経営者の孤独/株式会社ウツワ・ハヤカワ五味「それはあなたの中の『私』であって、本当の『私』じゃない」

たったひとりでリスクをとり、責任をとり、決断をし続ける人々、「経営者」。
彼らを見ているうちにふと気づいたことがある。

それは、わたしの中にも小さな「経営者」がいるということだ。わたしたちはみんな多かれ少なかれ、自分自身の経営者であり、自分の人生という事業を営んでいる。

世の経営者が会社から逃げられないように、わたしたちもまた、自分の人生からは逃げられない。鎧をかぶってこの平坦な戦場を生きぬかないといけない。わたしが経営者に惹かれるのは、きっとそれが拡大化・社会化された存在だからなのだと思う。

1月。
原宿駅に降り立つと、曇り空から細かくみぞれが降っていた。

竹下通りにはお祭りのように人がたくさんいて、そのほとんどが若者だった。
耳がぴょこぴょこ跳ねるうさぎの帽子、虹みたいな色の大きな綿菓子、パステルカラーが踊るキャラクターグッズ店、元気に声を出す洋服屋さんのスタッフ。そのどれもがめずらしく、私は思わずキョロキョロしてしまう。

原宿に来たのは何年ぶりだろう。
前に来たときにも「お祭りみたいだ」と思ったのを覚えている。
ここで毎日働いているショップ店員の女の子や男の子たちって、これが日常なのかなと。

取材前に、今回インタビューするハヤカワ五味さんのお店を訪れた。
小さな胸の方に向けたランジェリーブランド『feast』、その姉妹ブランドである『feast secret』。そして細身の方向けのワンピースブランド『Double Chaca』。
ハヤカワさんが企画・運営しているそれらブランドの実店舗として、2017年にラフォーレ原宿にオープンしたのが『LAVISHOP』である。

お店には人形のようにかわいらしいスタッフさんが立っていて、Double Chacaのワンピースを身に纏っていた。SNSでしか見たことのなかったワンピースを実物で見ることができて、なんだか感動してしまう。
ランジェリーも、ワンピースも、繊細につくられた細工品みたいで、触るのもためらわれるくらいだった。
こういう服や下着を身につけると、まるで自分のからだごと大事にしているみたいな気持ちになるんだろうなあと思いながら、お店の中を静かに歩いた。

「カワイイを通して人をデザインしていく」
ハヤカワさんが経営する株式会社ウツワは、こういったポリシーを掲げている。

「どうして胸が小さいだけで、こんなに悩まないといけないんだろう。なぜ下着も可愛いものを選べないのだろう」

もともとは、そんなハヤカワさん自身の悩みから始まったという『feast』。
AカップやAAカップなどの小さな胸のことを「シンデレラバスト」「品乳」と名付け、そういった方が通常の下着屋さんでは手に入れることのできなかった、ジャストサイズかつかわいい下着を自ら作り出した。それがなんと19歳、大学生のときだった。

その4か月後には、株式会社ウツワを設立。
自身が会社を立ち上げた経緯について、ハヤカワさんはこのように語っている。

「feastがヒットした時、私が考えた『シンデレラバスト』や『品乳ブラ』の商標が、私よりも先に他社に取られてしまいました。これには驚きましたし、『大人はお金のためなら容赦なく権利を奪っていく』ことを知りました。そして、それに応戦しないと自分の夢が達成出来ないんですよね。株式会社ウツワを作ったのは、自分のブランドや夢を守るためです」
引用元:https://mag.camp-fire.jp/7901/

「ウツワ」という社名の由来については、会社を「容れ物だと思っているから」。だから会社自体には価値がなく、「ブランドを守るための『皮』として会社を経営したい」とおっしゃっていた。

ブランドを守るための「皮」。
その言葉を目にしたとき、わたしはふと「ハヤカワ五味」という名前について思った。

「ハヤカワ五味」という名前は芸名である。彼女の本名は、「稲勝栞(いなかつ・しおり)」という。

もしかしたら、「ハヤカワ五味」という存在もまた、彼女を守るための「皮」として機能しているものなのではないだろうか。
もしもビジネスを行う上で、「稲勝栞」さんが本体、「ハヤカワ五味」さんが鎧だとすれば、そのふたつの間に齟齬や乖離は生じないのだろうか?
あるいはそこに、寂しさや孤独を感じたりすることはないのだろうか?

ハヤカワさんには、そういったことをうかがいたかった。

ハヤカワさんに指定してもらったカフェは、原宿の、人通りが少ない路地に入ったところにあった。

時間通りに到着したハヤカワさんは、パーカーにジーンズとカジュアルな格好で現れた。きびきびと動き、はきはきと話す方だ。「飲み物は」という質問に迷わずオレンジジュースをオーダーする。それが届く前に、お互いに挨拶をした。

手渡された名刺には、
「株式会社ウツワ 代表取締役 稲勝栞」
と書いてあった。
それを見て、あれっと思った。「ハヤカワ五味」ではないのだろうか。

「よろしくお願いします」
目の前で気丈に微笑むハヤカワさんに、なんだか緊張した。

もしかしたらわたしは、見当違いなことを今から彼女に聞こうとしているのかもしれない、と。

プロフィール
ハヤカワ五味
1995年東京生。株式会社ウツワ代表取締役。大学在学中にバストが小さい人向けのランジェリーブランド 『feast』を立ち上げ、2015年に起業。現在は『feast』とその姉妹ブランドである『feast secret』、細身の人向けのワンピースブランド『Double Chaca』、ラフォーレ原宿にて直営店『LAVISHOP』を企画・運営している。

極論、「ハヤカワ五味」には実体がない

土門

名刺に書かれているお名前は、「ハヤカワ五味」さんではなく、本名の「稲勝栞」さんなんですね。ちょっと意外で、驚きました。

ハヤカワ

そうですね。会社では一応本名で統一しているんですけど、この名前読みづらくて。だから、「ハヤカワ五味」でもいいかなって思ってはいるんですけど。

土門

あ、そこはあまりこだわりはないんですか。

ハヤカワ

そんなにないですね。

土門

実は今日うかがいたかったことのひとつはまさにそこなのですが、ご自身の中で、「ハヤカワ五味」さんと「稲勝栞」さんは、どういう棲み分けをされているんでしょうか。

ハヤカワ

最近は、そこまで具体的に棲み分けはしていないんですけど。でも、「稲勝栞」のきれいな部分だけ加工して仕立てたのが、「ハヤカワ五味」だというのは思っていて。「稲勝栞」のダメな部分やノイズを削ぎ落として洗練させた、最適解としての存在が「ハヤカワ五味」なんですよね。……とは言え、最近は「ハヤカワ五味」としてというよりも、「ハヤカワ五味の中の人」として、人間的に好いてくださる方も増えてきたので、そういう意味では「ハヤカワ五味」と「稲勝栞」が切っても切れない関係になってきたように思います。15歳の頃からこの名前を使って発信してきたんですが、昔の方がそこは区別されていましたね。より「ハヤカワ五味」としての発信はこうあるべきだとか気にしていました。

土門

今はそんなでもないですか?

ハヤカワ

はい。今は、「私のなりたい像」と「ハヤカワ五味のなるべき像」が、同じところに終着しつつあるんですよ。目指すところが一緒になってきたから、そんなに分離させなくてもいいのかなって思ってきたんですよね。

土門

なるほど。ちなみにその「なりたい像」と「なるべき像」っていうのは、どういうものなんでしょうか。

ハヤカワ

ちょっと恥ずかしいんで、あまり言いたくないんですが(笑)。
私、「キュ〜トでクレバ〜な経営者」って名乗ってるんですけど、多分そこだなって。

土門

キュートでクレバー。

ハヤカワ

はい。それって、日本では相反するものだとされているなと思っていて。「賢さ・知性」と「かわいさ」っていうのが切られているんですよね。「知的じゃない、バカっぽい方がかわいい」とか、その最たるものじゃないですか。だからその相反するものが同時に存在している感じ、「知性」があることによって、より「かわいさ」に深みが出て人としての魅力が増す、みたいなところが私の目指したいところだなって思っているんです。

土門

それは「稲勝栞」さんとしても「ハヤカワ五味」さんとしても。

ハヤカワ

そうです。ある意味「ハヤカワ五味」の方が、世間からの評価が過剰にされていると思うので、「ハヤカワ五味」は私の半歩前、一歩前を行っているんですね。そこに、本来の私が追いつこうとしている、みたいな感じかな。

土門

「ハヤカワ五味」さんは、過剰に評価されているように感じますか。

ハヤカワ

感じますね。極論、「ハヤカワ五味」は実体がないんですよ。「ハヤカワ五味」って人から評価されて初めて成立するものだから。「稲勝栞」本体よりも過剰に評価されているからこそ、自分よりも先を行く存在になっているなっていうのは思いますね。

土門

そのふたつの自分が、乖離することはないですか?

ハヤカワ

目指している方向が一緒なので、それはあまりないです。目指している方向がずれてくると乖離するかもしれないけど、今のところふたりの目標が一致してるから。

土門

じゃあ、いつかは一緒になるという。

ハヤカワ

そう。だから、今はどっちでもいいなって感じなんですよね。


取材時にハヤカワさんがくださった「キュートアンドクレバ〜。」ステッカー

インタビュー序盤から、自分の立てていた仮説が崩れるのを感じた。

「もしもビジネスを行う上で、『稲勝栞』さんが本体、『ハヤカワ五味』さんが鎧だとすれば、そのふたつの間に齟齬や乖離は生じないのだろうか?
あるいはそこに、寂しさや孤独を感じたりすることはないのだろうか?」

その問いは、ハヤカワさんのきっぱりとした口調により否定されたのだった。

「ハヤカワ五味」と「稲勝栞」は、同じ方向を目指している。だから齟齬も生まれないし、乖離することもない。「ハヤカワ五味」が過大評価されていると感じることすら、「稲勝栞」のモチベーションのひとつになっているようだった。

その話を聞いたとき、「ああ、もしかしたら自分は、甘いのかもしれないな」と思った。

目の前の女性は、15歳の頃から「ハヤカワ五味」という名前を使って、インターネットやリアルな空間において自身の価値観を発信し続けている。
自分自身のメッセージを、プライベート / パブリックで分けるという考え方自体が、モチベーションにブレーキをかけるものであり、もしかしたら「経営者」的ではないのかもしれない。

そしてもっと言うならば、世間 / 私生活において意図的に人格を切り替えるという考え方も、「今」的……「インターネット」的ではないのかもしれない。

「極論、『ハヤカワ五味』は実体がないんですよ。『ハヤカワ五味』って人から評価されて初めて成立するものだから」
と彼女が言うのは、彼女の中で計算的に「こう見せたい」よりも、ナチュラルに「こうありたい」という思いのほうが強いからではないのだろうか。

それにしても、ハヤカワさんの受け答えが本当に素早くて驚いてしまう。
「彼女、頭の回転がめちゃくちゃ速いんです」
と、以前彼女にインタビューした人からうかがってはいたが、こんなに速いとは思わなかった。
「うーん」とか「えーと」などのクッション的な時間がほとんどなく、まるであらかじめ用意されていたかのように、答えがすっと出てくる。

きっと、ずっと言語化をしてきた方なんだろうな、と思った。
メッセージを発信し続けるというのは、生半可なことではないから。

わたしは気を取り直し、もう一度ゼロから彼女と向き合うつもりで、話を進めていった。

新しい「モテ」の価値観を輸入して、ローカライズさせたい

土門

会社を立ち上げられてから4年経ちましたが、今どんなフェーズに来ていると思われますか。

ハヤカワ

売上自体は上がってきているんですけど、もっと本気出していけるんじゃないかなってことを思っています。まだまだ多くのお客様にリーチできるんじゃないかなと。それで今は資金調達をして、よりエンジンをかけていこうとしているところですね。

土門

以前、中国進出も考えているというお話も、他の取材でされていましたね。

ハヤカワ

そうですね。中国や英語圏への進出は今もう進めているんです。それで大きな発見だなって思ったことがひとつあって。もちろん、日本から中国やアメリカへブランドを輸出するっていうのも大きなことなんですけど、一方で、中国やアメリカの価値観を輸入するのも大きな意味があるのかな、って思ったんですよ。

土門

価値観の輸入。

ハヤカワ

日本にずっといると気づきづらいんですけど、日本って島国なのもあってドメスティックな価値観になりやすいなって思っていて。特に「かわいい」とか「モテ」っていう価値観とかそうなんですよね。「モテる」って、今の日本だと基本的に「人に好かれる基準に自分を当てはめていく」傾向が強いですよね。人を立てたり、おしとやかにしたり、そういうふうにするとモテるんだっていうところに自分を寄せていく傾向にある。でもその一方で、「自分自身を高めていく」ことで好かれるっていうベクトルもあると思っているんです。私はそういう意味で、「モテ」というメインカルチャーに対抗するサブカルチャーを作りたいんですよね。

土門

ああ、なるほど。それは素敵ですね。

ハヤカワ

外向きに自分を良くしていって人に好かれるのか、内向きに自分を高めていって人を惹きつけるのか。日本では前者のやり方だけ語られがちだけど、海外では後者のやり方もよく語られていて、その価値観を輸入できたらいいなと思っています。
それは「モテ」を考えたときに全員がどっちかであれっていうんじゃなくて、選択肢として持っていられたらいいなということなんですよ。
たとえば「私はモテないから人に好かれるようにならなきゃ」って、無理して自分を型に当てはめなきゃいけないってことが、なくなればいいなと思ってるんです。うまくそういう価値観を日本にローカライズさせたい。
「専業主婦」っていう価値観ですら、この何十年かの間に作られたものなんだから、今始めたらこの先50年とか100年後とかの価値観も変えていけるんじゃないかなって思いますね。

スタッフと飲みに行くのが苦手なんです

土門

では今、会社として抱えている課題って何だと思われますか?

ハヤカワ

さっきの話にもありましたが、やっぱり売上ですね。実際はもっと立てられると思うんです。うちより圧倒的に数字出している会社って他にもあるので、それと比べると全然だなって思います。まあ、それを悔しいと思えないといけないんですけどね。私も、社内も。問題なのは、うまく社内で数値目標の共有ができていないことだと思います。デザイン系ってそれが難しいんですよね。「いいものを作る」っていうのはもちろん大事なんですけど、それってすごく漠然としているじゃないですか。数値管理しづらいし、評価しづらい。達成しなきゃっていう気持ちも醸成しづらいから、ひとりひとりのプロ意識にかかってしまうんですよね。そこは課題かな。

土門

スタッフさんは、今何名いらっしゃるんですか?

ハヤカワ

社員が2名で、経理とデザイナーがいます。あとは業務委託のデザイナーが外部に1名。それからショップ店員のアルバイトが10名ほど。

土門

その中でハヤカワさんの役割って何でしょう?

ハヤカワ

経営業はもちろんなんですけど、具体的にはマーケティング全般を私が担っている感じですね。方向性の選定だったり、どういう施策をやるか考えたり。

土門

なるほど。ちなみに、ハヤカワさんはスタッフさんと飲みに行ったりはよくされます?

ハヤカワ

あまりしないですね。それが結構、難しくて。

土門

難しい。

ハヤカワ

昔いたスタッフの子に、「私ももっといろんな人に会いたい。たくさん仕事をしている人と話していろいろ勉強をしたい」って言われたことがあったんです。だから私も気をつかって、バリバリ仕事していらっしゃる女性経営者との会食を組んだんですよ。そうしたら、その方がごちそうまでしてくださって。……だけど後日、その会食に連れていったスタッフから、時給が請求されていたんです。

土門

え、どういうことですか?

ハヤカワ

会食中の時給を、請求されていたんですよ。

土門

……なるほど。

ハヤカワ

私から誘ったわけではなくて、自分も会食に行きたいとお願いされたから組んだ会食だったんですけどね。しかも先方にごちそうにまでなって。それで時給請求されるんなら何でもだめじゃん、みたいに思っちゃって。それ以降、スタッフと飲みに行くのが結構苦手で。迷惑だと思われてるのかな、仕事だと思われてるのかなって、それがなんか悲しいし。だからその出来事以降、ちょっとスタッフの子を自分から誘えないんですよね(笑)。

「社内での数値目標の共有が課題」という話題が出たときに、少し気になったことがあった。それは、スタッフの方との関係性についてだった。

「『いいものを作る』っていうのはもちろん大事なんですけど、それってすごく漠然としている」

ハヤカワさんはそう言ったが、「いいものを作りたい」という思いは、彼女自身とても強いはずだ。
だけど、経営という仕事はきちんと数字として成果を出すことが求められる。
「いいもの」と「数字」のはざまで心から納得したものを作り上げるには、作り手との十分な対話が必要なのだろうなということは容易に想像できた。

そこで初めて、ほんの少しだけど言い淀んだハヤカワさんが、わたしは気になったのだ。

「ハヤカワ五味」と「稲勝栞」の最終目標が一致している場合には齟齬も乖離もないように、経営者とスタッフの関係性もそれと同じなのかもしれない。

では、そこが一致していない場合には?

なんとなくどきどきしながら話を続ける。
だけどそれに対してハヤカワさんは、どこか楽しそうですらあった。

「経営者は搾取するもの」というバイアス

土門

経営を行う上で、大変だなって思うことって何でしょう。お話をうかがっていると、やっぱり「人」でしょうか?

ハヤカワ

まあ、いろいろあるんですけど……。どこを切り取ったらおもしろいかな(笑)。

土門

(笑)

ハヤカワ

やっぱり端的にしんどいなって思うのは、搾取したくて経営者やってるわけじゃないのに、そう思われてしまうことですかね。勝手に「搾取する側」として仕立て上げられるのが辛い。

土門

え、ハヤカワさんが「搾取する側」として見られるってことですか?

ハヤカワ

よくありますよ。世の中には、「経営者は搾取する側の人間だ」って想像する人が多いなって感じます。だけど私、正直なところ、会社やらないほうが稼ぎ良いんですよ。インフルエンサーとしてひとりで仕事した方が、明らかに収入が高いんです。それでも会社としてやっているのは、「社会に対して何か還元したい」「関わる社員やお客様に何か還元していきたい」っていうのがあるからなので。そこを無視して、「搾取している」という目で見られると辛いですね。社内的にも社外的にも。

土門

そんなふうに、直接言われたりされることもあるんですか。

ハヤカワ

あります。辞めようとしたスタッフに、「私はこんなふうに思ってて」みたいに言われたことがあって。

土門

私はハヤカワさんに搾取されている、というような。

ハヤカワ

はい。だけど、彼女が言っているのって、彼女の友達の言葉だったんですよね。その友達が、自分の勤めている会社の社長に何か嫌なことをされたのかわからないんですけど、「経営者っていうのは搾取するものだ」って考え方を持っていて、それを同じ経営者ってだけで私に当てはめていたんです。その友達の考えに、スタッフの子自身も感化されちゃって。だから、「いやでも、それは私が実際にとった言動じゃなくて、あなたの友達が外から見て『ハヤカワ五味はこういう人間だ』ってバイアスをかけて想像したことでしょう」って言ったんですけど、彼女にとってはその友達が言ったことが100%になっちゃっていたんで。私の言動と乖離してるところで悪役のレッテルを貼られてしまったら、いくらコミュニケーションをとっても意味がないので、結構辛いなって。もっと事前に止められたらよかったんですけど。

土門

うーん……それは辛いです。だけど、その「経営者は搾取するもの」バイアスって、なぜかかってしまうんでしょうね?

ハヤカワ

やっぱり人って、自分にとって都合のいいことを言ってくれる人の意見の方を受け入れやすいんですよね。もし自分がしんどい状態だったら、人のせいにできる意見の方が受け入れやすいんじゃないかな。あとこの経済大国・日本において、上が儲かり下が酷使されるっていう構図が好きな人多いから。それに当てはめて言っているのかなって思いますね。

土門

ハヤカワさんの場合年齢も若いので、「同世代なのに、立場が違う」っていうので、余計にバイアスがかかるのかもしれないですね。

ハヤカワ

それもあるかもしれないですね。もちろん私自身がまったく正しいかと言うとそうではないし、間違っている部分もあるという前提で言いますけど、人によっては私が仕事できるって認めるのがしんどいのかもしれないです。スタッフと私でまったくスペックが同じだったりするので。女性だし、歳も近いし。ただ、「経営者」という世間のバイアスによって、私の意見を一個人のものとして受け入れてもらえないというのが起こっているのであれば、それはけっこうしんどいなって。

土門

なるほど……。ちなみに会社の中で、ハヤカワさんとスタッフさんをつなぐ、ナンバー2みたいな方っていらっしゃるんでしょうか。

ハヤカワ

いないんですよね。だから結構大変だなって思うことはあります。私、会社のナンバー2に立ってくれる人は、思考の深さとか本気度が自分と同じくらいの人がいいなと思っていて。

土門

本気度。

ハヤカワ

はい。「このミッションを達成しないと」っていうところへのコミットメントの強さですね。私は、心の底から「世の中の人がより多くの選択肢を持てたらいいな」って思っているんですよ。そのミッションに対して、自分がどれくらい貢献できるか。その思いの強さが、自分と近い人がいいなって思っていて。でもある意味、うちのスタッフはドライなので(笑)。どっちでもいいのかもしれない。それは結構寂しいですね。

土門

今、採用活動もされているんですか?

ハヤカワ

しているんですけど、難しいですね、やっぱり。いくつか要因はあるんですけど。ひとつは、もともと私がマイノリティーに寄り添うブランドをやっているので、「私も助けてほしい」という気持ちで応募されることが多かったことです。そういう人が増えてしまったのは、めちゃくちゃしんどかったですね。最近はnoteとかで発信するようになって、だいぶ良くなったんですけど。

土門

ハヤカワさんのところに行けば、助けてもらえるはず、みたいな。

ハヤカワ

そう。「学歴もないしできることもないけど、採用してもらえますか」みたいなメッセージをもらったりすることもあったんですけど、そんなのできるわけないじゃないですか。助ける側になる人を求めているのであって、助けてほしい人を求めているわけじゃない。成果出さないとお客さんに還元できないし、ボランティア活動でも何でもないんで。私は優しいからこういうことをやっているわけじゃなくて、経済的なルールに則ってやってるわけだから。

「信頼」はするけど「信用」はしない

土門

そうしたら今、経営の上での一番の悩みどころは「人材」ですか?

ハヤカワ

うん、人とお金ですかね。特に人は難しいなっていうのを、毎日感じながらこの4年間やってます。

土門

さきほど、スタッフと一緒に飲みに行けないってことをおっしゃっていましたが……それを聞いてふと、ハヤカワさんはスタッフさんの中で信じられる人っているのかなって思って。直接的な質問で申し訳ないんですが。

ハヤカワ

もちろん信じてはいますよ。それはもう、仕事だけではなく私のスタンスとして、一旦こっちが信じてからじゃないと、向こうからも信じてもらえないと思っているんですね。と言っても、全部託すわけじゃないんですけど……ああこれ、「信頼」と「信用」の話だな……。うん、「信頼」はしていますね、みんなに対して。でも、「信用」はしていないかもしれない。それは社員だけじゃなくて、結構多くの人に対してです。

土門

以前この連載で、クラシコムの青木さんにインタビューした際、彼も「信頼はするけど信用はしない」っておっしゃっていたのを思い出しました。

ハヤカワ

あ、そうそう。青木さんもおっしゃっていましたね。私も読みました。

土門

ハヤカワさんにとっての「信頼」と「信用」を定義するならば、何でしょう?

ハヤカワ

私にとっての「信頼」は、「その人のスキルを評価して預けること」のような気がします。一方で「信用」は、もっと「心を許してすきを見せること」というか。自分側がより開示することに近いのかな。だから、「信頼」の方がビジネスライクで、「信用」の方がプライベートですよね。

土門

なるほど。

ハヤカワ

極論、「信用」の方が適用範囲も広いし、傷つく可能性も高い。

土門

そうですね、そうだと思います。

ハヤカワ

信用する必要は、仕事においてはあまりないんじゃないかな?

「信頼」と「信用」。
それは、以前クラシコムの青木さんにインタビューした際にも出てきた言葉だった。

「経営者って、かなりのリスクをとりながらも、人を信じないと仕事にならないんですよね。だから、信頼する力はあるんですよ。でもその信頼が裏切られたときに『なんだよ!』って言ってしまうんじゃなくて、『あ、そっか。でも準備しているし大丈夫』って言えるのが良き経営者なんだと思うんですよね。信頼しつつ、別に信用はしないっていう」

「一事が万事、そういうスタンスだと思うんで、孤独といえば孤独かもしれないですね。無条件に信じるっていう相手が、この世に存在しないわけですから」

実はこのときわたしはあまりに話に熱くなり、青木さんに聞きそびれたことがある。
それは、
「『信頼』と『信用』の定義って何でしょう?」
ということだった。
文脈から「条件付きで信じることが『信頼』で、無条件で信じることが『信用』」ということなのかとは思うのだが、あとあとになっても、ちゃんと聞けばよかったと思っている件であった。

今度同じ言葉が出たら、必ずその方にはきちんと聞こうと思っていたのだが、ハヤカワさんはまるで用意していたかのように、すんなりと答えてくれた。
そして言ったのだ。

「信用する必要は、仕事においてはあまりないんじゃないかな?」

その言葉に、本当かな、と反射的に思ってしまったわたしは、やっぱり甘いのだろうか。

「信用」とは、傷つけられたときにその傷まで受け入れられる覚悟

土門

ハヤカワさんは、経営の悩みを相談できる人っていますか?

ハヤカワ

はい、友達にしますね。だけど、この1年くらいです、そういう友達ができたのも。前まで私、人に全然相談できなかったんですよ。だからこれって結構大進歩で。自分ができないってことを人に伝えるのができなかったんですよね。誰に相談したらいいのかもわからないし。そういう友達ができたのは大きな収穫だったなって思います。

土門

そういう友達がこの1年で増えたのは、何でだったんでしょうか?

ハヤカワ

大学を卒業して、学校に行かなくて良くなって、時間や場所に拘束されなくなったからかな。あと、興味ない会に行かなくなったんですよ。そういうのに行かなくなった代わりに、Twitterなんかで読書やゲームとか共通の趣味を持っている人と友達になることが増えて。そういう人って、思考回路とか視座の高さが自分と似ていることが多いんですよね。

土門

属性じゃなくて、思考回路や視座のあり方で友達ができるようになった、と。

ハヤカワ

そう。そういう友達って、同じ経営者じゃなかったとしても思考回路が似ているから、一緒に考えてくれる人が多いんです。私、人間関係の話には「正解ってない」と思ってて。でも、自分なりの正解を持ってしまっている人もいるんですよね。そういう人って、途中過程をスキップして考えやすい。それって結構危ないなって思っていて。今の友達は、正解のないことを一緒に考えてくれる人が多いような気がしますね。

土門

なるほど。そういう人に対しては、「信用」を感じます?

ハヤカワ

うん、「信用」に近いですね。「信頼」の外側に、さらに「信用」があるような感じ。「信頼」してさらに「信用」もしてるみたいな。

土門

それってより言語化すると、「この人だったら真面目に答えてくれるんじゃないか」っていう「信頼」があった上で、「この人だったら弱音を吐いてもいいんじゃないか」という「信用」があるみたいな感じでしょうか。

ハヤカワ

ああ、それで言うと、「この人と一緒に考えたら良い答えが出てきそうだな」っていう「信頼」があった上で、「この人は私にとってのベストを考えてくれるだろうな」っていう「信用」があるって感じかも。

土門

ああ、「ベストを考えてくれる」ですか。

ハヤカワ

その人のためになるわけではないけれど、「楽な答え」ってあるじゃないですか。それを簡単に出すんじゃなくて、その人のことを真剣に考えて、だめなときは正直に「だめ」って言う。それって結構しんどいことなんですよね。「そんなこと言うなんて、ひどい人だ」って思われるリスクもあるから。だけど今の友達には、「この人なら私のためを思って正直に言ってくれるだろうな」って思います。それは、信用ですよね。

土門

なるほど……。それは、本当に貴重な存在です。ハヤカワさんはさきほど、仕事には「信用」はいらないかも、っておっしゃっていましたけど、でも、「信頼」も「信用」もできる人がビジネス上でもいてくれたら、とは思わないですか。たとえば、社内のナンバー2的存在が、そういう「信用できる人」だったら、とか。

ハヤカワ

それはやっぱり思いますよ。基本的に私は極力、信頼も信用もしようと思っているので、それに応えてくれる人がビジネスでもいてくれたらいいなって思います。あるいはこの人だったら信用して傷ついてもいいなって思える人。

土門

ああ、傷ついてもいい、か……。

ハヤカワ

結局信用するって、傷つけられたときにその傷まで受け入れられる覚悟があるかどうかだと思うので。そこまで思える人が、今後仕事の面でも出てきてくれたらいいなあとは思います。

人を縛らない期待と、人を縛る期待

土門

悩んだりとか嫌なことがあったりしたときに、気持ちが折れちゃうことってないですか。

ハヤカワ

今はもうないですね。これまで散々折れたんでもういいかなって(笑)。死ぬわけじゃないし。それに悔しがることと違って、落ち込むことってレバレッジかからないんですよね。だから意味がないので、落ち込まないようにしていますね。もう切っちゃう。「こんな感じか」って。

土門

ああ、なるほど。

ハヤカワ

あと、普段から人に期待しないようにしているので。基本的に期待せずに、いいことがあったときだけ喜ぶようにしているから、落ち込まないのかも。

土門

期待、しないんですか。これまでもそうでしたか?

ハヤカワ

いえ、もともと期待するタイプだったんですよ。だけど、いろいろあって期待しなくなりました(笑)。期待って、2種類ありますよね。ひとつが「この人ならいいようにしてくれるだろう」っていう広く淡い期待。そしてもうひとつの期待が、「この人だったらこうしてくれるだろう」っていう具体性を伴った期待。多分、多くの人が感じている期待の定義って、後者の方だと思うんです。分かりやすく言うと、恋人に対して「彼なら私の喜ぶことを何かしらしてくれるだろう」っていうのが前者の期待。それに対して、「彼だったら私の誕生日にディズニーランドに連れていってくれるはずだろう」って具体性を伴うのが後者の期待。後者の期待って、人を縛る期待ですよね。そしてそっちの期待の方が、世の中には多い気がするんです。

土門

なるほど、おもしろい。

ハヤカワ

私は人に対して、前者の期待だけするようにしています。「この人だったらいいようにしてくれるだろう」っていう期待はするけど、「こういうふうにしてくれるだろう」っていう具体的な期待は一切しないようにしているんです。そうすると、裏切られたとか落ち込んだとかいうことを、感じないんですよね。

土門

人を縛らない期待と、人を縛る期待……。確かに、そうですね。そのふたつあると思います。

ハヤカワ

しかも後者の期待って、悲しむ可能性の方が高いじゃないですか。その期待が達成されたとしても、あまり嬉しくないから。なぜならそれって、「期待」よりも「予測」に近いから、「予測通り」ってことなんですよね。だから、むしろ「予測通り」にいかなかった悲しみの方が大きくなってしまう。前者の期待のみをするように心がけていることは、その「予測通り」にいかなかった悲しみを減らすことになっているかなって思います。もともと自分は「この人ならこうしてくれるだろう」っていう期待をするタイプだったんですよ。でも、大抵そうしてもらえないことに気がついてしまったんですよね(笑)。だからもういいかなって思っています。

コンプレックスの鏡として機能している「ハヤカワ五味」

土門

期待しないことで落ち込まないでいたとしても、「寂しい」と思うことはありますか?

ハヤカワ

さっきの話でも出ましたけど、「経営者」ってバイアスをかけられて、「個人」として向き合ってもらえないときはやっぱり寂しいですね。意外に、人って他人の話を聞いてないんです。自分の思い込みと人の話を、ごちゃごちゃにする傾向がある。あなたの中の「経営者」の話であって、それは私の話じゃないっていう瞬間が、結構あるんですよ。とくに私は普段の情報発信が多いので、それを元手に彼らの中だけで勝手に結論づいてしまっていたりすると、いやもっと目の前の私と対話してほしいなっていうのは感じます。なんか、向き合っててもディスプレイ1枚挟んでる感じがするんですよ。そこを超えてこようとしてくれている人とは、仲良くなっているんですけど。

土門

ディスプレイっていうのはつまり、彼らの中の「ハヤカワ五味」像ということですか。

ハヤカワ

そうそう。「ハヤカワ五味」だったらこういう話をしてくれるだろうっていう希望だったり期待だったり。

土門

特に直接出会う前に、SNSでのハヤカワさんから入った方は、そうなる傾向が強いのかもしれないですね。すでに自分の中に「ハヤカワ五味」像が出来上がっていって、実際に人間関係が始まったら、その像との齟齬が生まれるっていうか。

ハヤカワ

私としては、外でも内でも違わないつもりなんですけどね。だけど、人ってものを見るときにどうしてもバイアスがかかりがちなんです。そしてそのバイアスっていうのが、その人のコンプレックスとか価値観とかを反映している。だから、その人の「ハヤカワ五味」像にその人のコンプレックスが映し出されるなっていうのは思ってて。

土門

わ、それはすごいな……。具体的には、どういった感じなんでしょう。

ハヤカワ

何パターンかあるんですけど。例えばハヤカワ五味を理由なしに「めっちゃ性格悪い」と思っている人は、自分よりできる人が嫌い、とかですかね。だからせめて性格悪くあってほしいって思っちゃう。あと同じタイプで、ハヤカワ五味は「料理できない」とか(笑)。私、人なみに料理得意で自炊もするんですよ。仕事できる奴はせめて料理できないでほしいっていうバイアスがかかってるのかなって思います。

土門

あの人は性格悪いから、あるいは家庭的じゃないから仕事できるんだ、みたいな。

ハヤカワ

コンプレックスについての本を読んだら、そういうふうに、自分の中でバランスをとるためにバイアスをかけるっていうのはあるみたいです。だから私はその犠牲になったんだなって思いますね。あとは、ハヤカワ五味は「めちゃくちゃキツい性格、男性的」だとか思っている方もよくいらっしゃいます。

土門

ほー。

ハヤカワ

女性が仕事しようとすると、どうしても男性との対抗軸を作られやすいんです。特にちょっと上の世代はその傾向が強い。その反動で、仕事できる人は男性性が強いっていうバイアスがかかりやすくなっているように思います。それが私に重ね合わせられたときに「男性的」とかいう印象を持たれやすい。そういう方は女性に多いんですけど、女性として仕事することに苦労されてきたのかな、とかは思います。一度、取材してくださった女性のインタビュアーが、男性批判的な考え方を押し付ける人だったことがあるんですよ。「ハヤカワさんって、こういうふうに考えていらっしゃるんですよね?」って聞かれるんですけど、それは私の意見じゃなく、彼女の意見なんです。案の定、あげられた原稿を読んだら、私の話じゃない。これ、あの人の話じゃんって。言ってもいない言葉を書かれてしまったりとかして。

土門

うーん、それはひどい。

ハヤカワ

私は、話した内容の一部をそのまま抜かれても語弊がないように話していたつもりなんですけどね。すっかりそのインタビュアーの話になっていた。

土門

ハヤカワさんは、その人の鏡として見られていたんですね。

ハヤカワ

そう。鏡として機能しているんです。

土門

でもそうなると、こっち見てないじゃん、みたいな。

ハヤカワ

そうですね。どこ向いて話しているんだろうっていう瞬間はあります。そういう時、「ハヤカワ五味って孤独かもしれないな」って思うんですけど。

土門

実は私、取材に来るまでは、「ハヤカワ五味」と「稲勝栞」の乖離した部分に孤独があるんじゃないかなって思っていたんです。だけどお話を聞いていると、ハヤカワさんの中ではその共存は自然にできている。むしろ、他者が他者の中にある「ハヤカワ五味」像としか関係性を結べていないところに孤独があったのかなって。

ハヤカワ

私はSNSが当たり前の世代で、表アカ、裏アカ、どっちもあって普通じゃん、っていう価値観なんですよね。プライベートもパブリックも、特別分けなくても両立するよねって。だけど他者の中にある「ハヤカワ五味」像の話になると、別ですね。それって、「女性である」というだけでも起きやすいことなんですよ。例えば私に年収自慢をしてくる人とかいるんですけど、それって私に関係ないじゃないですか。私の方が年収が高くても、「すごいですね」って言わなきゃいけない、みたいな。それって「ハヤカワ五味」とか「稲勝栞」に対してじゃなくて、「女性」に対して話しているんだなって思うんです。誰と喋ってるんだよっていう。

土門

個人と個人じゃない感じ。

ハヤカワ

そうですね。「女性」に話しているだけで「私」に話しているわけではないから。

土門

そういったことが、ハヤカワさん自身を蝕んだりとか、損なったりとかはしますか。

ハヤカワ

うーん。あるにはあるけど、それでもさっき話したように、身近にいてくれる友達ができたので。でも、そういう人が現れるまでは、孤独だったかもしれない。だから最近です。

土門

ここ1年でできた友達っていうのは、目の前のハヤカワさんとちゃんと話してくれている感じがしますか。

ハヤカワ

そういう感じがします。極論、友達にとっては、私の年収とかフォロワー数とか、どうでもいいんですよね。それよりも、私が何を考えてどういう経験をしてるか、そういうことを知りたいっていう人たちなので。そんな友達がちらほら現れたことは、素直に嬉しいなって思いますね。

土門

ある意味そこで「孤独じゃない」場所が確保できた。

ハヤカワ

それは大きいです。まあでも、孤独であっても自由であったりするので、いいのかなって。「孤独」って、「孤」で「独」立しているってことですからね。ネガティブな意味が伴うこともあるけど、私はそんなにネガティブには感じないかな。椎名林檎も言ってました。「孤独とは自由」って(笑)。

土門

お友達といるときに不自由を感じることってないと思うので、ハヤカワさん自身、孤独は孤独なのかもしれないですね。

ハヤカワ

そうですね、不自由だと友達じゃなくなっちゃう。

土門

じゃあ、「孤独」であることと「寂しい」ということは、やはり別のものですか。

ハヤカワ

うん、そうかもしれない。「寂しい」って、満たされているときと比べるから起きる感情じゃないですか。他人や過去の自分と比べることで起きる感情。私はあまり比べないから、寂しいって気持ちは少ないかも。それに対して、「孤独」って状態ですよね。絶対的な状態。

土門

こっち見ないで誰と喋ってるんだよっていうのは、独立したハヤカワさんを見ていないってことですもんね。それはなんか、寂しいっていうよりも……。

ハヤカワ

そうですね。それを、昔は寂しいって感じていたけれど、今はもっと深いつながりができている人がいるから、寂しいすら思わずネタになってきているのかもしれない(笑)。そういう空虚に対して話している人もいるんだなっていう。

土門

それってディスコミュニケーションですもんね。コミュニケーションがそもそも成り立っていない。

ハヤカワ

そうそうそう。

価値観を残すだけではなく、プラスαで「作品」も残したい

土門

「経営者を辞めたい」と思ったりすることはありますか?

ハヤカワ

それはずっと思ってます(笑)。

土門

わ、そうなんですね。

ハヤカワ

いきなりスタッフが飛んだり、ひどい人扱いされたり、自分じゃない自分に対しての悪口を言われたりしていると、もう誰に怒っていいのかもわからないし、とにかくやたらとしんどくて。経営者やるよりも自分ひとりでやった方が稼げるのに、そこまで言われながらもやらなきゃいけない仕事だっけ?というのは何度も思いました。それだったらインフルエンサーとして、テレビなりネットなりでより正しい発信をしていった方がいいのかな、みたいな。

土門

経営者ではなくインフルエンサーとして活動していても、同じ「キュートでクレバー」という目的地に到達できますか?

ハヤカワ

できますね。でもやっぱり、私は価値観を残すだけではなく、プラスαで「作品」も残したいんです。そして自分自身、ひとりで何かを作るよりも、多くの人や情報を統合していく方が得意だと思っているので、それを活かせるのはプロデューサー的な立ち回り方なのかなと。

土門

じゃあ経営者を続けているのは、人と関わりながら作品を作っていきたいから。

ハヤカワ

そうそう。単純に、自分に合ってるんだと思います。自分はこの仕事をしてた方がいいなって思いますね。

土門

こうなったら、経営を辞めようっていうのはありますか?

ハヤカワ

今の会社で言うと、ブランドが継続させられる形に落ち着いたら離れるって決めています。例えばブランドを買収してもらったりとか、何かしらの形でまわっていけるようになったら離れようと。

土門

ハヤカワさんにとって、本当に会社って「ウツワ」なんですね。

ハヤカワ

所有には、あまり興味がないんですよ。

土門

その価値観が作品として残ればいい。

ハヤカワ

そうそう。だから今は、ウツワを一回ばらして、また新たに作り直そうかなって思っています。やっぱりちゃんと準備して行った起業ではないので、これがベストなウツワだとは思っていないんです。

土門

じゃあ、今はそこを目指しているんですね。ウツワから出ていって、ウツワ自体を壊すところを。

ハヤカワ

はい、目指してます。だから今、投資とか売却の話も事業と平行して進めています。

土門

そのあとのことは考えていらっしゃるんですか?

ハヤカワ

売却したら、どっちにしろその会社にロックアップで2年とか入らないといけないと思うので、社員生活をしてみたいなって。そして、そこで新規事業を立ち上げることに集中できたら嬉しい。

土門

ウツワがなくなっても、「ハヤカワ五味」さんは残りますか。

ハヤカワ

そうですね。まだまだ、発信するべきことがありますから。「ハヤカワ五味」は15歳くらいから続けているけれど、継続することに意味があるので、今後も久しくやっていこうかなとは思っています。インターネットって、その履歴が残っていくじゃないですか。アーカイブされて、検索していつでも見られることに意味がある。そういう意味では「ハヤカワ五味」ってすごくインターネットっぽいですよね。

取材が終わると、ハヤカワさんはスマートフォンを確認し、「わっ」と声を出して笑顔を見せた。

「見てください、これ。めちゃくちゃかわいくないですか?」

見せてくれたのは、ご自身がファンであるという絵描きの方に描いてもらった似顔絵だった。
スマートフォンを覗き込みながら、
「わ、本当だ。すごくかわいいですね」
そう言うと、とても嬉しそうに笑いながら、スマートフォンを両手で大事に抱える。
その姿を見ながらなんとなく、彼女はこんなふうにひとりの女の子でありながらひとりの経営者なんだろう、と思った。
自然にハヤカワ五味であり、稲勝栞であるのだろうな、と。

きっとそのふたりが自然と共存できているのは、「ハヤカワ五味」だけでなく「ハヤカワ五味の中の人」を愛してくれる、信用できる友達が彼女を支えているからなのだろう。
肩書きでも、年収でも、フォロワー数でもなく、ただひとりの人間として何を考え、何を経験してきたかということに興味を持ってくれる人。
そして一緒になって、答えのない問いや、答えのない未来について考えてくれる人。

そういう友達は向き合っているようで、実は一緒に同じ方向を向いている。
隣どうしで、お互いの存在をそのまま受け入れ合いながら。

その一方で、バイアスのかけられた「経営者」像、コンプレックスの鏡としての「ハヤカワ五味」像でしか見られないこともあると、彼女は言う。

相手はハヤカワさんそのものではなく、自分の作った「経営者」像・「ハヤカワ五味」像と対峙している。そこに映っているのはハヤカワさんではなく、相手のコンプレックスだ。
だからそこには、コミュニケーションは発生すらしていない。ただただ、人を縛る「期待」があるだけなのだ。

今回の話でいちばん心に残ったのは、
意外に、人って他人の話を聞いてないんです。自分の思い込みと人の話を、ごちゃごちゃにする傾向がある」
という言葉だった。

ああ、本当にその通りだなと思う。
わたし自身、そういうバイアスをかけられて見られることもあるし、むしろ逆にバイアスをかけて人を見ることもある。だからすごく反省した。

それは寂しいとか、孤独だとか以前の問題だ。
自分を守るために、信頼も信用もしようとしていない。

ハヤカワさんはその様子を、「ハヤカワ五味」像の向こうから冷静に見ている。

「『ハヤカワ五味』ってすごくインターネットっぽいですよね」

彼女は最後にそう言った。
これまでの試行錯誤、発言、作品、すべてが履歴として残っていくこのインターネットで、彼女は自身の価値観を発信し活動し続けることを恐れない。

なぜかというと、多分、信じているからだと思う。

「こっちが信じてからじゃないと、向こうからも信じてもらえない」

自分のメッセージは誰かにちゃんと届くのだと、彼女は信じている。

たとえバイアスをかけられて見られても、話をちゃんと聞いてもらえなくても、絶対にありのままのメッセージに耳を傾けてくれる人はいる。
そして「この先50年とか100年後とかの価値観も変えていける」。

そう信じているから、彼女はインターネットを使って世界に発信し続ける。

「ハヤカワ五味」とは、そんな彼女の軌跡なのかもしれない。

区切り線

後日、この原稿の校正を行っているときに、ハヤカワさんから連絡をいただいた。
彼女はちょうどこのインタビュー時大きな変化の直前だったらしく、直近で業務上に大きな動きがあるとのこと。
詳しくは続報を待っている状態だけど、もしも可能なら、変化後のハヤカワさんにまたインタビューをしてみたいなと思う。

そのとき、彼女はどんな表情をして、どんなことを話すのだろう。

取材=京都文鳥社

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書いた人 : 土門蘭

1985年広島生。小説家。京都在住。ウェブ制作会社でライター・ディレクターとして勤務後、2017年、出版業・執筆業を行う合同会社文鳥社を設立。インタビュー記事のライティングやコピーライティングなど行う傍ら、小説・短歌等の文芸作品を執筆する。共著に『100年後あなたもわたしもいない日に』(文鳥社刊)。

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