リスク無視で挑んだ「めがね米」。決断力が生んだ地方発ヒット商品

国内のめがねフレームの9割以上が作られている福井県。その生産量の多さは世界全体のなんと2割を占め、イタリアや中国とともにめがねの世界三大産地にも認定されています。

そんな、まさにめがねの聖地ともいえる福井県で生まれたある商品が話題になっていることをご存じですか?

その名は『めがね米』。生産から精米、販売まで全ての工程をめがねをかけた人だけで手がけたという、なんとも一風変わったお米です。

このめがね米が知られるようになったきっかけは、2016年に福井県鯖江市で開催されためがね好きのためのイベント「めがねフェス」。イベントで販売されるやいなやSNSで反響を呼び、瞬く間に話題のお米になりました。

そんなめがね米は、生産農家と精米会社、販売会社の三者が協力し生産しています。今回お話を聞いたのは、精米の工程を担当している「福井精米株式会社」。福井県で1976年から続く精米会社です。

同社の代表を務める樋田 光生(ひだ・みつお)さんは、「デザインとアイデア次第で、どんな特産品でも戦っていけるはず」と言います。
樋田さんがめがね米を通して学んだ、地域の特産品における成功の秘訣とは何だったのでしょうか?

きっかけは何気ない会話から


福井精米代表の樋田光生さん。福井県出身。2014年より同社の代表をつとめる。

菊地

そもそも、どういった経緯でめがね米を作ることになったのでしょうか?

樋田

きっかけは、渋谷にあるウェブ制作会社「株式会社mgn」の方々とコーヒーを飲んでいたときの会話です。mgnさんとは共通の知人が引き合わせてくれたのですが、「めがねをかけた人たちだけで作った『メガネ専用日本酒』がある」という話題で盛り上がって。
私たちはめがねが名産の福井が拠点。mgnさんは代表のニックネームが「めがね」で社名の由来になっており、めがねを推している会社です。その場で「めがね繋がりで何か一緒にできないか」という話になりました。そこで、「めがねをかけた人だけでお米の生産から精米、販売までをやったら面白いんじゃないか」というアイデアが生まれたんです。

菊地

会話から偶然生まれた発想だったんですね。とはいえ、めがねをかけた人だけでの商品づくりというのは難しそうですが…。

樋田

いえ、うちの工場で働くスタッフにも取引のある農家さんにも、眼鏡をかけている人はいたので。挑戦するためのハードルはそう高くありませんでした。ゼロから始めるとなると、新たな設備投資など、それなりにリスクもあります。ですが、めがね米の場合は今あるモノをどうデザインし直すかが重要でした。だからこそ挑戦しやすかったんです。取り扱っているお米の品質には自信もあったので、以前から見せ方次第ではもっと良くなるとは考えていました。めがね米に使っているお米も一番ランクの高い一等級で、なおかつ味度が80点以上のお米のみを使用しています。

※味度とは、お米の味を科学的に分析して出される数値のこと。一般的なお米の味度は70点前後

新しいことへ挑戦するのに大切なのは「やりたい」という気持ち

菊地

いざ、めがね米を作ると決めたとき、周囲の反応はいかかでしたか?

樋田

社内からは「本当に売れるの?」と不安がる意見もチラホラありました。めがねをかけた人が精米を担当したところで、味や品質が変わるわけではないので(笑)。でも、社員の説得は全くせず「売れなかったらそれはその時。まずは作って!」と押し切りました。面白そうだからまずやってみよう、というノリと勢いといいますか。

菊地

実際、社内にめがねをかけたスタッフの方は何人いたのでしょうか。

樋田

10名ほど在籍しているのですが、業務の都合上、めがね米の梱包を担当できるのは、わずか3人だったんです。

菊地

その人数で梱包をするのは大変だったんじゃないですか…?

樋田

想像以上に過酷でした(笑)。うちの会社が担当するのは、精米から計量、専用のパッケージに詰めて紐を結ぶまで。この紐を結ぶのも手作業なので、3人でやるのはギリギリで。めがね米は1度に1500個作りますから、単純に計算しても1人500個。これが通常業務にプラスされます。その3人には頭が上がりません。

菊地

裏にそんな苦労が…。その後、めがね米はSNSを中心に大きな話題となりました。実感はありますか?

樋田

Twitterで話題になったことに加えて、ヴィレッジヴァンガードさんのウェブショップで取り扱っていただいたときは「これは成功した!」と思いました。販売やPRに関してはmgnさんにお任せしているのですが、とても嬉しかったですね。

菊地

これだけ話題になったら、売上にも結びついたのではないでしょうか?

樋田

実はめがね米は、利益がほとんど出ていません。それは多分、mgnさんも同じだと思います。デザイン費や人件費を考えると、ほとんど利益度外視。でも面白そうだからやってみようと、みんなで協力して取り組んでいるんです。新しいことに挑戦するにあたって大切なのは、自分がやりたいかどうかだけなんですよね。「とりあえずやってみよう」「売れなければそれでもいい」くらいの気持ちでいないと、新しいことは始められないんです。

アイデア次第でどんな場所でも戦える

菊地

利益度外視で挑戦した結果、めがね米で得られたことはなんだったのでしょう?

樋田

自社のブランディングに繋がったことは大きかったですね。うちの会社を知ってくれた人も増えましたし、こうして会社がメディアに取り上げてもらえるようになったのも、めがね米のおかげです。あとは採用面でも変化がありました。福井に縁もゆかりもない学生さんからのエントリーが増えたり、Uターンを考えている方から問い合わせをもらったりするようになったんです。全てがめがね米の影響かはわかりませんが、以前とは確実に状況が変わりましたね。

菊地

自社の露出が増えた結果、学生たちの目にとまるようになったと。それは嬉しいですね。

樋田

嬉しいといえば、もう一つ。お客さんが私たちの商品を「必要だから買うのではなく、好きだから買ってくれた」ということがなにより嬉しいですね。めがね米の価格は、一般的なお米と比べるとかなり高めに設定しています。パッケージのデザインや袋詰めのコストがかかるので、どんなに頑張っても今の値段(1袋2合で500円)くらいになってしまいます。それでも数あるお米のなかから、めがね米を選んで購入してくれるお客さんがいる。そのことは、作り手としてとても光栄です。うちは今まで、手頃な値段でお米を販売することに力を入れていました。ですから、めがね米のように安くない商品でもちゃんと売れることを、私含め社内のみんなが実感できたのは大きかったです。自分たちの作っているお米に自信が持てました。

大切なのはアイデアとデザイン、そして挑戦する気持ち

菊地

ずばり「めがね米」を通して、樋田さんが実感していることは何でしょうか?

樋田

「とりあえずやってみることの大切さ」に加えて、「アイデアとデザインの重要性」です。地域によっては「名産品や売りになるものが何もない」と諦めている人も多いようですが、私は何もない地域なんてないと思うんです。私たちの場合はお米でしたが、お菓子でもお酒でもいい。いまあるモノを、どう活かしていくかが勝負だと思います。つまり、アイデアとデザイン次第では、どんな地域でも十分戦っていけるはずなんですよ。

菊地

と、いいますと?

樋田

お米の売り方を例に挙げてみましょう。お米といえば、多くの人が新潟の「魚沼産コシヒカリ」を思い浮かべますよね。でも新潟がここまでブランドを確立させているのは、一説では地元出身の政治家・田中角栄さんのプロデュース力によるものだとも言われています。なんでも新潟のコシヒカリをイベントで使ったり、贈り物にしていたそうで。なんにせよ、地元のお米を他地域の人に見つけてもらえるようなアイデアを持っていたのは確かだと思います。

菊地

田中角栄さんがいなければ、コシヒカリはここまで普及していなかったかもしれない……。

樋田

逸話として聞いたことがあるだけなので、詳しいことはわかりませんけどね(笑)。実際、福井県大野市と新潟県魚沼市の気候は似ているので、コシヒカリの味に環境の違いによる差は少ない気がします。それどころか、大野市は日本で一番水道水がおいしいとされるほど、良質な水のある土地。お米づくりに水は欠かせませんから、個人的には福井県産のコシヒカリの方がおいしいとさえ思っています。

菊地

確かに、味だけでどのお米が新潟産なのかはわからないかもしれません。

樋田

そうですよね。味が変わらないのであれば、そこに差を生むのはアイデアだと思っています。自戒を込めて言いますが、ただ「いいモノを作れば売れる」と信じている人が多すぎる。確かに品質は重要です。でもモノ作りにおいて、品質を求めるのは当然のこと。見つけてもらえなければ意味がない。いいモノを作ったその先で、お客さんにいかに見つけてもらうか、ということが大切だと私は思っています。

菊地

それがアイデアとデザインの重要性ということですね。

樋田

はい。繰り返しになりますが、今の時代、アイデアとデザイン次第で十分に戦えます。でもそれに欠かせないのが「とりあえずやってみよう!」という気持ち。どんなに良いアイデアがあったとしても、やろうとしなければ意味がありません。でも逆に言えば、やってみようという気持ちとアイデア、デザインさえあれば、なんとでもなるのではないでしょうか。現にめがね米がそうでしたから。

区切り線

アイデアとデザイン次第では今あるモノで十分戦うことができる、と語ってくれた樋田さん。

しかしその根底にあるのは、「とにかくやってみよう」という強い気持ち。「売れなければそれでいい。また挑戦するだけ」、そんな前向きな姿勢と行動力があったからこそ、めがね米は成功しました。

樋田さんの話を通じて感じたのは、リスクばかりを考えず、とにかくやってみることの大切さ。いまはインターネットやSNSの普及により誰もが発信者になれる時代です。既に住んでいる地域による差はなく、そこにあるのはやるかやらないかの違いだけ。「田舎だから、仕方ない」という言い訳が通用しない世界が、すぐそこまで来ているのかもしれません。

「普通のお米」がめがね米という「すごいお米」に変わったように、どんな地域の特産品でも、きっと何かに変身できる力を秘めているのですから。

店データ
  • めがね米
  • 福井県の鯖江市で育った真面目に美味しい、100%コシヒカリのお米。生産農家、精米業者、販売者、みんなめがねをかけている人たちだけで育てました。味はもちろん太鼓判。ぜひ一度、食べてみてください。

書いた人 : 菊地誠

自社メディア事業を手がける西新宿のデジタルマーケティング企業、株式会社キュービックのPR担当兼ライター。タイ人と2人で暮らしています。タイでドリアンの畑を作成中。

写真 : 小林 直博

長野県奥信濃発のフリーペーパー『鶴と亀』で編集者兼フォトグラファーをやっている。1991年生まれ。ばあちゃん子。生まれ育った長野県飯山市を拠点に、奥信濃らしい生き方を目指し活動中。

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