失敗の連続。でも「楽しい」が上回った。下着ブランド「HEY! LUCY」が諦めなかった理由

失敗を恐れて前に一歩踏み出せないことがある。
しかし、その “失敗”は本当の失敗なのだろうか。

「HEY! LUCY」は、ふたりの女性によって立ち上げられた「ゆるいオーガニック」を提唱する下着やコスメのブランド。

化学肥料や農薬を用いず作られた農産物やコスメ、衣類などを指す「オーガニック」だが、一般製品よりも価格が高い傾向にあり、取り入れるハードルを感じる人も多い。HEY! LUCYは時間やお金や気持ちに負担をかけず、誰でも気軽に楽しめるようにとつくられた、いわば「オーガニック初心者」向けのプロダクトだ。


フジイロ(写真左)とネイビー(写真右)の2色展開。ブラは女性らしい三角カットのデザインが特徴。生地には柔らかなワッフル素材を使っているため肌心地が良い。カップも取り外せるなど機能性も高い

ブランドを立ち上げたのは2018年8月。代表取締役のAkane(あかね)さんはエンジニア、商品企画のmamico(まみこ)さんは美容師とセラピストという生業を持つ傍ら起業した。

写真左:mamicoさん、写真右:Akaneさん。打ち合わせをしてきたわけではないのに、同じような服で来てしまった、と笑う仲の良いふたり

2019年1月にプロダクトの販促も兼ねて、クラウドファンディングを開始。目標金額を早々に達成した。ふたりのプロジェクトは成功したかのようにも見えるが、実は裏目標であった50万円には届かず、金額面だけで見れば失敗だったという。

その後、初めてのプロダクト製造の過程では、数多のトラブルに直面。それでもすさまじいスピードを以て猛進し続ける彼女たちの表情は明るい。

「失敗続きだけど楽しいし、勉強になったよね」
「本当に良い人たちに恵まれてラッキーだった」

何を聞いても笑いながらそう答える彼女たちを見ていると、成功や失敗の定義が揺らいでくる。どうしたらそんな風に突き進めるのだろう。

生きるヒントをおすそわけしてもらうような気持ちで、彼女たちのプロダクトづくりについて話をうかがった。

「ないならつくろう」から3ヵ月で法人をつくるまで

佐々木

まず、オーガニックランジェリーをつくろうと思ったきっかけについて教えていただけますか?

Akane

mamicoにオーガニックについて書かれた本を紹介されたのが始まりですね。彼女はもともと大学の同級生で、飲み会で会ったら話す程度の仲だったんですが、会うたびにオーガニックコスメを勧めてくれるんですよね。

mamico

おせっかいおばさんみたいだよね(笑)。

Akane

普段は私も「使ってみたよ~」みたいな薄い反応だったんですけど(笑)。紹介してもらった本がすごく興味深くて、ちょっとオーガニックを取り入れてみようかなと。一度買ったらずっと使えるものが良くて、オーガニックコットンの下着がいいんじゃないかと思って探してみたんですよ。そしたら、色の種類も形も限られていて、なかなか好みのものが見つからない。もう少し探すと好みのものが見つかったんですけど、価格的に15,000円くらいで、初めてで気軽に買える値段ではなくて。

mamico

可愛いと思えて、価格もそこそこというのが少ないよね。

Akane

私も会社員だったので、経済的にすごく余裕がないというわけではなかったのですが、それでも「おぉ高いな」と躊躇しちゃう値段。ということは多くの人にとってオーガニックコットンの下着はハードルが高いものなんじゃないかなと考えて、ないならつくろうと。

mamico

ノリでね。

佐々木

思いきりがいい!

Akane

最初は内輪だけで、私とmamicoと友達2~3人くらいに分ける小さなプロジェクトとして始めるつもりでした。でも、個人向けに衣服生産をしてくれるサービスを見つけて見積もりをしたら、すごく高価になってしまって。私たちの発注したロットが少なすぎたんですね。じゃあ、私たちが気軽に買えるくらいの値段に落とすために、ロットを増やして工場にお願いすればいいんじゃないかという話になって。ネット検索や記事、求人票、染色組合のリストで染色工場や縫製工場の連絡先を調べて、片っ端から連絡しました。

佐々木

すごい行動力ですね。工場の方は個人が相手でも取り合ってくれるんですか?

Akane

みなさん良い方たちばかりでしたね。もちろんお断りされることもあったんですけど、なぜできないのか丁寧に説明してくれて。「うちは取引できないけど工場見学においでよ」と言ってくださったこともありました。

mamico

みんな優しかったよね。

Akane

本当にね。私たちの規模感だと工場的にはサンプルの域で、先方の利益には貢献できないので、たぶん相当に迷われたはず。でも、個人なのに勝手に売り込んできた目新しさを面白いと思ってもらえたのかもしれないです。その時のテレアポリストに入れていた企業さんが全部で20くらい。問い合わせに対してお返事をいただいて、実際に会いに行ったのは4社くらいだったかな。電話をかけ始めたのが2018年7月で、生産してくれる工場が決まって、私たちが法人化したのが8月でした。

佐々木

どうしてそんなに早いスピードで進められたんでしょう? お二人とも、それぞれ別の仕事もお持ちですよね。

mamico

仕事に関しては、私はフリーランスのセラピストと美容師の仕事、アルバイトを組み合わせて生計を立てているので、オフをうまく使えば時間はつくれるんですよ。

Akane

私もエンジニアなので、稼働日数の制限はあるものの、時間の調整はしやすかったんですよね。

佐々木

でも、法人化まではなかなかできないと思います。

Akane

そこに至るまでの流れもありました。工場の方が「利益は出ないけど、君たちがやるっていうなら投資の意味でやります」と言ってくれたことに応えたい気持ちがあって。それから工場の方と対等にお付き合いするには、法人化が必然だったというか。私が工場に電話をかけるたびに「会社名を教えてください」となる。そのときに、私が何者なのかを社会的に証明しなければいけないことは痛感したんですよ。あと、実際にやってみたら、意外とハードルも低かったですね。私は石橋を叩いて渡るようなところがあるのですが、mamicoがガンガン行ってくれるので。

佐々木

お互いに補完し合える関係なんですね。法人化の資金はどうやって準備したんですか?

Akane

100%自己資金です。もっと規模を小さくしたりお金を借りたりする方法もあったんですが、スピードを優先したくて資本金200万円で登記しようと決めました。

mamico

それは経営の観点というよりは、私たちの性格が関係しているよね。テンポを崩したくないというか。

Akane

そうそう。パラレルワークをしていることもあって、気を許すと停滞してしまうのもあったと思う。二人とも動いていなきゃ嫌な性分だしね(笑)。

クラウドファンディングで得たのは「人とのつながり」と「自分たちの価値」

佐々木

クラウドファンディングを始められたのはいつでしたっけ?

Akane

2019年1月です。本当は法人化してすぐの2018年8月にやろうとしていたんですけど、いざクラウドファンディングのプロジェクトページを書こうとしても筆が止まってしまって。要するに思いだけで、まだ何かを書けるだけの行動ができてなかったんですね。書けるだけの行動をしてからクラウドファンディングしようと決めて、動き出したのが2018年の12月です。

佐々木

1ヵ月で準備ってできるものですか?


テキストを画像で表現して、見やすく工夫した「HEY! LUCY」のプロジェクトページ

Akane

実はけっこうしんどかったです。クラウドファンディングをやる方に伝えたいのは、準備期間をきちんととって、私たちみたいにならないで欲しいなと(笑)。クラウドファンディングでは、プロジェクトとリターンの設計はもちろん、結論を先に説明するか、ストーリー調で説明して最後に結論を持ってくるかといったページの構成など、考えるべきことがたくさんあって。リターンも設計もよく考えないと赤字になってしまうこともあるので、本当に余裕を持ってやったほうがいい。

mamico

目標金額の設定も失敗しちゃったよね。みなさんのご支援で早々に目標金額の30万を達成したおかげでもあるのですが、裏目標だった50万円には届かず……。期間中の早めの段階で達成できると、逆にその後がなかなか伸びづらくなるんですよね。

佐々木

てっきり大成功だと思っていました。

Akane

まぁでも、そんなに落ち込みはしなかったですね。勉強になったねって感じで。いただいた資金以上に、クラウドファンディングで得た人とのつながりは大きかったので。私たちのプロジェクトを見たアパレルブランド「ALL YOURS」の木村さんにお声掛けいただいてイベントに参加させていただいたり、そのイベントで出会った方と共同でワークショップをすることにもなったり。

mamico

あとは、プロジェクトページで支援してくださった方のお名前が出るじゃないですか。あれを見たときにすごく感動しました。

佐々木

支援してくれた方は、お知り合いの方が多かったんですか?

Akane

HEY! LUCYのInstagramをフォローしてくださっていた方も合わせると、6~7割が知っている方でしたね。オーガニックの魅力を知ってもらうため、以前から月に1回のゆるいワークショップを開いていたのですが、クラウドファンディングで支援してくれた方の多くがワークショップに参加された方だったんですよ。私たちや私たちの商品はマスに向けてリーチをかけていくんじゃなくて、コミュニケーションがとれる近い距離の人たちに届けるのに向いている。そんなことも、クラウドファンディングをして気づくことができましたね。

失敗の連続でも「楽しい」が上回る

佐々木

クラウドファンディングを終えてから、リターンの発送も大変じゃなかったですか?

mamico

大変でした。リターンの発送を3月末予定にしていたんですけど、商品ができたあとの検品の段階で不具合がわかったり、いろんなトラブルが起きてしまって……。予定していたリターンの発送に間に合わなくなってしまったんです。

Akane

すごく悩んだのですが、リターンの発送を遅らせる判断をして、支援者の方に謝罪のメールを送りました。私たちのミスなのでキャンセルを受け付ける旨も伝えたのですが、誰ひとりとして責めないどころか、キャンセルもゼロ。励ましのご連絡をたくさんいただいて。

mamico

うるっと来たよね。

Akane

これも、お客さんとの距離が近いクラウドファンディングならではなのかも。普通の企業だったら、発送遅延を起こしたらクレームの嵐になる可能性が高いよね。

佐々木

波乱万丈でしたが、お客様に恵まれて良かったですね。

Akane

本当に恵まれたと思っています。でも、まだ続きがありまして…。その後に量産をかけたときに、生地の破れが発生してしまって。やわらかい生地を使っていたのが原因だったため、生地を急遽変えることになって。

佐々木

えっ! でも、今年の4月の話ですよね!?

mamico

4月です。延期をお知らせする際に、リターンの発送時期を少し先の5月末と伝えていたんですよ。でも、その後に生地の変更問題が出てきて、トラブルにトラブルが重なって慌てていたのが4月(笑)。結果的に5月末には発送が間に合って、最近ようやくホッと一息つけました。

Akane

それ以外にも、とにかくいろんなことがあったよね。私たちがアパレルの常識を知らな過ぎたこともあって、自分から情報を取りに行く必要性は身に染みました。

佐々木

そうしたトラブルでの損失が出たときの保証などは……?

Akane

リスクヘッジとして契約書上で謳っておいたので、金額面の損失は免れました。東京都は支援が手厚くて、中小企業振興公社に行けば30分間無料で弁護士さんに相談させてもらえるんです。事前に自作の契約書を持って行った際、「検品した後にトラブルが起きたときのことが書かれていないのはまずいですね」と教えてもらっていたので、工場の方に相談をして、条項に入れていただいていました。契約書も大事ですが、今回の件でいうと、大きなトラブルにならなかったのは取引先の工場と関係を築けていたのが一番大きいです。先方の負担になるような交渉はせず、お互い心地の良いコミュニケーションを心がけました

佐々木

なるほど。大変なトラブル続きだったかと思うのですが、正直なところプロダクトをつくって良かったと思いますか?

梅田LOFTで開催されたCAMPFIREのポップアップイベント。HEY!LUCYの商品も並んだ

mamico

思います思います! 届いた商品の画像をお客さんがSNSにアップしてくれてうれしかったよね。CAMPFIREさんのご厚意で大阪のLOFTに商品を置かせてもらったときに、お客さんと対面でお話しできたのもうれしかった。それに、次の企画ももう動き出してるんですよ。何なら次の次くらいまで。

佐々木

早い! 次のプロダクトはどんなものをつくる予定なんですか?

mamico

サニタリーのショーツです。デザインはすごくシンプルなんですが、とにかく肌心地が良くて。ブルーな日でも履きたくなるようなパンツがあればいいなと思って。

Akane

1作目のブラジャーと合わせられるように同じ素材を使っているんですよね。生地効率を良くする目的もありますが、ユーザーの方に組み合わせを楽しんでもらえるのも狙いのひとつです。サニタリーショーツはブラとセットのものが少なくて、上下バラバラのデザインになってしまうことも多いので。

佐々木

楽しんで取り組まれているのがとても伝わりました。おふたりのように、何かに挑戦する際に失敗しても諦めないコツはありますか?

mamico

私は「大変」よりも「楽しい」が上回っていたので。私自身が直感型の人間だということもあるかもしれないんですけど、自分のインスピレーションとか楽しい気持ちを基準にやっていけば、全然つらくはないんじゃないかなと思います。

Akane

私は“人”がモチベーションになっているところが大きかったですね。トラブルにぶち当たったときに一人だったら萎えるし、うれしいときに報告し合える場所があるのはよかった。やっぱり誰と一緒にやるのか、が大きかったかなと思いました。あとは、ふたりとももう一つの仕事があるから、純度100%の「楽しい」でやれているのかなって思います。

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書いた人 : 佐々木ののか

フリーランス書く人。
最近はインタビュー・対談構成をメインに、展示や動画制作のディレクションを行うなど活動の守備範囲が広め。
専門分野は「家族と性愛」

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