日本で一番フリーペーパーを愛する男、2018年の現在地を語る

街や土地、人への思いを語る。あるいはただ、ひたすらに物事への偏愛を詰め込む。どんな表現であっても、とびきりの熱量さえあれば大丈夫!と言いたくなるような「自由さ」が魅力のフリーペーパー。

近年の出版カルチャーに関心があれば、田舎に住んでいるおじいちゃんおばあちゃんをストリート視点で切り取った鶴と亀や、縄文時代の魅力を都会的なポップセンスで発信する縄文ZINEなどのエッジーなフリーペーパーの名前を耳にしたことがあるのではないだろうか。


ONLY FREE PAPER 住所:〒184-0002 東京都小金井市梶野町5-10-58 コミュニティステーション東小金井 ヒガコプレイス内

東京・東小金井にあるフリーペーパー専門店ONLY FREE PAPER(以下、オンフリ)は、そんな個性的なフリーペーパーが日本中から集まってくるちょっと変わったお店。2010年渋谷にオープンし、その後渋谷パルコへの移転を経て、現在の場所にたどり着いた。

同店の特徴は、雑誌が売れないと言われる時代のなかで、フリーペーパーという「タダ」の価値に着目したこと。

全国から集まるフリーペーパーを文字通り「お持ち帰り自由」で提供する店舗の運営に加えて、フリーペーパーの発行者を絡めたイベントの実施、商業・公共施設におけるフリーペーパーのコーディネートなど、独自のビジネスを展開しながら、草の根の出版カルチャーに光を照らし続けてきた。

しかし、単体では販売利益を得られないフリーペーパーという商材を扱うことでの経営困難にも直面し、かつては3人で始めた事業も、現在は創業メンバーの一人である松江健介さんが代表として残るのみ。

創業から8年目を迎えて、松江さんは今、どのような思いでこの事業に向き合っているのだろうか。フリーペーパー専門店という唯一無二の仕事に向き合い続ける男の小さな声に耳を傾けた。

プロフィール
松江健介
フリーペーパー専門店ONLY FREE PAPER店長、株式会社Beatface代表取締役。スタイリスト業を経て2010年12月にONLY FREE PAPERを東京・渋谷に開業。移転、休業を経て現在は小金井市にて展開。ドストエフスキーや安部公房好きの根暗でメタル好き。メタルバンドではボーカルを務めている。また、コラムやエッセイ等をフリーペーパーへ寄稿することもある。

オンフリは「エゴ」な店

松江さん、今日はよろしくお願いします。素朴な疑問なんですが、オンフリってどうやって収益を上げているんですか?

現在の主な収益は、フリーペーパーのコーディネートですね。

商業・公共施設などのスペースで、コンセプトに合わせたフリーペーパーをセレクトして欲しいという要望があるので、僕がコーディネーターとして入って空間を含めたディレクションをしています。

そのほかにも、ショッピングプラットフォームのBASEを利用して、セレクトしたフリーペーパーのセット販売も行っています。厳選したフリーペーパーとリクエストに応じた20冊が届くOFP SELECT BOX(3240円/税込)と、当月入荷のすべてのフリーペーパーが届くOFP MONTHLY BOX(5400円/税込)を展開しています。

基本的に取り寄せや取り置きはしていないので、どちらも遠方でなかなかお店に来られない人には需要があるサービスになっています。

いろいろ工夫されているんですね。

もっと工夫できるところもあるんでしょうけど、僕ひとりでやってる事業ですし、そこそこな感じでやっています。

もともとは3人で立ち上げたお店だったんですよね。創業の経緯はどのようなものだったのですか?

お店のコンセプトを最初に思いついたのは、僕と一緒に立ち上げた初代代表です。その男が「本屋をやりたいけど、普通の店にはしたくない。儲けるよりもおもしろいことがしたい」というので、僕もそれに賛同してこの仕事を始めました。

なるほど。それが気付けば、松江さんだけに。

ええ。みんないなくなっちゃったから、自分がやるしかないという感じですね。ひとりになった今、ある意味ではとてもエゴイスティックな店になってます。

エゴイスティック、ですか。

もちろん初代代表の思いは僕なりに引き継いで大切にしていますし、世間のみなさんがこの店の価値を認めてくれているからこそやれているのですが、なんていうか……自分のためにやってる部分も大きいんですよね。

というのもほら、フリーペーパーの発行者っていい意味で振り切れたヤバい人が多いじゃないですか。

この店があることで、そういうヤバい人たちとの出会いをつくれますし、そういう人たちが待っていてもこちらにコンタクトしてきてくれるような状況というのは、自分にとってはありがたいことで。

ヤバい人。例えば、どういう人たちですか?

いろいろいるんですが、例えばナイスガイってフリーペーパー知ってます?

このフリーペーパー、毎回ほんとに中学生の妄想を詰め込んだみたいなクソコンテンツしかなくて、ほんとにヤバいんです(笑)。何考えてこれ作ってるんだろうって毎回思うんですけど、こないだそのクソみたいなままで有料版まで出しちゃって……。

僕はその『ナイスガイ』を作っている人たちと5年くらい付き合いがあるんですけど、彼らはこの5年間、ずっとこれを作り続けてるんですね。

大体こういう瞬間風速的な表現は2〜3号出したら終わるんですけど、ここまで無意味な表現を貫けたら本物だなあと思っていて。

松江さんは、そういう尖っている表現に特に関心があるんですか?

まあ、割と大衆的なものから排他的でアンダーグラウンドなものまで、面白ければ何でも楽しめるんですけど、ルーツ的には、世の中にはないオリジナルな価値を生み出そうとしている人には興味がありますね。

だからなんていうか、やってることは「フリーペーパーで人と人をつなぐ場を作る」というソーシャルな感じなんですけど、それを慈善事業的に捉えてもらうのはちょっと違うかなあ……というのが正直なところで。

そうではなくて、僕のなかのモチベーションはもっと利己的なんです。

この仕事をしていると、いろんなタイプのヤバい人たちに出会えて刺激をもらえるし、そこから学びも得られる。そういうのが楽しくてやってるようなところはありますね。友達作りみたいな感じで。

友達作り(笑)。

ただ、それをビジネスとしてやっていくというのは、まあ大変で……。良くも悪くも誰もやってこなかった仕事ですし、当然ながら参考にできるビジネスモデルもない。

大体、僕は経営者になろうと思っていたわけじゃないんですよ。大学は経営学部ですけど……。

え、そうだったんですか。

はい。経営のことなんて何もわからないです。そもそも何で経営学部にいったのかも今となってはわからない……。チャラチャラしてたし、暇すぎて仲間と毎日渋谷を徘徊してたし……って、あの、こんな話でいいんですかね(笑)

なければ自分で作るしかない

松江さんはむしろ、経営よりも新しい表現的価値に出会うことの方に興味があるんですね。

もちろん経営者ですから、経営は大事ですけど、そうやってお金を稼ぐことよりも自分が面白いと思えることを探求したい気持ちがありますね。

ただ、面白さというのは何もせずに得られるものではないと思っているので、この世界に面白いと思えるものがなければ、自分で作るしかないというDIY精神もあります。

なるほど。大事なことですね。

僕は昔、音楽をやっていたんです。そのときは自分が聞きたい音楽がないなーと思って、ないなら自分で作ろうということで作曲も始めました。大学を卒業してから、短期ですけどアメリカにジャズピアノで留学もしていて。

ジャズピアノ! 音楽家を志していたとは。

志すというか……音楽をやって暮らしていけたらいいなあというくらいのふわっとしたものですけどね。なんていうか……あの頃は生きていておもしろいことが何もなかったんですよ。ほんとに退屈してたんです。世の中つまんねーって。

若い頃のそういう感じ、なんかわかるなあ。

でも、そんななかでも唯一音楽をやっているときだけは退屈しないでいられたというのがあったんです。

アメリカに行ったときも、初めていろんな人種の人たちとジャズセッションをして、何物にも代え難い喜びを感じました。それは日本でバンドを組んでライブをしていたときには得られなかった感情でした。

ただ、そうして音楽だけにのめり込んでいたのも、今思えば、音楽ぐらいしか面白がれなかった当時の僕の未熟さでもあるんですけど、そういうことが今のこの仕事を始めてすごくよくわかるようになった。

フリーペーパーに教えてもらったところが大きかったと。

もともと紙の本は好きでしたけど、フリーペーパーに出会ってから視野が広がったし、さらに知りたいことや学びたいことが増えましたね。

音楽をやりながらスタイリストの仕事をしていたこともあったんですが、そういう自分の「学びたい」気持ちが強くなったのは、やっぱりこの仕事の存在が大きかったんです。

まあ、そんなに学ぶ気があるなら、早く経営を学べっていう話でもあるんですけど……。

それはあんまり学ぶ気がないと(笑)。

ええ、まあ……はい。今のところ、あまり興味がないです(笑)。

それよりも宗教や人種の問題、つまり人についてだったり、政治も含めた社会全体のことだったり、そういうことをもっと学びたいですね。今を生きている以上、その時代にちゃんと目を向けないといけないと思っているので。

だからあらゆる表現に対しても、その人がその時代に出した作品だから意味があるんだな、というような理解も昔よりはできるようになりましたね。時代を含めて表現と向き合えば、いろんなことをもっと楽しめるようになっていきますから。

だんだん、いい話になってきましたね。

いいんですかね、こんな話で……。ちょっと風が強いのでお店のなかで話しましょう。

筋肉を知る、使おうとする

ところで、松江さんが今注目しているフリーペーパーにはどんなものがありますか?

たくさんありますけど、僕が珍しく嫉妬したということで言えば、三重県の女子高生が作っている『詩ぃちゃん』というフリーペーパーはとてもよかったですね。

自作の詩を作ってそれをZINEみたいにまとめる人は結構いるんです。だけど、これを作っている大阿久佳乃(おおあく・よしの)さんは自分で詩を書くこと以前に、自分にとって詩とは何かということをこのフリーペーパーを通じて深く考えているんですね。

そして、その彼女の文章がとても良いんですよね。詩を語る文章がすでに物語的で。

へええ。おもしろそう。

元々哲学書などを好んで読んでいたけれど、詩と出会ってしっくりきたという彼女が紡ぐ言葉の一つひとつが、まるで命を宿しているようだと僕は思いました。その年代で、その若さで、今その瞬間にしか書けないことをその瞬間にしか書けない言葉で綴っているのがすばらしいなあと。そこに嫉妬しましたね。

同じ瞬間風速的な表現とはいっても『ナイスガイ』とはまったく違う魅力がある(笑)。まあ、『ナイスガイ』もいいんですけど。

とても興味深いです。個人的なテーマを深く掘り下げていく姿勢にもぐっとくるものがありますね。正しくフリーペーパー的というか。

そうですね。それでいうと、僕は今、人間の身体性が気になっているんです。

というのも、人間ってちゃんと使えている筋肉が全体の3割くらいしかないらしいんですね。残りの7割の筋肉はもったいないことに、まったく使わないで生きていると。

ふむふむ。

で、その7割の筋肉は、意識的に使おうとしないと使えるようになっていかないんですけど、これってあらゆることに当てはめて考えることができるなって思うんです。

例えば、『詩ぃちゃん』が自分なりに「詩とは何か」を掘り下げようとしているのは、きっと詩を通じてその7割の筋肉の存在に気付いて、それをもっと深く知ろうとすること、使えるようになろうとすることでもあるのかもしれません。

知性を感じる話ですね。

ただ、使っていない筋肉を使おうとはいっても、そういう筋肉があることを知らなければ、使う練習だってできませんよね。

僕にとってのオンフリは、お前にはまだまだ使っていない筋肉があるぞ、使わなくていいのか? ということを考えさせてくれたものでもあったんです。

なるほど。それはとてもいい仕事だなあ。

『北斗の拳』のケンシロウは、北斗神拳でそういう潜在的な能力を使いこなせるからすごいんですね。だからあれは奥義なんです。普通の人が簡単に習得できるようなものだったら、奥義にはなりませんから。

大変な話ですね(笑)。では、8年目を迎えてどうですか? 奥義の道は険しいかもしれませんが、オンフリを続けていくにあたって、目指していることがあれば教えてください。

……それが、そんなにないんですよね。

僕はこのオンフリの仕事を通じて、ビジネス的に何かを成し遂げようという野心がありません。お金に関していえば、自分が生活できればそれでいいというくらいの気持ちで……。

ただ昔、音楽をやっていたときのように、自分が面白いと思える表現を乱立させたいという思いはあります。それがどういうかたちになるのかはわかりませんが、せっかく刺激的な人たちに囲まれているわけですから、オンフリの運営から派生して何かを作るというようなことも楽しんでいけたらいいなとは思っていますね。

もちろん、それ以前にものごとを知らない自分に対する「まだまだ感」とも向き合っていくつもりです。3割の筋肉しか使っていないのにそれが10割だと思って生きていたら、その人間はそこで頭打ちですから。

店データ
  • ONLY FREE PAPER
  • フリーペーパー専門店ONLY FREE PAPERのBASEショップです。ONLY FREE PAPERに届くフリーペーパーを定期的に購読したいという方に向けたBOXセットを提供しています。

書いた人 : 根岸 達朗

1981年生まれのライター。文章を書いて生きています。東京・多摩地域在住。

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