「ファッション業界の構造は崩壊した」インターネット時代のアパレルブランドとは?

「24ヶ月連続クラウドファンディング」を通じて分かったクラウドファンディングのメリット

「ファッションセンスがないから、オシャレはよくわからないんだよね」

友人と集まった時にファッションの話題が出ると、こんな風に“オシャレから逃げるヤツ”はいないでしょうか。

自分にはセンスがないからと流行の洋服を買うのを避けて「洋服なんて、着られればなんでもいい」と、つい言ってしまう。画面の前のあなたも心当たりがあるかもしれません。

「世界で一番ダサいブランド」と自らを揶揄する、「ALL YOURS」の木村昌史さん。彼は「街中に溢れている洋服は、今の時代に即していないんです。だからオシャレがわからないという人が生まれるんですよ」と話します。

例えば、カジュアルウェアの代表格ともいえる「ジーンズ」も、木村さんに言わせれば「時代に即していない」ファッションのひとつ。

そもそもジーンズは、ファッションを目的にしたものではありません。ゴールドラッシュに沸いた1870年代のアメリカで、鉱夫として働く労働者たちの「ズボンがすぐに破ける」という不満を解消するために生まれました。ヤコブ・デイビスという仕立屋が「だったら分厚い生地でパンツを作ればいいのでは?」とひらめいたのが、その起源なのです。

「もしヤコブ・デイビスが今の時代に生きていたら、固い生地でジーンズは作らないはず。そう思って僕たちは、今の時代のワークスタイルに合わせた新しいパンツを作ったんです」と、木村さん。

一般的なファッションブランドであれば、デザインに特化したり、機能を重視したり、はたまた安さを追求するのが普通なはず。ですが、木村さんの「ALL YOURS」はそれとはまったく別の発想。時代に即したアイテムを「24ヶ月連続、隔月で行うクラウドファンディング」を利用して生み出し、世の中に発信しているのです。


第一弾の「洗濯を繰り返しても、色が変わらない黒いパンツ」


第三弾の「寝る時ではなく、出掛ける時に身にまとう毛布」

なぜ現代のワークスタイルに合わせた服をクラウドファンディングで作ろうと考えたのか? そしてファッション業界が抱える現実とは? 
ファッションにまつわる「問い」について、木村さんに伺いました。


東京・池尻大橋にある「ALL YOURS」の店内

ファッション業界をインターネットがぶっ壊した。

長橋

そもそも、どういう経緯でブランドを立ち上げたのでしょうか?

木村

僕は元々、大手アパレル企業に勤めていたんです。そこで販売員から店長を経て、本社で企画も担当しました。アルバイトを含めると12年くらい勤めていましたね。ただある時、「俺、この仕事を70歳までできないな」と思ったんです。

長橋

なぜでしょうか?

木村

ファッション業界が、ある時を境に壊れはじめたからです。この業界で働き続けるなら、今までと同じことをしても仕方がないなと気付きまして。「ファッションの流行」は大きく3段階に分けられるんです。コレクション(※)で発表された新作が、次のシーズンのトレンドとして共有され、まずはごく少数のオシャレな人たちの間で流行します。次にトレンドに基づいた洋服を様々なブランドが作るようになり、徐々に世間の流行として一般層にも認知されていく。流行はこのような経路を辿ります。

※コレクション(ファッションショー)
ファッション業界では、各ブランドが次のシーズンに向けて新作を発表する期間をファッションウィークと呼び、年2回、約1ヶ月にわたり世界中の各都市でファッションの祭典を開催する。モデルに服を着せてランウェイを歩かせる場合もあれば、ショールームで展示をするだけのミニマムなコレクションも。

木村

流行の経路は、上の図のようなピラミッド構造に例えられます。僕の感覚ですが、昔はピラミッドの上から下まで降りていくのに3年くらいの時間がかかっていました。ファッション業界では流行っているけど、下の一般層の人たちまで行き渡らないものもあって。その構造を、インターネットがぶっ壊したんです。

長橋

インターネットがファッション業界をぶっ壊した……?

木村

インターネットが普及する以前は、コレクションを一般の人が見るなんて簡単にできなかったんですよ。それこそコレクションの内容が書かれた本が高額で販売されていました。でも、今では、YouTubeやInstagramなどで誰でも無料で観ることができます。コレクションの内容は来シーズンのトレンドです。以前はハイブランドだけが独占していた先のトレンドを、誰でも知ることができるようになった。それで大きくなったのが、ZARAやH&Mなどの「SPA」と呼ばれる自社で生産する小売業態なんです。

長橋

なるほど、トレンドを巡る情報の優位性がなくなったと。

木村

もう一つ、インターネットはファッションのメディアとしての雑誌も壊しました。昔はトレンドの発信源が雑誌に一極集中していて、「キムタクはヒス(HYSTERIC GLAMOUR)のダウンを愛用している」という記事を出せば、誰もが欲しがると思われていたんです。そうして流行が作られていたのですが、インターネットの普及により、キムタクのファッションをみんながいいと思っているわけではない、ということが知られてしまいまして……。

長橋

好みが細分化して、スターが成立しない世の中になったんですね。

木村

はい。要するに情報操作が出来なくなったんですよ。特にiPhoneが登場した時に、ファッションのようなトップダウン構造の業界は全部インターネットが壊していくのかなと感じたんです。当時はまだ会社勤めをしていましたが、そんな世の中の変化をひしひしと実感して、会社を辞めて起業したんです。これからのファッション業界に本当に必要なモノは「ユーザーファースト」だと。

長橋

ユーザーファーストというのは?

木村

「使い手を優先すること」ですね。例えばアメリカのワークウェアは、もともとユーザーファーストによって作られていたんです。鉱山で働く人のために作られたワークウェア「ジーンズ」は、破けにくいよう分厚い生地が使われています。分厚いもの同士を縫製すると地面に座るときに糸が簡単に切れてしまうため、リベットという金属で布を固定しているんですね。なのでリベットは装飾ではなく、機能性からつけられたもの。触ってみるとすぐに分かりますが、一番縫いあわせが多いところに付いています。

長橋

なるほど! 木村さんはそのようなユーザーファーストのものを、ご自身でやりたいと思ったと。

木村

はい。僕は「ALL YOURS」で、インターネット時代のワークウェアを作ろうと思っています。

私服を着る周期が、週2から週7になった世の中で。

木村

洋服には大きく分けて、「価格や機能性を重視するアパレル」と「トレンドやデザインを意識するファッション」があります。が、僕らはそのどちらにも属していません。例えば私服を着る回数って、最近では週2から週7になっている人が多いと思うんです。

長橋

確かに、働く際にスーツを着ない人が増えたかもしれません。

木村

はい。とはいえ、もともとアパレルウェアもファッションウェアも、基本的には休みである土日に着られる服として作られています。それが、産業構造の変化や働き方の多様化によって、スーツを着ない仕事の人が増えて、週7で私服を着るようになった。その結果、洋服の選び方が変わってきているんですよ。だからこそ、僕はこの時代に働く人たちが働きやすいワークウェアが必要だと思ったんです。それをジーンズで行ったのが、先日クラウドファンディングを達成した「パンジー」でした。


「ジーパンを発明した人が、今、新しいパンツを作ったら、きっとこんなパンツを作るはず」というコンセプトで作られた「パンジー」(通常価格16,200円)

木村

パンジーは色落ちしづらく、生まれた時のままを保つような仕上がりのジーンズです。僕はこの「まっさらな状態のジーンズ」が一番美しいと思うんです。ストレッチが入っていたり、通気性が良かったり、フロントボタンは脱着が簡単なスナップタイプのボタンを使用していたりと、実用性も備えています。

長橋

長時間座ってパソコン作業をする人が多いですから、履きやすさが重視されているのは嬉しいですね。以前、私服勤務の友人が「職場に何を着ていいのかわからなくて悩んでいる」と言っていたので、オススメしたい。

木村

「ALL YOURS」の洋服は、朝に起きて「何を着よう」と悩んだ時に「これを着ればいいか」と手にとってもらえるような服作りをしています。サラリーマンにとってのスーツのように、何も考えずに着ていただけるユニフォームのようになれば嬉しいですね。

 

クラウドファンディングで販売をするわけ

長橋

ALL YOURSさんは池尻大橋に実店舗を構えていますが、クラウドファンディングのリターンという形での販売も行っていますよね。

木村

ファッション業界はモノを先に作る商売なので、構造的に在庫過多になります。1アイテムにつき300着くらいを一度に作るのですが、僕たちの売り上げ規模くらいだと、300着がすぐ売れることはありません。結果、1シーズンをかけて売ることになるので、お金の回収が半年先になるんです。要はとってもキャッシュフローが悪い。それに比べてクラウドファンディングは、先払いで決済されるので、経営的に健全なんです。

木村

また自社生産の小売業態、つまりSPA以外のブランドの洋服は、原価率が30%くらいなので、卸すと儲けがあまりありません。その場合は、クラウドファンディングのような直取引の方が良いんですよ。卸販売で儲けを出そうとすると、マージンの関係で原価を下げるか上代を上げざるおえなくて、エンドユーザーである消費者にとって良くないんです。

長橋

余計なコストがかかってしまうんですね。

木村

ファッション業界のセールというのは、実は70%OFFの場合でもブランド側に若干の利益が出ます。つまり、セールで値引きする分のコスト込みで定価が設定されているんです。ゆえに、ブランドがリスクヘッジをすればするだけ、お客さんにコスト転嫁をするという構造が生まれていて。

長橋

そのような「ファッション業界の構造」自体も変えたかったということでしょうか。

木村

はい。こうした発想は、会社員時代に実行しようとしたんですけど……大きな会社は、会議が多くって(笑)。

長橋

なるほど……わかる気がします(笑)。

木村

意見が通るのに時間がかかるんですよね。もちろん意味のない会議ばかりではないですが、僕は自分の作ったものを、早く世の中に出したかったんです。クラウドファンディングの形にすれば、SNSでユーザーからの意見が得られますし、製品化の可否すらユーザーの意思で決まります。

長橋

まさに今の時代を取り入れているんですね。

木村

多分これはファッション業界だけではなく、小売業全体にも通じることだと思うんです。こんなに世の中に意見が溢れているのに、それを使わないのはもったいないじゃないですか。そういう意味でもクラウドファンディングはおすすめだなと。

 

2018年、最初のクラウドファンディングは?

木村

「ALL YOURS」を一番支持してくれているのは、「学生の時にファッションが好きだったけど、今は全然買っていない人」です。大人になって家庭を持つと、独身時代ほど自由にお金を使えなくなる。でも少しはアイテムにもこだわりたい。そんな人たちが僕たちの洋服に目をつけてくれています。例えば洋服の洗濯って、アイテムの値段が高くなるほど、ケアが難しくなります。カシミアやレザーなど、普通は洗濯機に入れられないですからね。でも「ALL YOURS」の商品は、「ストレスを取る」ことをコアに作っているので、洗濯も簡単です。

長橋

とにかく時間のない現代人には嬉しいですね。ちなみにALL YOURSでは昨年から「<24ヶ月連続クラウドファンディング」を実施中ですが、つい先日開始した企画もユニークですよね。

木村

今回は「服も使い捨てではなく、アップデートしていく選択肢が必要だ」というコンセプトで作っています。自宅にあるお気に入りの服を生活にフィットするように作り変えるプロジェクトなんです。


「ALL YOURS」第5回目となるプロジェクト「SECOND LIFE(セカンドライフ)」

木村

僕たちは洋服屋ですが、お客さんにムダなものは買って欲しくない。なので今回は新しいものは作らず、手元にある洋服や、世の中に流通している中古衣料に「新しい使いみち」を作っていきたいと思っています。 簡単に言うと、お客さんの自宅にある洋服を「ALL YOURS」で預かり、防臭加工や防水加工、黒染め加工などを施す試みです。このサービスはおそらく、日本の衣料品の歴史上、初めてなのではないかと。長時間着ても汗の匂いが気にならなかったり、長く着続けたことによる色褪せを解消できたりすることで、お気に入りの洋服を大切にしてもらう。そして、新しい洋服を買わなくなる。洋服屋の言葉としては矛盾があるかもしれませんが、僕らは服を選ぶときの「新しい選択肢」を体感してもらいたいんです。

長橋

家に眠っている洋服が僕もたくさんあるので、ぜひアップデートしてもらいたいです!

区切り線

木村さんはインタビューの中で、次のように話してくれました。

「以前、たまたま『ほぼ日(糸井重里さんが主宰するウェブサイト)』でTシャツを買ったんです。Tシャツの素材や作られる過程のストーリーについて、丁寧に面白く綴られた紹介文を読んだだけで欲しくなってしまい、初めて洋服屋じゃないところで洋服を買いました。

ここで気付いたのが、服作りのプロじゃなくてコンテンツ作りのプロの方が、洋服を売るのが優れているのかもということで。そうなると業界がひっくり返るなと思ったんですよね」

インターネットやSNSが発達し、ファッション業界も今、変化の時を迎えています。

パターンを引けなくても、デザイン画が描けなくても、アイデアがあれば誰でも洋服を作れる世の中。木村さんが思い描く「時代に即したアイテム」はオシャレとしての洋服ではなく、コンテンツとしての洋服なのかもしれないと感じました。

「オシャレがわからない」と嘆く人は、世間一般で言われている「自分に似合うものを着る」というより、木村さんの話す「自分の環境に合うものを着る」方がしっくりくるのかもしれませんね。

書いた人 : 長橋 諒

1989年生まれ、東京都昭島市出身。服飾専門学校を卒業後、都内の古着店で販売員として勤務。その後大手セレクトショップ販売員を経て、Web系編集プロダクションに入社。現在はフリーライターとして活動中。

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