ほぼ日・糸井重里が考える「ドコノコ」とやさしいインターネット

SNSの悲鳴から犬猫アプリが生まれた理由

「小さな声を届ける」というコンセプトで新たに誕生したメディア「BAMP(バンプ)」。同コンセプトに沿った企画を考えていたときに思い出したのが、あの人のツイートだった。

糸井重里さん。

広告業界に詳しくない人だって、
「ジブリ映画のキャッチコピーを書いた人だよ」とか、
「テレビゲームの『MOTHER』シリーズを作った人だよ」とか、
「『ほぼ日手帳』の人だよ」と紹介すれば、
「ああ、あの人!」と認識する、日本屈指のクリエイターであり、株式会社ほぼ日の代表である。

僕が糸井さんのツイッターをフォローしたのはたしか2015年ごろだったけれど、当時の糸井さんのアカウントの印象は、語弊を恐れずに言うと「迷子の犬猫情報を拡散するBot」だった。事実、ほぼ毎日、犬や猫の迷子情報を拡散されていたのである。

「日本を代表するクリエイターが、なぜ?」

当時は疑問に思ったけれど、200万人のフォロワーを抱える糸井さんの拡散によって救われた犬や猫がいることは、恐らく間違いない。今振り返ってみると、あのRTも「小さな声を届ける」ひとつの方法だったと思う。

2017年現在、糸井さんの「迷子の犬猫ツイートの拡散」は、いぬねこ写真アプリ「ドコノコ」に姿を変えた。

同アプリ内にある「このあたりの迷子」機能は、まさにあの拡散の声を集約し、地域ごとに使いやすくしたものだ。

糸井さんは、あの迷子犬や猫の「小さな声」について、どのようなことを考えていたんだろう? 改めて聞いてみたくて、外苑前にある「ほぼ日」事務所まで、足を運んだ。

ツイッターに集まる小さな声と、糸井さんの大きな悩み

カツセ

ということで、「小さな声を届ける」がテーマのメディア・BAMPで、糸井さんとドコノコの取材をしたいと思ったんです。

糸井

ツイッターや町田の情報だけ発信していると思ったら、いろんな仕事をしてるんだねえ(笑)。

カツセ

はい、すみません……(笑)。それで、「小さな声」と聞いて最初に浮かんだのが糸井さんの「迷子犬猫ツイートの拡散」だったんです。どういったことがきっかけで、あのリツイートを始めたんですか?

糸井

うーん。何か、狙いがあったというわけではないんです。ただ、当時から僕は“フォロワーが多い人”って見方をされていたし、それに、飼っている犬の話もよくしていたから、「迷子を捜してください」ってツイートが、勝手に集まるようになっちゃったんです。


糸井さんの愛犬・ブイヨン。14歳のジャック・ラッセル・テリア。ドコノコの糸井さんの投稿は、ツイッターとはまた違った温かさがある。それは純粋に、飼い主としての糸井さんの愛情があふれているからかもしれない。

カツセ

糸井さんのツイッターアカウントを、メディアやプラットフォームのように使う人たちがいたんですね。

糸井

そうです。そしたら、迷子の声がものすごくたくさん届くようになったんですよ。管理しきれなくなるから、一時期はパソコンで一覧表を作って、「これはいつツイートして、いつ見つかった」とか、全部記録していったんです。

カツセ

経過を全て残していたんですか!?

糸井

大変だったんですよ(笑)。ひとりでやっているから漏れもあるし、もう何年も前にいなくなった犬の相談とかも届くし。

カツセ

そんなことまでされていたなんて、知らなかったです……。

糸井

情報の交通整理みたいなことをしているうちに、なんだか、駅員さんみたくなっちゃったんですよね。「遅刻しちゃうんだよ!」って詰められるような、プレッシャーを受けるときもあって。それにちょっと、腹が立つときもあったんですけどね。

カツセ

ボランティアなのにそこまでしていたら、精神的にかなりキツそうですよね。

糸井

たまに「迷子だった犬が見つかった!」って連絡も来るんです。ただ、それが僕の拡散のおかげかは、わからないでしょう? 

カツセ

たしかに、直接的な効果があったかどうかは、わからないですもんね。

糸井

あと、情報が増えていくと、本当に知りたいことが埋もれて、ノイズが増えて、誰も見なくなっちゃうんですよね。それも、困っちゃうなあと。

カツセ

なんだか、東日本大震災のときの感覚と近いですね……。

糸井

そうなんです。震災のときにあった、ツイッターの「困った流れ」みたいなものも思い出して。このままではちょっとなあと思っていました。助けることができるのは近所の人たちだけ。助かる確率が高いのは、いなくなってからできるだけ早い時点で情報が広がったときなんですよね。そんな感覚もあって「届けるべき場所にきちんと届くようにしたいなあ」と前から思っていたんです。

すべての犬猫に戸籍を――「ドコノコ」の誕生

カツセ

じゃあ、本当に必要とされている迷子の声を近所の方に届けるために作られたのが、アプリ「ドコノコ」だったんですね。

糸井

もちろんそれだけじゃなくて、ほかにも、いくつか「ドコノコ」を構成する要素が重なったんです。たとえば、自分の犬や猫の写真をみんなで見せ合うときに、カメラロールを遡る時間がやたらと長いよなあと思って。あれは、みんな犬や猫をわざわざアルバム別にして保管していないってことなんですよね。

カツセ

それはそうかもしれませんね。

糸井

だから純粋に、うちの子も、よその子も、みんなの犬や猫をまとめて見られたらいいなあと思って。それも、頭の中で考えていたことのひとつではありました。

カツセ

それで迷子のときだけではなく、日常的に使えるアプリになったんですね。

糸井

ほかにも、捨て猫や飼育放棄の猫のことも、どうにかしたいなあと考えていて。人間だと、保護者のいない子どもっていないんですよ。公の施設がその替わりをしていることはあっても、全員に所属があるんです。戸籍がない人は、密入国者みたくなっちゃう。全員が誰かに属しているんですよ。

カツセ

たしかにそうですね。

糸井

それで、じゃあ、すべての犬や猫にも戸籍を作ればいいんだって思ったんです。犬や猫に戸籍を作ったら、きっと近所でよく見かける猫にも所属ができるから、みんな交代でご飯をあげたり、避妊の手術をしたり、そういう活動にももっと責任感が生まれるし、大事にされると思うんですよね。

カツセ

家で飼っている猫だけでなく、地域猫にも戸籍を作れるんですね。

糸井

野良を望んでいる犬や猫もいるかもしれないけれども、最低限、命だけは守ってあげられたほうが、人間にとっても幸せだと思うんです。不幸な生き物がさまよっているだけで、もう、街自体が不幸なんですよね。街が不幸ってことは、人も不幸ってことになるし。

糸井

それで、いざ作ろうとしたときに一番難しかったのが、自分の住んでいる住所が明らかになることを嫌がる人がいるってことで。

カツセ

ああ、そうか。戸籍を作るには住所が必要ですけど、個人情報を気にされる方は、たしかに多そうですよね。

糸井

それについて話し合う期間が長かったんですけど、結果的に採用されたアイデアが、震災のときなどに使った「避難所」だったんです。

カツセ

避難所! たしかにそれなら全国にありますね。

糸井

全国にある避難所のデータを、ある方がひとりで全て集めて「全国避難所ガイド」というアプリを作っていたんですね。その方からデータをいただいて、ドコノコで使うことができたんです。避難所って、都内なら一つの家庭につき、いくつもあるんですよ。だから住所は特定されにくいし、あえて遠くに設定してもいい。そのくらいの緩さが、ちょうどいいんじゃないかなあって。

カツセ

いろんな要素が組み合わさって、「ドコノコ」が完成したんですね。

糸井

そうです。それで悩みだった「ノイズを減らす」っていう役割は果たせて、「ドコノコのおかげで見つかりました!」という声も、何個かは届くようになった。「迷子が見つかるよ!」って責任持って大きな声で言うことはできないけれど、登録していたから、救えた命もあったのかなあって思っています。

カツセ

動物愛護の問題って、人によってものすごい温度差があると思うんです。「ペットショップや動物園をなくすべきだ!」とか、「飼い犬に服なんか着せるな!」とか、いろんな声があると思うんですけど、「ドコノコ」を作るにあたっても、気にされたことってありましたか?

糸井

極論を言い始めると、「デートコースを紹介することは、恋人がいない人を傷つけている」って理屈と同じことになりますから。「そっちを考えちゃうとキリがないよね」という話は、よくしていました。「カツセマサヒコ」のツイートとか、ものすごくたくさんの人を傷つけているよね(笑)?

カツセ

そんなことはないと思ってるんですけど……(笑)。


「傷つけている」と言われる僕のツイートに、コメントする糸井さん。恋愛に関するツイートひとつ取ったって、不快に思う人がいるのは事実である。(むしろメチャクチャ多いのかもしれない……)

糸井

だから、できることならば、影に向けた対処法を考えるのではなくて、光の当たっているところをクリアしていこうという考えでやっています。震災のときも、こうした二面性を持った議論はいっぱい経験しましたからね。「ドコノコ」もリリースしてちょうど1年になりますけど、本当に大変なことや、言えないことには責任を持てないし、「ここまでだったら言ってもいいんじゃないか」ってことを、これからも遠慮がちに言っていくんだろうねえ。

糸井さんが考えるインターネットとの付き合い方と、ドコノコがもたらすもの

カツセ

ひとつの出来事に光と影があるっていう意味では、SNSで議論されるテーマも大抵そんなものばかりだと思うんです。情報を伝える手段が増えた一方で、個人の思想や正義も強く外に出せるから言い争いも起きていると思うんですけど、糸井さんは、SNSのいいところと悪いところ、今はどちらの割合が高いと思いますか?

糸井

うーん。僕はインターネットの「いい部分」で付き合っているつもりなので、僕個人にとってはいいところが大きいですよね。ちょっとツイッターを遡れば出てくると思うんですけど、昔、「自分がSNSにおいてどういう意見を信用するか」っていうのを5項目くらい書いたことがあって。


糸井

あれは、結構苦心して考えて。今も変わっていないですね。こんなふうに自分の立ち位置とか、距離感とか、そういうものを決める工夫が必要になるんだと思います。

カツセ

これ、すごいですね。2011年に書かれていますけど、今だからこそ刺さるような気もします。

糸井

「こんなふうには言われたくないなあ」ってことこそ、言いますからね、人は(笑)。そこは人類に普遍的な弱みでもあると思います。それに、一見とんでもない意見だったとしても、信じたい人には信じられてしまいますから。それによって、僕らだって傷つくこともありますし。

カツセ

だからこそ、立ち位置や情報との付き合い方が大事なんですね。

糸井

あとは、悪口の言い方で、その人の弱いところが大体見えてきますよね。たとえば「アイツは金に汚い!」とやたら言う人は、その人自身、お金に汚いのかもしれないし。

カツセ

たしかに! 執着があるからこそ、強く言ってしまうことはありそうですね。

糸井

そうですね。だから、相手も自分も、追い込まないことですよね。それぞれの幸せを追求していく中で衝突することはあっても、たとえば「ペットに服を着せる・着せない論争」で、戦争は起きないでしょう? 相手を追い込まず、自分は自分と思うことも大切だと思うんですよね。

カツセ

一方、インターネットというシビアな空間の中で、“かわいい世界”を実現できるのが犬猫の魅力でもあるんですよね。

糸井

そうですね。犬や猫を主人公にしているおかげで、年収とか地位とか、人間同士のつまらないやり合いがないんです。犬や猫を通して会話する、一種の腹話術だと思っています。あと、僕らも迷いはあったものの、最終的にやってよかったと思っているのは、亡くなっちゃった犬や猫の写真もアップできるんですよ。天国に行った子たちのアルバムって、人が見に来てくれると、お墓参りしてもらったみたいな嬉しさがあって、ものすごく喜ばれるんですよね。

カツセ

本当に“あたたかいインターネット”があるんですね。

糸井

僕もいろんな仕事をしてきたけれど、「大ファンでした!」って言われるのは大体「MOTHER」で、「作ってくれてありがとうございました!」って言われるのは「ドコノコ」なんです。これまででこんなに「ありがとう」と言われたサービスは、ないですね。1年経って、使ってくれる人たちがどのくらいいるかはなんとなくわかりました。だけど、地方にはスマホを持っていない人がまだ多いし、山に住んでいる人とか、避難所どころか半径2キロには犬や猫が一匹もいませんってこともあるから、課題はまだまだあります。いずれにせよ、みんなが「ドコノコ」をやってくれたほうが、救われる人が増えるんですよね。何百万でも何千万でも登録者が増えて、本当に世界中の犬や猫に戸籍が付いたらいいなあとは思っています。

おわりに

「迷子の犬猫をどのように救うか」という悩みから始まり、さまざまな要素がパズルのように組み合わさって誕生した「ドコノコ」。

小さな声に耳を傾けて作られたアプリは、リリースされて一年たった現在、犬や猫が大好きな多くのユーザーによって世界中で愛されている。

それでも、糸井さんは現状で満足するわけにはいかないと話し、小さな声から始まったこのプロジェクトは、まだ躍進を続ける。

自分が犬や猫を飼っていなくたって登録できるから、仕事の合間に、移動先で、「この地域にはどんな子がいるのだろう」とアプリをいじってみてもらいたい。

「犬や猫を見ているわけじゃなくて、人が犬や猫を可愛がっているその視線を見ているんです」と話す糸井さんの言葉の意図が、一目見ればわかるはずだから。

写真=小林直博

書いた人 : カツセマサヒコ

1986年東京生まれ。明治大学を卒業後、2009年より大手印刷会社の総務部にて勤務。趣味で書いていたブログをキッカケにプレスラボへ。2017年4月に独立。

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