「知って食べると超美味い!」ポケットマルシェが再定義する『食』の関係

30年後、僕らは誰の作った何を食べているのか?

ここに1本の大根がある。近所のスーパーで購入した、なんの変哲もない、ただの大根だ。

今日、スーパーのたいていの商品には産地表示がしてあるから、これが何県で採れた大根なのかというのは一応は分かる。けれども考えてみれば、「●●県産」というのはかなりざっくりとした情報だ。

その県のどの地域で採れたのかまでは分からないし、またそのことが何を意味するのかはもっと分からない。まして、その地域のなんという名前の農家さんが、どんな思いでこの大根を作ったのかというのは知る由もない。

そんなこと知らなくたっていい。そう思うこともある。美味ければいい。安全そうならいい。食べたい時に、食べたいぶんだけ食べられれば、それでいいじゃないか。そう考える人は、僕の他にも結構多いのかもしれない。

でも、そういう人であってもちょっと考えを巡らせてみるべきなのは、そうした「普通」が、いつまで「普通」であり続けるのかということだ。

この先もそういう美味くて安全そうな大根を食べ続けることができるかどうかは、目の前にあるこの大根を作ったのが誰なのかを知ることに懸かっている。もしそうだとすれば、話は大きく変わってくるのではないだろうか。

30年後、僕らは誰の作った何を食べているのか?

『ポケットマルシェ(ポケマル)』は、スマホ一つで、日本各地の農家さん漁師さんから直接、旬の食べ物を買えるという産直アプリだ。

生産者直送ならではの新鮮な野菜や魚介類が買えるというのはもちろん、生産者との会話を通して、産地を身近に感じることができるというのが特徴という。

なぜ、生産者と会話をすること、産地を身近に感じることが、僕ら消費者にとって重要なのか。取締役COOの本間勇輝さんに話を聞いた。

プロフィール
本間勇輝(ほんま・ゆうき)
株式会社ポケットマルシェ取締役/COO、一般社団法人 日本食べる通信リーグ理事。富士通を退社後、モバイル・ベンチャーの創業に従事。2009年より妻と二人で世界一周。2011年秋に帰国し、特定非営利活動法人HUGを設立。2012年『東北復興新聞』創刊、2013年に『東北食べる通信』創刊。2016年、スマホアプリ「ポケットマルシェ」をリリース。著書に『ソーシャルトラベル -旅ときどき社会貢献』(U-CAN)ほか。1978年生まれ。2児の父。

本間さんはどうして「ポケマル」というサービスをやることになったんですか?

それを話すには、前段にある『東北食べる通信』というサービスについて触れないわけにはいかないので。まずはそこからでいいですか?

直接的なきっかけは6年前の東日本大震災です。ご存知のように被災地の一次産業は壊滅的な打撃を受けました。岩手・宮城・福島にとって、一次産業は基幹産業。それがひどいダメージを受けたということで、これはと思って目を向けたのが始まりでした。

それ以前から大まかには知っていたこととはいえ、改めてデータで見ると、一次産業の現在を示す、その数字があまりに衝撃的で……。

どんな数字だったんですか?

現在、農業就業人口は約190万人なんですけど、1970年には約1000万人だったんです。つまり、この50年足らずで5分の1以下まで急激に減っているんですよ!

しかも、平均年齢は67歳。49歳以下は21万人、39歳以下に至っては12万人しかいないんです。


農業の就業人口を示した図(ポケットマルシェ提供)

想像以上に急激に、減少と高齢化が進んでいるんですね。

現時点でこうだとすると、30年後には一体どうなっているのか? 僕らや僕らの子供たちは、一体誰の作った何を食べているのか? 根本には、こうした課題意識があります。

ポケットマルシェ代表の高橋(博之さん)はもともと岩手県議会議員で、以前からこうした問題に取り組んでいました。そこに僕らのような都会から来た人間が加わり、4年前に事業として始めたのが「東北食べる通信」です。

超高齢化の原因はどこにあるんでしょう?

要因はいろいろあると思いますが、少なくとも農家や漁師の子供が親の跡を継いでいれば、ここまで急激な変化にはなっていないと思います。

なぜ継がないのか、もしくは継げと言わないのか。キツいとか汚いとか稼げないとか、いろいろな意見がありますが、僕らはそのすべての根っこに「食べる人と作る人の乖離」という課題があると思ってまして。

食べる人と作る人の乖離?

例えば友達が脱サラして農園を始めたと言って、野菜を送ってくれたら、それを値切る人はいないですよね? それが美味しかったら、あえてスーパーの安い野菜を選ぶという人も少ないでしょうし、現地を訪れて種や栽培方法のこだわりなんか知ったら、別の友達に宣伝してしまうかもしれません。

要は、消費者が値切ったり、より安い方を選んだりするというのは、「誰が」「どこで」「どのように」「どんな思いで」……そういった「情報」がないからだと思うんです。何も知らなければ、値段や見た目でしか選べないのは当然です。

以前は新鮮なものって、その地域でしか食えなかったんですよね。それがクール宅急便のような流通システムができたがゆえに、都市に居続けても食べられるようになった。便利さの結果、つくる人と食べる人の距離は離れ、関係性と情報が分断されてしまった。

だから、その両者の関係を再び紡ぎ直しましょう、食べ物が「情報」とともに流通する場をつくりましょう、と。これが「食べる通信」であり、その延長上にある「ポケマル」で僕らがやろうとしていることなんです。たまに、お気に入りの農家さん漁師さんが見つかる「出会い系」なんて言われることもあります(笑)。

「顔の見える関係」が、一次産業に誇りを取り戻す


地域の生産者を取材した8000文字の特集記事からなる冊子と、その冊子に登場する生産者が作った食べ物とをセットで販売するサービス「東北食べる通信」。月額定額2580円で、月に1回、編集長がキュレーションした食べ物が自動的に届く

具体的にはどんな方法で両者をつなごうとしているんですか?

簡単に言えば、「食べ物のルーツを知って食べる豊かさ」の提案です。

「食べる通信」の月額2580円のうち、食材の代金は600円程度。普通にスーパーで買うのと比べるとかなり高いですが、満足度が高くて読者はほとんど解約しないんです。毎月の解約率は2%くらいで。

値段は高くても、その価値はあると受け入れられたと。

はい。けれども「食べる通信」は月に1回だから、利用者もそれ以外の日は普通にスーパーに行って買うわけですよ。だから今度は、月に1回のスペシャルだったものを日常化しようと考えて、同じコンセプトのまま、好きな時に好きなものを買えるようにしたのが「ポケマル」ということです。

とはいえ、差額の1980円は安くないと感じるんですが、消費者は何にお金を払っているんでしょうか?

冊子に載っている「情報」。それと、「コミュニケーション」という価値を提供しています。

生産者と読者である消費者しか入れないクローズドなFacebookグループを作って、そこで両者をつないでみたんです。すると、消費者が生産者に向かって、勝手に「ごちそうさま」と言い出したんですよ。

さらに、しばらくすると、今度は生産者に向かって質問をする人が出てきた。「牡蠣って冬の食べ物だと思っていたけど、なんでこれは夏にも食べられるんですか?」みたいに。

そうすると今度は、生産者の方もめちゃくちゃ喜ぶんですよ。僕らとしてもそれがすごく嬉しくて。

生産者は何をそんなに喜んだんですか?

だって、それまでは商品を出荷して終わりだったから。ライターさんだって、書いた記事に読者の方から感想をもらったら嬉しいじゃないですか。たぶんそれと一緒ですよ。

こないだは漁師さんと一緒にオフラインのイベントを開催したんです。そうすると、自分の作ったものを消費者が食べる様子を目の当たりにすることになるわけです。

生産者からすれば、これまでは「顔の見えない消費者」だったんですよね。でもオンラインやオフラインでつながると、関係ができていって、その後は勝手に現地に行ったりが始まります。だから、「食べる通信」「ポケマル」での取り組みは、コミュニティを作っているんだと思っていて。

そのコミュニティは生産者の誇りを生み、結果として、後継者の問題の解決につながっていくと考えています。

東北を回っていると、よく聞くんですよ。「授業参観に親がトラクターで来るのが恥ずかしい」とか、水産高校を卒業して水産加工施設に就職することを「冷蔵庫行き」と言っていじめるとか。それくらい、一次産業の地位が彼ら自身の中でも低いんです。

たとえ儲からなかったとしても、誇りを持てる仕事だったら、こんなに後継者が減ることなんてたぶんないんじゃないでしょうか。だから、両者をつなぐことには、そういう誇りを回復するという価値もあると思っているんです。

新規就農者が生き残るための新たな道


奈良の農家・大久保守さん。ポケットマルシェに参加するため66歳でスマホを始め、消費者とやりとりしている

なるほど。生産者と消費者の「顔の見える関係」を紡ぎ直すことで、農家や漁師の子供たちが仕事に誇りを持ちやすくなる、と。一方で、新たに農業や漁業を始めたいという若い人はいないんですか?

実は、新規就農者って毎年6万人もいるんですよ。

少なくない数字ですよね。なのに全体としては減り続けている?

そうなんです。しかもそのうち2万人以上は若手です。でも一方で、このうちの3割は5年で離農しているんです。

プロの農家として生き残るには、大規模化を進めて生産性を上げることで世界と戦えるようにするか、もしくは適正価値を払ってくれる顧客を自分で見つけるか、いずれかが必要です。

国も多くの企業も、前者、つまり生産性向上へ向けた政策やソリューションを提供しています。ですが、僕たちは主に規模を追わずともこだわりの生産を続けているような生産者が、その価値を理解する消費者と出会えるようなマーケットをつくりたいと思ってポケマルを始めました。

大規模化を否定しているわけではないんですけど、大規模化や効率化を求める過程で失われてしまうものもあると思っていて。

失われるものというのは?

多様性です。大規模化して流通に最適化すると、どうしてもそれに適した栽培方法や品種が選ばれやすくなります。たとえば伝統野菜のようなものの中には、どうしたって生産性が上がらないものがある。500人に向けて作るのと、1万人に向けて作るのでは、選べる選択肢が当然違ってきます。

だから多様性を担保している、もしくは食文化を守っているのって、大規模化だけではないソリューションを追って、こだわりを持ってやっている人たちだと思うんです。

なので、そういうものを求めている消費者とうまくつなぐことで、彼らを支えることがポケマルのミッションです。

だから僕らは、そういう生産者に対して「あなたのファンを見つけ、育てるプラットフォームです」とお伝えしてるんです。

ファンを見つけ、育てるプラットフォーム?

「すごく便利に個人販売できますよ」という言い方をしてもいいんですけど、大切なのは継続的に関係ができるようなファンづくりだと思っているので。そのために、「生産者であるあなた自身も変わらなければならないですよ」ということは強調してお伝えしています。

SNSでこだわりを分かりやすく伝えるとか、梱包する際に一つ一つ手書きでメッセージを添えるとか、「花が咲きました」や「もうすぐ収穫です」のように現場の情報を発信するとか、値段と見た目以外の価値をつくりださなくてはいけない。

そういうコミュニケーションの中でファンはできていく。「作って終わり」という姿勢のままでは厳しいと思うんです。


ポケットマルシェでは各生産者がアプリ内にコミュニティを持ち、消費者との間に交流が生まれている

人によっては、分かっていてもそれが難しいということもありそうですね。

なので僕らとしては、いわゆるリテラシーがなくても、どんな生産者さんでも簡単に使えるマーケティングツールにならなきゃいけないと思ってます。だから現状は、ポケマルに出品する商品企画も、僕らが生産者と一緒にやっていて。

僕らは「生産者さんサポート」と言っているんですけど、そこがこのサービスにとって重要なポイントの一つだと思っています。

サポートを続けるうちに、また他の事例を見ていくことで、生産者さんたちが学んで自分でもできるようになっていく。だから、僕らがやっていることというのは、彼らが変わることのお手伝いのようなことなのかなって思っています。

つながって食べるとこんなに楽しいし、美味しい


ポケットマルシェで購入したブリ1本をさばき、刺身とブリしゃぶにして皆で楽しむ。

とはいえ、消費者は難しいことを考える必要なんてないと思っているんですよね。

どういうことでしょうか?

だって、直接つながって食べるって、単純に楽しいし、美味いんで。

先ほど、「食べる通信」でコミュニティを作ったら消費者が勝手に質問し出したと言ったんですけど、このこと自体が食の豊かさだと思っていて。

例えば三重には、ブランドとなっている「的矢牡蠣」があります。でもポケマルでは、「的矢の佐藤さんの作った牡蠣」という形で出品がされている。そうすると、ただ「的矢牡蠣」として見せるときと、食べた人の想像力が変わってくるんですよ。「佐藤さんの牡蠣はすごく大きい。これはどういう栽培の工夫をしているからなんですか?」って質問が出てくる。

これって、お酒好きがうんちくを語るのに近い。これこそが食の楽しさだって思いませんか?

食の解像度が上がるんですね。

はい、まさにそれです!

生産者から直接買う「ポケマル体験」は、注文後に届くメッセージから始まります。ある漁師さんが以前、「今日は波が高くて海に出られない。もう少しお待ちください」って購入した方に送ったんです。そうしたらそれを受け取った方が「ほんまに海からとって来てくれるんや」って感動してインスタグラムに上げていて。

海から取ってくるなんて当たり前なんだけど、普通にスーパーで買っているだけでは、この「食のリアル」が感じられない。このリアリティが欠けていると思うんですよね。

それに何より、直接買ったほうが美味いんですよ。だって一番美味いものを知ってるのは、作っている彼らに決まっていますから。よく農家さんは販売用と自家消費で分けてるなんて話もありますが、その美味しいところを「おすそわけ」してもらうのは、市場流通ではできません。そしてそれが、直送で一番新鮮な状態で届く。絶対美味いと思いません?

とても説得力がありますね。

あとはとにかく、知らないことを知る喜びがあります。牡蠣の身入りをよくするための工夫、魚の鮮度を保つために船の上でする処理、種による味の違い、栽培方法のいろいろ……。食べ物の裏側には、「こんな世界があったんだ!」っていう発見や感動があふれている。それを知ることがいかに面白いし、楽しいし、美味しいか。

「知って食べるともっと美味しい」っていうのが「ポケマル」のコンセプトなんですけど、自分の体になる一番大切な食を、僕らが普段どれくらい何も知らないままに食っているか。

そこが広がると楽しいなって、単純にそう思うんですよ。これがみんなに通じないわけがないよなって。だからこのサービス、絶対広まるって確信しているんです。「生産者さんから直接買う」という体験をまだしたことのない人には、ぜひ騙されたと思って一度買ってみてもらいたいですね。

▼食べる通信
http://taberu.me/

▼ポケットマルシェ
https://poke-m.com/

書いた人 : すずきあつお

元新聞記者で、現在はフリーのライター/編集者。プロレスとプロレス的なものが好きです。

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