仕事も育児も諦めない。シニアが支える「シングルマザー専用下宿」で生きる

MANAHOUSEが紡ぐ“親戚的”な繋がり

「シングルマザーの子ども=かわいそう」という方程式。

家族の形が多様化した現在においても、ひとり親の家庭に対してネガティブな視点を持つ人は少なくありません。

そういった見方を身をもって覆すような「シングルマザー向けの下宿」があります。それは「MANAHOUSE上用賀」。DIYでつくられた広い居間のある庭付きの一軒家は、どこか田舎のおばあちゃんの家のような温かさを感じさせます。

この「MANAHOUSE上用賀」を立ち上げたのは、株式会社シングルズキッズ代表の山中真奈さん。

山中さんは、クラウドファンディング・プラットフォーム「CAMPFIRE」で下宿立ち上げのためのプロジェクトを実施しました。シニア世代が管理人となり、働くシングルマザーとその子どもが同居する下宿というコンセプトは注目を集め、497万円超の資金調達に成功。2017年6月にMANAHOUSEをオープンさせ、現在は4世帯が入居しています。


左・山中真奈さん、右・関野紅子さん

今回インタビューしたのは山中さんと、MANAHOUSEの管理人を務める関野紅子さんの二人。話題を集めた「多世代型下宿」はどのようにして生まれたのか。「子どもたちをハッピーにしたい」という彼女たちの思いについて話を聞きました。

プロフィール
山中真奈(やまなか・まな)
1986年生まれ、埼玉県出身。10代でギャルサークル、キャバクラ、引きこもりなどを経験。20歳で不動産会社に就職し、4年間勤務。その後、働き方への疑問とやりたいことに目覚め、2015年に独立。不動産仲介や保育園開設支援、「こどもに想いのある大人が繋がるプロジェクト」や「NPO法人若者メンタルサポート協会」広報などで活動。2017年3月より「シングルズキッズ」に社名変更。『シングルズキッズ(=ひとり親で育つこども)を最高にHAPPYに!』をミッションに、世田谷区にてひとり親とこども、シニアが同居する下宿事業を企画開始。自身も管理人として暮らしている。
関野紅子(せきの・こうこ)
MANAHOUSE上用賀の管理人・同居人。渋谷で10年間、無認可の託児所を営む。ベビーシッターなど保育の現場で培った経験は現職でも子どもとの関わりや、お母さんたちへのアドバイスなどに活かされている。

働くお母さんの負担を減らすことで、子どももハッピーになる

佐々木

はじめに、MANAHOUSEがどういった施設なのか教えていただけますか?

山中

シングルマザー向け・シニア同居・地域開放型の「現代版下宿」ですね。シニアや子育て経験のある方が管理人として常駐して、平日の夜ご飯をつくって提供するのが基本のサービスです。地域の方や住人の皆さんと一緒に、平日夕方からご飯を食べる会員制の「地域食堂」を開いたり、希望者には月10,000円でお子さんの保育園へのお迎えをしたりもしています。

佐々木

通常のアパートやマンションと比べて、入居者の方には具体的にどんなメリットがあるんでしょうか?

山中

お母さんのメリットとしては家事の負担が減ることで、仕事に集中できたり時間や心のゆとりができることが大きいと思います。平日は21時までお子さんの見守りもしているので、子育てのマンパワーが不足しているシングルマザーの助けになります。管理人の関野さんは保育の現場にいた期間が長くて経験豊富ですし、子育て経験のある他のスタッフや他の住人のお母さんたちと情報交換ができるのも心強いと思います。

佐々木

お子さんにとってのメリットはいかがですか?

山中

山中:お母さんに余裕ができることで、結果的に子どもにとって居心地の良い環境が生まれると思うんです。働くお母さんは、仕事が終わって、保育園にお迎えに行って、その足で買い物をして、子どもの面倒を見ながらご飯の支度をして、ご飯を食べさせている間に洗濯もして……という一連の流れをすべて一人でやらなくてはいけません。そんな状況だと、心のゆとりや余裕がなくなることもあります。でも、家事や子育ての負担が減れば、お母さんに心と時間のゆとりが生まれ、子どもに本を読んであげたり、ゆっくり親子で話したりできるようになります。私の会社のミッションは「シングルズキッズ(=ひとり親で育つこども)たちを最高にHAPPYにする」こと。子どもにとって一番の幸せは、笑顔のお母さんと過ごす時間だと思っているので、その実現をサポートするサービスを提供しています。

シングルマザー向け「シニア同居型下宿」が誕生したワケ

佐々木

そんなMANAHOUSEを立ち上げたのは、どのような経緯だったんでしょうか?

山中

私は子どもと不動産が大好きで、「不動産という手段を使ってこどもだちの社会課題を解決したい」と思って活動してきました。子どもと一口に言っても色々ですが、困っている子どもが傾向として多い「シングルズキッズ」をまずは対象にしようと思い、この事業を始めたんです。

佐々木

MANAHOUSEはシングルマザー向けというだけでなく、シニア世代の管理人さんも同居している点に新奇性がありますよね。「多世代型」の発想はどうやって生まれたんですか?

山中

総務省の統計によると、現在の日本には65歳以上の人口が約3000万人以上、子どもの倍以上いるといわれています。もちろん元気な方も多いのですが、なかには長年かけて培われた知識やスキルを持て余している方もいらっしゃいます。せっかくなら、その力をお借りできたらと事業に取り入れました。

佐々木

そこで、関野さんが管理人として抜擢されたわけですね。お二人はどういった経緯でタッグを組むことになったんですか?

関野

2年くらい前に共通の知人の紹介で出会い、お互いの夢を語り合ってすごく盛り上がったんです。そのときFacebookで繋がったきり会っていなかったんですが、真奈ちゃんがMANAHOUSEの立ち上げのときにお誘いのメッセージをくれて。私が託児所を10年間やっていたり、ベビーシッターの経験があったりと、保育の現場に関わっていたことを思い出して声をかけてくれたんだと思います。

佐々木

久しぶりの連絡が仕事のお誘いで、正直なところびっくりされたのでは?

関野

びっくりしましたけど、うれしかったですよ。初めて会ったときから、真奈ちゃんが今後どんな風に活躍していくのか楽しみだなぁと思っていたので。彼女はビジネスパートナーであり、娘のような存在でもあるので、伴走しつつ見守れるなんて私としては願ったり叶ったりというか。それに、当時の私は一人暮らしをしていたのですが、ちょうど住んでいたアパートを立ち退かなくてはいけない時期で。下宿へ移り住む話は渡りに船でしたから、喜んで引き受けました。

佐々木

ただ、一人暮らしから下宿で共同生活をするとなると、環境がガラリと変わりますよね。

関野

そうですね。ただ、私が小さいころは家に父の友人がよく集まっていましたので、大勢で一緒に何かをすることに全く抵抗がなかったんですよ。子育てに関しても、ご近所さんとの密な関わりがありました例えば私が子育てをしていたときは、ガンになった父の看病のため実家と自宅を行き来することが多かったんです。そんなとき、近所の人が「息子さんをちょっとお借りします」と言って子どもを預かってくれました「預かってあげる」ではなく「借りる」という表現の仕方からもわかりますが、私たちの世代は特に“みんなで育てる”感覚が当たり前の人が多いのではと思いますね。

佐々木

そういった意味でも、シニア同居というコンセプトは運用しやすいのかもしれませんね。

山中

「シングルマザーと子どもとシニアの住むシェアハウス」という事業モデルはわかりやすく、共感を得やすかったですね。実際に「それ、やりたいと思ってた!」とクラウドファンディングで支援してくれる人も多かったんです。ご近所のシニア世帯の方も巻き込み、地域との繋がりを増やして、みんなで楽しくハッピーに子どもたちをサポートしていくのが目指す姿です。

子どものころの痛みが原動力

佐々木

でも、単に「子どもがかわいくて好き」というくらいでは、ここまでパワフルにプロジェクトを進められないと思うのですが……。子どもへの思い入れが強くなったきっかけは何かあったんでしょうか?

山中

20代前半の頃に地元の友達の子どもとよく遊んでいて、素直な子どもたちが大好きになりました。そんな中、離婚した友達の子どもが両親の間をたらい回しになり、泣いて傷ついているのを目の当たりにして……。どうして理不尽な親の都合で純粋無垢な子どもたちが傷つかなきゃいけないんだろう、と強く思ったのがきっかけの一つですね。その頃は子どもの虐待のニュースもよく報道されていて、なんとかできないか考えていました。

佐々木

少し立ち入った質問になりますが、山中さんご自身の家庭や環境が関係している、ということはありますか?

山中

私は両親と姉、兄の5人家族でした。ただ、両親がギリギリ離婚しなかったドライな家庭ではあったので、家族のあたたかみというものがわからなかったんですよね。特にお母さんと自分の相性が悪くて、高校時代にはあまり家に帰らずギャルサークルを運営したり、キャバクラで働いたり、19歳のときには摂食障害を患い引きこもったこともありました。

佐々木

そこで感じた“痛み”が、今の山中さんの原動力になっているようにも思えます。

山中

そうかもしれません。何より一番辛かったのは、お母さんに「大好き」とストレートに言えなかったことなんです。母への愛情を素直に伝えられない葛藤は、今もずっと消えていません。大人になっても常に子どもの視点で物事を見ていたので、子どもたちへの思い入れが強いのかもしれませんね。子どもは大好きなお母さんからの愛情を受け取りたいだけなのに、お母さん自身が日々の生活でいっぱいいっぱいになり、すれ違ってしまうこともあると思うんです。「お母さんに余裕さえあれば子どもにも優しく接してあげられて、親子どちらもハッピーになれるのにな」という思いが、今の活動に繋がっているのかもしれません。

佐々木

摂食障害や引きこもりを経て、今のようにアグレッシブに活動するまでにはどんな転機があったんでしょうか?

山中

転機という転機はなかったんですよね。家でずっと引きこもっていて、ぼんやり死にたいなぁと思っていたのですが、成人式に出た後くらいから「死ぬ勇気も無いしそろそろ働こう」と漠然と思ったのかな。あまり覚えていないんですけど。

佐々木

それで不動産業に関わり始めたんですか?

山中

最初は家電量販店で携帯電話を販売する仕事をしました。いざ働いてみると、私が一番仕事ができなくて領収書の書き方もわからないし、敬語も使えない。たくさん失敗したんですけど、だんだんと仕事ができるようになって。ある程度、売上を出せるようになったころ、もう少し責任を持たせてもらえる仕事をやってみたいと思い始めたんです。そんな矢先、引っ越しをしようと思って訪ねた不動産屋さんで間取りを見ていたら、すごく面白くて。「不動産を扱う仕事って楽しい!と思って、パッと転職しました。友達の子どもと関わっていたのもこの頃なので、今の私があるのは20代前半の経験が大きいかもしれませんね。

箱だけでなく、繋がりもつくるのが目標

佐々木

山中さんの想いがギュッと詰まったMANAHOUSEですが、入居者さんからはどんな声が挙がっていますか?

山中

「子どもが明るくなった」という声が多くて嬉しかったですね。家に帰ると誰かがいたり、同じ境遇の友達ができたりすることに加えて、余裕ができたお母さんが優しく接してくれるのが大きいんじゃないかと思います。運営に関して言うと、5~10年くらいかけてシェアハウスを近所で増やし、ここを拠点にした“親戚”を増やしていきたいんですよ。

佐々木

親戚、ですか?

山中

家族よりも距離を置いて付き合える存在というか。MANAHOUSEの卒業生がすでにいて、近くに家を構えています。実は、それが私の目指していた形なんです。卒業しても近所に引っ越してくれて、週に1、2回でも夜ご飯を食べに来てくれたら関係が途切れませんよね。私もそうでしたけど、“家族”となると近すぎて難しいんです。“友達”だと同じ属性になりがちで。でも、“親戚”だと年齢もカテゴリーも関係なく付き合える。MANAHOUSEではシングルマザーだけではなくご近所のシニアや多世代の人たちとの出会いがあります。箱を提供するだけじゃなくて、そんな風に退去した後も続く繋がりをつくりたいんです。

佐々木

MANAHOUSEを卒業された方が近くに引っ越してきてくれたことで、山中さんの10年計画がまた一歩前に進んだわけですね。他に計画されていることは何かあるんでしょうか?

山中

これはずっと前からの夢なんですが、鎌倉に300坪くらいの大きな家を借りて、親のいない子どもたちと捨てられた犬や猫、シニアと保母さんのみんなが暮らす場所をつくりたいんです。

佐々木

スケールが大きいですね!

山中

ただ、自分の思い描く理想をきちんと形にしていくために、資産家になって自己資本比率を高くしてやりたいと思っています。それから、親と暮らせない子どもたちは幼少時の人格形成期に実母との愛着形成がうまくいかず、心の成長に課題を抱えているケースがあります。彼らと関わるために、自分の精神的な器も大きくしたい。そのために、まずは目の前の仕事を着実に進めたいです。

佐々木

山中さんのお話を聞いていると、すごい活動をされているな、と感じます。

山中

こういう活動をしていると慈善的な人間だと思われるかもしれないのですが、可哀そう、助けたい、社会のため……と思って活動していません。自分の価値観通りに好きなことをして自分で人生を選択しているので、とても楽しいし、幸せです。私は「自利利他の精神」を大切にしていて、まずは自分の利益が第一です。それは自分らしく自然体で生き、心が豊かであることです。その先に、たまたま「利他」である社会課題の解決があっただけ。子どもたちがハッピーな笑顔でいることは、私にとっての幸せなんです。

ひとり親のこどもを最高にHAPPYに!シニア同居型でサポートする下宿をつくりたい
  • 支援総額/目標
    4,975,000円/3,600,000円
  • 内容
    シングルマザーとその子どもたちがシニアの管理する物件で同居し、楽しく温かいご飯を食べることができる下宿をつくりたい!

書いた人 : 佐々木ののか

フリーランス書く人。
最近はインタビュー・対談構成をメインに、展示や動画制作のディレクションを行うなど活動の守備範囲が広め。
専門分野は「家族と性愛」

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