問題について講演したことですね。規模や影響力は小さいですが、いずれもブログがきっかけになったので、情報発信の大切さを実感しました。

フードロスと貧困のつながり

フードロス問題に関わるようになって何か考え方に変化ってありました?

日本の貧困問題については深く考えるようになりましたね。実はフードロス問題と貧困問題はつながっているんじゃないかというのが、僕の仮説です。

というと?

小売の仕事をしているとわかりやすいんですが、お金があるお客さんは無農薬や有機栽培の野菜を買っていきます。

しかし、ベビーカーをひいてやってくる若い女性のお客さんのなかには、廃棄寸前で仕入れた見切り品しか買わない人もいる。見切り品は商品全体の5%にも満たないんですが、きっと他の商品は買えないんです。もしかしたら、彼女はシングルマザーで食事代を切り詰めなきゃいけない状況なのかもしれない……とかを考えるようになるんですよね。

もしかしたら「日本で貧困?」と驚く人もいるかもしれませんが、小売の現場では確実に問題が起こっている。それを肌で感じているんです。

貧富の格差が、普段の食生活に現れるということなんですね。

一方で卸売市場で野菜が廃棄されるほど余っている状況も目の当たりにしていると、やっぱり戸惑うんですよね。「なぜこんなことになってしまうんだろう」って。だから、この2つの社会問題をうまくつなげれば、もしかしたら一挙に解決できるのかもしれない。今は、そんなことを考えています。

フードロス問題への取り組みは、今後の西喜商店にとってどんな位置づけになってくるんですか?

はっきりとした答えは出ていません。

正直、事業化は難しいですよね。とはいえ、あまり発信しすぎても「見切り品ばかり売っている青果店だ」と思われてしまうのでキツイ。だから、あくまでも本業とは別に粛々とやっていくしかないんだと思います。がんばるから応援してほしいですね(笑)。

当然西喜商店にとっても意味があることだとは思っています。こういう取り組みって、大企業はなかなかできないんですよ。「売れる分しか入荷しません」と宣言するのは相当勇気がいるので。でも、ウチのような個人商店ならやりやすい。需要と供給のバランスが崩れそうになっても、お客さん一人ひとりとコミュニケーションをとれる。たとえば「安くするから、この野菜も買ってよ」というやり取りをしながら解決していけると思います。

「個人商店ができることなんて、たかが知れてる」って笑われるかもしれないけど、それは承知のうえです。西喜商店から消費者の意識が変わって、いずれ大きい流通のところが変わってくれればいいな、と思います。

区切り線

「フードロス問題の解決に近道はない。地道にやっていくしかないんだと思います」

最後に、近藤さんはこのように結んでくれた。

確かにフードロスばかりに注力すると事業として成立しないし、かといって売上重視になってしまうと今まで以上に野菜を廃棄することになってしまう。バランスをとりながら、着実にやっていくしかないのかもしれない。

いばらの道をあえて突き進む近藤さん。しかし、第一線にいるからこそ見える景色が必ずある。近藤さんのまなざしをきっかけに流通全体が変わっていく未来を信じたい。

店データ
  • 青果 西喜商店 〜創業九十年ずっとおいしい八百屋〜
  • 京都で90年の歴史をほこる八百屋、 青果 西喜(にしき)商店です。 はる なつ あき ふゆ 季節のおいしい野菜と果物を 目利きの優れた三代目の父と四代目のセガレが買い付け、 心をこめて、お届けしております。

書いた人 : 田中 嘉人

1983年生まれ。静岡県出身。静岡文化芸術大学大学院修了後、2008年にエン・ジャパンへ入社。求人広告のコピーライターとしてキャリアをスタートする。その後、Webメディア編集チームへ異動。CAREER HACKをはじめとするWebメディアの編集・執筆に関わる。2017年5月1日、ライター/編集者として独立。

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