「すべての答えは生態系にある」地球を愛する男・ソーヤー海が目指す“美しき世界”

消費の世界を超えていく「共生革命家」の新たな挑戦

私たちは今、あらゆるものごとに値札のついた消費社会を生きている。特に3.11以降、多くの人がこれまでの社会のあり方に疑問を抱き、移住で暮らし方を変えたり、あるいは社会活動を始めるなどして、それぞれの新しい生き方を模索し始めた。

3.11をきっかけに東京で持続可能な暮らしをデザインする「東京アーバンパーマカルチャー(TUP)」を創設したソーヤー海さんもその一人。「共生革命家」を名乗る彼は、現代の消費社会へのカウンターとして、海外生活で学んだ「パーマカルチャー」「非暴力コミュニケーション」「禅」の思想を組み合わせ、生まれ故郷でもある日本で生態系の一員として生きる世界を提唱。

家庭ゴミを堆肥化する「コンポストづくり」のワークショップに始まり、渋谷のスクランブル交差点での「ゲリラ瞑想」、都会の循環型生活「アーバンパーマカルチャー」の思想を詰め込んだガイド本『都会からはじまる新しい生き方のデザイン』(エムエム・ブックス)の出版に至るまで、現代社会を生きるすべての人にその声を届けようとしてきた。

そんな彼が、活動の舞台を都心から電車で約2時間の千葉県いすみ市に移したのが昨年末のこと。クラウドファンディングで支援を募り、「パーマカルチャーと平和道場」と名付けた新たなプロジェクトをスタートさせたのだ。

【動画】「消費者」から「文化の創造者」になろう!「パーマカルチャーと平和道場」プロジェクト@千葉県いすみ市

まさに平和を探求することが「修行」ともいえるような困難な時代で、ソーヤー海という思想家が新天地の「道場」で成し遂げたいと考えていることは何か。この星を愛する男の小さな声に耳を傾けた。

プロフィール
ソーヤー海(そーやー・かい)
共生革命家。東京アーバンパーマカルチャー主宰。1983年東京生まれ、新潟、ハワイ、大阪、カリフォルニア育ち。カリフォルニア州立大学サンタクルーズ校で心理学、有機農法を実践的に学ぶ。2004年からサステナビリティとパーマカルチャーの研究と活動を始め、同大学で「持続可能な生活の教育法」オーガナイザー兼講師を務める。

その後、コスタリカのジャングルに移住しパーマカルチャーを実践。ワシントン州ブロックス・パーマカルチャー・ホームステッドで研修を受けて帰国。現在はパーマカルチャー、非暴力コミュニケーション、禅、ファシリテーション、気候変動×若者のエンパワーメントなどに関するワークショップを全国各地で展開中。

「パーマカルチャー」で生きる力を取り戻す

根岸

海さんこんにちは。まず、パーマカルチャーという言葉に馴染みのない読者もいると思うので、簡単にその定義を教えてください。言葉としては「Permanent(永続的な)」と「Agriculture(農業)」、そして「Culture(文化)」を掛け合わせた造語とのことですが。

OK。パーマカルチャーは1970年代にオーストラリアの小さな島から生まれて、そこから世界中に広まっていった環境デザインの手法だよ。簡単に言うと、地球環境や社会を持続可能なものにするために、この地球上のすべての生態系を大切にして、生かしあう関係性をつくることなんだ。

根岸

TUPではどんなことを実践してきたんですか?

都会に住んでいる人が、自分たちの暮らしのなかでできることを伝えてきたよ。たとえば、ハーブや野菜、果樹を育てて“食べられる庭”をつくる「エディブルガーデン」、家庭ゴミなどの有機物をミミズや微生物の力で栄養たっぷりの肥料に変える「コンポスト」などがそうだね。自然の恵みを生かしながら、まずは自分たちが食べるものを自分たちでつくれるようになる。それが生きる力を取り戻すことにつながると考えているよ。


東京で行われたミミズコンポストをつくるワークショップの様子。

根岸

海さんはコスタリカのジャングルで生活していたときに、こうしたパーマカルチャーを本格的に実践されたとのこと。そこに至るまでの経緯はどのようなものだったのですか?

僕はコスタリカに行く前はカリフォルニアにいて、そこで反戦、非暴力、有機農業をひたすら研究・実践していたんだ。でもそのときはとても忙しくて、パソコンと向き合う時間も多くてさ。人と会話してる間も頭のなかでメールを書くような感じだった。週7日ミーティングの予定がびっしりで、パートナーと過ごす時間もないような日々で……。

根岸

現代の多忙なビジネスマンのようです。

うん。でもあるとき思ったんだ。これって病気だなって。この変な状態から抜け出さないとヤバいなって。いったん立ち止まって、自分にとって何が大切かを見つめ直したくて、コスタリカのジャングルに行ったんだよ。

実践から学んだ「生きる技術」

根岸

ジャングル生活ってどうだったんですか?

めちゃくちゃ楽しかったよ。ネットも繋がらないし、お金も使えない。ご飯を食べるのだってひと苦労だよね。でも、そのときにこの地球上ですべての生命が当たり前にやっている、生きるための活動を初めて自分の力でやれたと感じて、本当に意識が変わり始めたんだ。すべての答えは生態系が持っていたんだってね。

根岸

その後、海さんはアメリカに戻って、ワシントン州にある「ブロックス・パーマカルチャー・ホームステッド」に行きます。ここで本格的にパーマカルチャーの研修を受けたそうですね。どんなところでしたか?

最高の農園だったよ。そこではブロックス三兄弟とそれぞれの奥さん、子どもたちが30年以上にわたってパーマカルチャーを実践しているんだ。なかでもフォレストガーデンという、多様な多年草を組み合わせた里山のような環境は本当に豊かだった。毎日食べきれないくらいの食べものが、大量に降ってくるような世界って信じられる?


ブロックス・パーマカルチャー・ホームステッド。木々にたくさんの果実が実り、森全体が「食べられる森」になっている。

根岸

まさに楽園のような。

うん。そこでは時間もゆったりと流れているし、楽しくて頼りになる仲間もいるし、笑いもある。必要なものはすべて身の回りにあったといってもいいね。これだけ豊かだったら、絶対に生きていけるというような気持ちにさせてくれる場所だったよ。そこで僕は2年間過ごして、徹底的に生きる技術を身につけた。ソーラーパネルの配線から、水道の直し方、簡単な小屋の立て方までね。お金なんてほとんど使わなかったし、使う意味も感じなかったな。


研修生が住む、廃材で建てられた小屋。すべて手作り。


農園内に数十カ所あるコンポストトイレ。排泄物を微生物の力で分解し、堆肥として利用する。


絶景のソーラーシャワー。雨水を太陽光発電のポンプで山の上に引き上げて、太陽熱温水器で温めて使用する。


夜はキャンプファイアを囲んで語らい、持ち寄った楽器を弾いてみんなで歌う。

消費の世界を超える

根岸

今回のプロジェクトでは、実際にブロックス農園のような環境をつくっていくのですか?

うん。でもここでブロックスのような農園をつくることだけで完結しようとは思っていないよ。これまでに学んできた「パーマカルチャー」「非暴力コミュニケーション」「ギフトエコノミー」といった概念をここでさらに結晶化させて、消費の世界を超えようと思っているんだ。

根岸

消費の世界を超える。それはたとえば、都会に暮らす人たちの多くが消費の世界に生きていて、お金を稼がないと暮らしが成り立たないというような状況を変えるということですか?

今の消費社会のシステムは自滅的だと思っているからね。実際、世界中の人が苦しんでいるし、そうやってお金に依存することによってみんなどんどん生きる力も失っていると思うんだ。お金=力になったら、それがないと何もできない人間になっちゃうよね。でも生きる力ってお金からくるんじゃないんだ。生態系の一部としての自分のなかからくるんだよ。

根岸

自分のなか。考えさせられます。

でも、消費社会は生態系とのつながりを見えにくくする。僕の活動はそこにフォーカスして、現代人が消費社会で失った生きる力を取り戻そうとしているんだ。たとえば食べ物の作り方や水の集め方、住処の作り方などの実践的な技術を学ぶのも大切なことだよね。僕はそれをこの道場で、みんなに身につけてもらえたらいいと思っているよ。

根岸

とても楽しそうですが、全部を習得するのはなかなか時間がかかりそうですね。

ゆっくりでいいんだよ。少なくとも僕はコスタリカのジャングルやブロックス農園で楽しく暮らしながら、生きる技術を身につけたよ。みんなができる範囲でやれることをやって、段階的に楽しみながら技術を身につけていくことが大事なんだよね。自給自足の暮らしや、お金ではなく恩を送り合う贈与経済もそうだけど、いきなりその世界に飛び込もうとするから無理がでてくるんだ。それがいいと思うなら、ちょっとずつやればいい。そうやって少しずつ生きる力を取り戻した参加者が日本中に散らばって、同じ考えで持続可能な社会をつくってくれたらいいな。

人生は楽しい修行

根岸

「持続可能な社会」を目指す活動でいえば、今回のプロジェクトにはgreenz.jp編集長の鈴木菜央さんも関わっているそうですね。

うん。彼もいすみ市でタイニーハウスに住んで、持続可能な暮らしやコミュニティづくりの実験をしているよ。いすみ市は都心からほどよく離れているし、彼と一緒にこのプロジェクトをやりたいと思って、僕も移住したんだ。目指しているのはみんなが軸になれる世界だけど、今の時点では僕と彼とほか数名がこの場所の中心になって、より多くの人を受け入れられる土壌をつくっている。土壌ってやっぱり大事なんだよね。有機農業もそうだけど、あれは植物を育てているんじゃなくて、土を育てているんだよ。いい土があればなんでも育つから。逆に土が悪いといくらがんばって肥料をあげてもだめなの。健康な土壌から無限の可能性が生まれてくる。TUPの世界観も同じだよ。生態系の一部であるみんなが、健康的につながりあって、支え合って、お互いを大事にしながら美しい世界を目指そうという考え方の土壌に、僕たちはエネルギーを注ぎ続けているんだ。


鈴木菜央さん(左)とソーヤー海さん(右)

根岸

TUPの活動自体は消費都市・東京を主戦場としてきました。場所を移しても、ターゲットとしての東京という捉え方は変わらないのですか?

変わらないよ。これは思考の転換なんだよね。たとえば、組織の内部からそのシステムを変えたい人が、結果的にそのシステムに飲み込まれてしまうことが多いように、東京のなかに住んでいるからといって、東京を変えられるわけではないと思ってる。少し離れたところから、東京のなかにいたときには見えなかったことを捉え直す。それによって、この巨大なシステムをどう変えていけるか、みんなで考えていきたいんだ。

根岸

距離をとることで思考を深め、力を蓄え、巨大なシステムに立ち向かうと。まさに海さんのパーマカルチャーは革命的な志にあふれていますね。

パーマカルチャーって一般的には、畑とか建物とか、エネルギーの循環システムとかハードな部分をデザインするんだ。それも大切なんだけど、僕はこの生態系との関係性を前提として、この社会を変えようとする意識の方にフォーカスしたい。やっぱりそこを育てていかないと、個人の力をはるかに超えるシステムには挑めないと思っているからなんだ。

根岸

だからこの道場に同志を集めていこうとしているんですね。

僕は、非暴力・不服従を貫いたインドの指導者ガンジーの思想に影響を受けているんだ。彼は『アーシュラム』という道場のような場所で15年間、78人のコアメンバーをトレーニングして、イギリスの塩税に抗議する『塩の行進』という有名な運動を起こした。既存の社会システムに挑むためには、少なくともそれくらい準備にかける時間が必要になるんだね。

でも、平和活動ってどんなに崇高な理想を抱いても、リアルに逮捕されたり、殺されたりする不条理な現実からは逃れられない。だから覚悟が必要なんだ。幸い僕はまだ逮捕されてないし、殺されてもいない。身の回りにも幸せが広がっていることを実感している以上、自分を信じてやれることはやっていくよ。もちろん楽しくね。

根岸

ではこの場所はガンジーの『アーシュラム』のように、深い思考のトレーニングをしていく修行場にもなる?

そうだね。幸せになる修行って、一瞬一瞬の幸せを実践してくことで意外にむずかしい。でもちゃんとやれば、確実に結果がでるはずなんだ。平和も同じだよ。平和って、今この瞬間に実践するしかないんだよね。実践するのは簡単じゃないけど、実践できたらその瞬間から平和が生まれる。平和って遠い未来にあるものじゃないんだ。

根岸

平和を願うなら、今、小さくても行動を起こしていくしかないと。

うん。そのとき、自分の心の世界はすごく大きな力を与えてくれるよ。その次が身の回りの暮らしの世界で、次が家族、友人関係。そこに働きかけるとちょっとずつ確実な結果がでていく。それしかないはずなんだけど、みんななぜか自分の心のケアや身の回りの関係性を差し置いて、巨大な問題をなんとか解決しようとする。ゲームでレベル1の勇者がいきなり、最後のボスに挑むなんて無理な話じゃない?僕はここに来るみんなに初めからディープなトレーニングを求めているわけではないよ。まずは来てくれた人を癒すのが先だと思ってる。都会の忙しさから抜け出して、自然を感じながらゆっくり心と体を休めてもらいたい。まずは人の痛みを癒さないと本質的な平和に行き着くことはできないから。

何を見て、生きるか?

根岸

世界は変えられるのでしょうか。

変えられるよ。変えられないと思ったら変えられないけど、変えられると思ったらいくらでも変えられる理由が思いつけるようになるよ。結局、何を見るかなんだ。

根岸

何を見るか。

昔はせっせと金儲けをして、でかい家を買って……なんてそんなことにも興味があった。でも、今はそんなことをやっても幸せじゃないなって感じる。それを手に入れたら、絶対にもっとでかいものがほしくなって、また足りなくなるから。足りないものを見たら、足りないものしか見えない。だったら何を見る? という話。

根岸

ポジティブな未来を想像するしかないですね。

僕にとって大切なのは、今生きている間にどれだけ人を幸せにして、自分も幸せになるかってことだよ。僕は今の資本主義社会は、人の不幸せを増殖させるシステムになってしまっていると思う。だからそれはやっぱり変えたい。誰だっていつかはかならず死ぬけれど、人を幸せにしない現状を維持して死ぬなんてそれこそ最悪のシナリオだと思っているから。

地球という名の「希望」

根岸

では、最後に聞かせてください。海さんにとってこの世界の「希望」は何ですか?

今、僕らが立っているこの地球があることだよ。僕らがどんなにコンクリートで道を固めても、放っておけばひびが入って、そこから必ず雑草が出てくる。さらに放っておけば茂みができて、木がでてきて、根っこがバリバリとコンクリートをはがして、森に戻ろうとするよ。これだけ徹底的に塗りつぶしたのに、その下には命が待っているんだ。塗りつぶしをやめた瞬間から都市は森に変わっていく。それが僕にとっては深い希望なんだ。

それともうひとつの希望は、どんな時代にもかならず人類の方向性を変えようとする人たちがでてくること。どんなに叩かれても、這い上がろうとする勇気を持った人たちがいること。より美しい世界を目指す種は、かならずみんなの心のなかにある。

プロジェクトデータ
  • プロジェクト名
    「消費者」から「文化の創造者」になろう!「パーマカルチャーと平和道場」プロジェクト@千葉県いすみ市
  • 支援総額/目標
    6,586,869円/4,400,000円(目標の150%達成・485人が支援)
  • 内容:
    これからの時代を生きるのに必要な技術を学び、「消費者」から「文化の創造者」になるための学びの場「パーマカルチャーと平和道場」を千葉県いすみ市につくる。

書いた人 : 根岸 達朗

フリーライター。発酵おじさん。ニュータウンで子育てしながら、毎日ぬか床ひっくり返してます/negishi.tatsuro@gmail.com

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