【一部先行公開】経営者の孤独/CAMPFIRE・家入一真「決して埋まらない自分の穴から生まれるもの」

7月11日に、本連載「経営者の孤独」の書籍版がポプラ社から発売されます。
書籍版にはBAMPに掲載された8名の経営者のインタビューに加えて、オリジナルコンテンツとして2名分を新たに掲載予定。

今回は、そのうちの一人で、BAMPの運営元でもある「CAMPFIRE」代表・家入一真のインタビューから、前半部分を書籍発売に先立って公開します。

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「連続起業家」。

その言葉通り、21歳で最初の起業、29歳でJASDAQ上場、その後複数の会社を立ち上げ、現在は5社の代表取締役を務める。
同時に、多数の企業の顧問や取締役を兼任しながら、エンジェル投資家としてもさまざまなスタートアップ企業の支援に携わっている。

そんな家入さんはわたしにとって、「特定の会社の経営者」というよりはもっと大きな「概念としての経営者」というイメージだった。もちろん具体的な事業や大きなムーブメントをいくつも起こしている方なのだけど、より抽象的な存在としての「経営者」というのだろうか。家入さんに最後に「孤独」について聞きたいと思ったのは、そんな理由からだった。

家入さんの言葉で、印象的な言葉がある。

だから偉い、だから凄い、という訳ではなく、起業家とは、往々にして社会に馴染めなかった不適合者であり、むしろ自分側に社会を寄せることで、自分の信じる世界を実現しようとする人間なのだと思う。そういった意味で起業家とは業が深く、まさに「業を起こす」と書いて起業家なのである。

引用元:https://ieiri.net/blog/archives/4920

家入さんは、中学の頃にいじめを受けたのをきっかけに、人とのコミュニケーションが苦手になってしまい、高校を中退してからひきこもり生活を送っていた。会社勤めをしたこともあるが対人関係がうまくいかず、「誰にも会わないで働くには」と考えた結果、ひとり自宅で起業。本人は著書『我が逃走』(平凡社)の中で「どちらかというと逃げ腰、後ろ向きの理由から至った『起業』だった」と回想している。

家入さんは、中学時代からずっと居場所を見つけることができなかった。だから、「会社」という居場所を自分で作った。「自分側に社会を寄せる」というのは、そういうことなのだろう。それからおよそ20年経った今も、彼は居場所を作り続けている。

取材は、渋谷にあるCAMPFIREのオフィスで行われた。CAMPFIREは家入さんが代表取締役を務める、日本最大のクラウドファンディングサービスを行っている会社だ。エントランススペースには、CAMPFIREを通して生まれたプロジェクト作品がたくさん飾られている。
 
ミーティングルームに入ってきた家入さんは、ニット帽をかぶり、Tシャツを着ていた。挨拶をすると、わたしのほうをあまり見ないまま「よろしくお願いします」と低い声で話す。人見知りをする方なのだということは前々から著書やインタビューを読んで知っていたのだが、本当にそうなんだな、と思った。それから彼は席につくと、視線をデスクに落としたまま、

「孤独についてのインタビュー、緊張します」

と言った。「わたしも緊張しています」と返すと、「やめてください、もっと緊張するので」と言う。わたしたちは向き合ったまま少し笑った。ようやくこちらを向いた家入さんの目は、警戒しつつも興味を持っているような、そんな目をしている。それは、自宅に突然やってきた大人を観察するような、用心深い子供の目に似ていた。

ここに来るまでに、本当にたくさん彼の言葉を読んだ。インタビューの前には、相手の方の著書と取材記事になるべくすべて目を通すようにしているのだけど、家入さんはこれまで取材した方の中でも一番その量が多かった。いったいいくつのインタビューを受けてきたんだろう、と思うほどに。

だけど彼の目を見ながら、「この人は『慣れない』んだな」と思った。何度インタビューを受けようが登壇しようが、きっと彼は毎回こんな目をしている。それは驚くべきことだった。だって、自分のオフィスなのに、誰よりも居心地が悪そうな顔をしているのだから。

プロフィール
家入一真(いえいり・かずま)
1978 年生まれ、福岡県出身。株式会社paperboy&co.(現GMO ペパボ)を創業し、JASDAQ 市場へ上場。退任後、クラウドファンディング「CAMPFIRE」を運営する株式会社CAMPFIRE創業、代表取締役に就任。ほかにもBASE、partyfactory、XIMERAの創業、駆け込み寺シェアハウス「リバ邸」の全国展開、ベンチャーキャピタルNOW設立など。

居心地が良いと居心地悪くなってくる

土門

家入さんは今5社の代表取締役ですが、主軸はどこに置かれているのでしょうか?

家入

並行してやっているので、どれも主軸と言えば主軸なんですけど、現状で一番時間を割いているのはCAMPFIREかな……。CAMPFIREでは今、広げた風呂敷を整理整頓するフェーズにさしかかっていて、具体的に言えば上場を目指しているんですよ。僕が拡散させていくととんでもないことになるので、道筋をつけていかないとなって思っていて。でも、どんどんやりたいことが出てきちゃうんですよね……。

土門

それは、CAMPFIREの中でですか?

家入

うーん……なんか僕、新しいサービスをやろうってなったときに、今ある会社の中でやるべきか外でやるべきか、そこらへんがぐちゃぐちゃなんですよね。会社には、ミッションとビジョンのふたつがありますよね。それとは別に、僕としてのミッションとビジョンもある。それが完全に一致するのであれば中でやればいいし、ずれるのであれば新しく会社を立ち上げたらいいと思っているんですね。きれいに線引きできているわけではないんだけど、僕っていう人間の周囲に、ポートフォリオを作る感覚なんです。会社とかサービスという、作品を作る感じ。

土門

作品。

家入

「この時代においてこういうものが必要だよね」って言ってできていく僕の作品が、会社やサービスであるっていうイメージなんです。みんな一所懸命働いてくれているからこそ成り立っているものなので、こんなこと言うのはおこがましいんですけど。でも、働いているスタッフからすると、自分の会社の事業って大きな話じゃないですか。僕が「次はこういうことをやる」って言うと納得感あることでも、この会社でやるってなると納得感がないことって、結構あるんですよ。だから別の会社を新しく立ち上げたりするんですけど、その結果、会社同士が僕っていう存在を通じてゆるやかに繋がっている感じがするんですね。たとえば最初に立ち上げたペパボも、その後のBASEもCAMPFIREも、なんとなく雰囲気が似ているんです。もちろんそれぞれに違う人がいて、違うカルチャーがあるんだけど、なんか漂う空気が似ていて、兄弟感がある感じっていうか。

土門

このたとえが合っているのかどうかわからないんですけど、家入さんと会社の関係って一夫多妻制みたいですよね。家入さんっていうお父さんがいて、その時々でさまざまなテーマがお母さんとして掛け合わされる。たとえばこれまでで言うと個人向けサーバー、カフェ、金融、教育……でも、どのテーマと掛け合わせても父親は家入さんだから、私から見ると一貫性を感じるんです。そのすべてに「居場所」というキーワードが入っているな、というふうに。

家入

ああ、なるほど。そうかもしれないです。会社とかサービスって子供みたいな感じでもあるんですよね。……あの、僕は最初に作ったペパボで、上場したあとに退任しちゃったんですけど。その辞め方が、「ちょっと煙草買ってくるわ」って言ってふらっと出ていって、そのまま蒸発した親父、みたいな感じだったんですね。

土門

あはは。

家入

「今日限りで私は退任いたします」というちゃんとした感じで辞めたんじゃないんです。ぬるーっと会社からいなくなって、「最近家入さん来ないね?」って感じになって、気づいたらもうほかのところで新しいこと始めていた……みたいな。僕は割と、コミュニティを作ってはそういう辞め方をしてきているんですよね。でもだからこそ、決別にはなっていないんですよ。2年ぶりにペパボのオフィスにふらっと行ったときも、「ただいまー」って言うと受け入れてもらえ……いや、受け入れられてたのかな。わからないですけど(笑)。

土門

その、ぬるーっといなくなってしまうのは何でなんでしょうか。今の会社が嫌になったからではないんですよね? 新しくやろうとしていることが、別の会社でやったほうがしっくりくるな、と思ったからそうしたという?

家入

うん、確かにそうなんですけど、居心地の良い場所にいると居心地の良さが居心地悪くなってくるっていうか……。ひとつのコミュニティの中にずっといることができないんです。もうこれ、前世の業か何かによるものなんじゃないかと思っているんですけど。

土門

居心地の良さが、居心地悪くなってくる?

家入

このままじゃいけない!って気持ちになるんですよ。でもこのコミュニティを壊したいわけじゃない。じゃあ自分が出ていくしかない!っていう……わかります?

土門

それは……停滞感でしょうか?

家入

ああ、それはあるかも。自分がここで止まってしまうのが怖いっていう、恐怖心なのかもしれないですね。あと、僕の経営者としての役割のひとつに、「新しい価値観を組織にフィードバックする」ってことがあって。僕がコミュニティの中にいちゃうと、新しいことに触れる機会が限られてきてしまいますよね。だから、僕が飛び出したほうが結果的には自分の価値を一番発揮できているんだ、と信じているんです。まあ、飛び出すのは寂しいですけど。

土門

あ、寂しい気持ちはやっぱりあるんですか。

家入

あります。さっき言った蒸発した親父みたいなイメージで語るとすれば、ディズニーランドの帰り道みたいな……。

土門

ディズニーランドの帰り道……。

家入

わかります? さっきまであのキラキラしたところにいたのに、そこに僕はもういない、みたいな。だけどみんなの日常は依然としてそこにあって、これからも続いていく。そこには辛いことも楽しいこともあるんだろうけど、自分だけがいないっていう……そんな感じです。

土門

それは寂しいなぁ……じゃあ出ていくときには、両方の感情があるんですね。焦燥感も、寂しい気持ちも。

家入

まあ、自分勝手ですよね、本当に。

土門

今後家入さんが、ここからは出ていかないだろうなっていう、絶対的なホームを作る可能性はあるんでしょうか。

家入

それが全然イメージできなくて……僕はどうしたいんだろう。

土門

ある意味で、家入さんは居場所を作ってはそこから逃げているようにも見えるんです。それはなぜなんだろうなって思っていて。

家入

本当ですよね。逃げ続けることに存在価値を見出してしまっているのかな。それが自分の役割っていうか……わかんない。なんだろう……どうしたいんですかね?

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この続きは、7月11日に発売される書籍版『経営者の孤独。』にてお楽しみください。

■目次
まえがき
1 鴎来堂・柳下恭平「プライベートとパブリックを分けられないことに僕の孤独がある」
2 クラシコム・青木耕平「正気でいながら狂うこと。信用せずに信頼すること」
3 互助交通・中澤睦雄「だってしょうがない。ほかにハンドルを握る人がいないのだから」
インターミッション1「世界に触れる条件」
4 わざわざ・平田はる香「寂しさはそこにあるもの。哀しみはいつか癒えるもの。孤独は逃れられないもの」
5 クラシコム・佐藤友子「誰もが心の中にふたつの金庫を持っている」
6 L&Gグローバルビジネス・龍崎翔子「翔子だったら世界一の経営者になれるよ」
7 ウツワ・ハヤカワ五味「それはあなたの中の『私』であって、本当の『私』じゃない」
インターミッション2「この世界に『主』として存在するわたしたち」
8 SCRAP・加藤隆生「孤独と引き換えに、自分のアイデアを世の中へ送り出す」
9 矢代仁・矢代一「『人の道』に戻れば、暗く悩むことはない」
10 CAMPFIRE・家入一真「決して埋まらない自分の穴から生まれるもの」
あとがき

以下のリンクから事前予約も可能です!
『経営者の孤独。』Amazonページ

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書籍化によせて/BAMP編集部より

さて、ここで少しだけ、この連載が書籍化に至った経緯に触れさせてください。

『経営者の孤独』は前編集長である徳谷柿次郎による発案のもと、書籍化を前提に立ち上げられたウェブ連載です。そのため、著者である土門蘭さん、その担当編集者である柳下恭平さんに加え、ポプラ社の編集者である天野潤平さんをチームメンバーとして巻き込み、プロジェクトが発足しました。

でも、そもそも、なぜ「紙」にしようと思ったのか。

ここ数ヶ月間、いくつかのウェブメディアの閉鎖が相次いでいます。その多くは更新停止となり、記事も読めなくなってしまっています。ウェブの記事はインターネット上にアーカイブされ、いつでもどこでも読むことができるもの、と思われるかもしれませんが、一方で、運営元の事情やその他さまざまな理由から、あっという間に消えてしまう儚さも持っているのです。

しかし、ウェブの記事であっても、私たち作り手が全力を注ぎ、また取材者の方をはじめ多くの人々にご協力いただきながら作られていることに変わりはありません。

だからこそウェブの記事を1冊の紙の本という、半永久的に残る可能性の高い形にすることは、私たちウェブの編集者としては大きな意味をもつことだったのです。

今回、無事『経営者の孤独』が書籍化に至ったことを、BAMP編集部としても非常に意義深く感じています。毎回、記事が公開されるたび、SNSでの読者の皆さんの反応に一喜一憂しながら著者の土門さんとともに駆け抜けた約1年間の軌跡を、ぜひ書籍版『経営者の孤独。』で確かめてただけると嬉しいです。

BAMP編集長 友光だんご

書いた人 : 土門蘭

1985年広島生。小説家。京都在住。ウェブ制作会社でライター・ディレクターとして勤務後、2017年、出版業・執筆業を行う合同会社文鳥社を設立。インタビュー記事のライティングやコピーライティングなど行う傍ら、小説・短歌等の文芸作品を執筆する。共著に『100年後あなたもわたしもいない日に』(文鳥社刊)。

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