リラックスしたければ炎を囲め! 焚き火専門店に聞いたブームの裏側

いま「焚き火」人気に火がついていることを知っていますか?

オートキャンプ人口が2013年から5年連続で前年を上回り(※1)、雑誌やテレビでも特集が組まれるなど、近年のアウドドアブームでキャンプやBBQを楽しむ人が増えています。その影響で、人気のキャンプ場では2月時点で早くもゴールデンウィークの予約が殺到しているほど。

このアウトドアブームの理由はいくつかあります。まずはSNSの普及で、アウトドアを楽しむ様子をInstagramなどで発信する人が増えたこと。メーカー側も、機能だけでなくデザインにも工夫を凝らした商品を次々と発売しています。

さらに、キャンプ場もかつての不衛生なイメージを刷新。水洗トイレやシャワーはもちろん、温泉付きのキャンプ場なども登場し、手ぶらで豪華なキャンプを楽しめる「グランピング」(※2)の影響もあり、子どもや女性でも安心して楽しめるキャンプ場が増えているのです。

そんななか、アウトドア好きが次に注目しているのが「焚き火」です。

焚き火というと落ち葉などを集めて地面で燃やすイメージを持っている人も多いかもしれませんが、現在、多くの人が楽しんでいる姿は、それとは少し異なります。

まず、近頃のキャンプ場の多くは地面で直接火を燃やす「直火」を禁止しています。

そこで用いられているのが、直火禁止の場所でも焚き火を楽めるギア「焚き火台」。需要の高まりとともに、近年は専門店も登場しています。


焚き火台は火床が地面から離れているため焦げ跡を残さず、後片付けもしやすい

ではなぜ、焚き火は人を惹きつけるのでしょうか?

そこで訪れたのは、アウトドアで使う「火」をテーマにしたショップ「iLbf(イルビフ)」

店内には焚き火台から薪ストーブ、オイルランプに石油ストーブ、そして薪まで、「火」に関する幅広いギアが揃い、全国のアウトドアファンから注目を集めています。

オーナーの堀之内健一朗さんに、焚き火を変える「薪」選びや人をリラックスさせる火の効果など、焚き火のコツとブームの背景について聞いてきました。

※1 「オートキャンプ白書2018 巻頭要約」(日本オートキャンプ協会)より
※2 グランピング……「グラマラス(Glamorous)」と「キャンピング(Camping)」を合わせた造語。あらかじめ用意されたホテル並みの設備やサービスを利用して、自然の中で過ごすキャンプのこと

団地内に突然、店が! なのに焚き火も楽しめる


オーナーの堀之内健一朗さん。会社員を経て車中泊専門店を立ち上げ、2016年に「火」をテーマとするアウトドアショップ「ilbf」をオープン。趣味のハンググライダーとともに、野外での焚き火を楽しんでいる

いろいろ気になることはあるのですが……まずショップ名が特徴的ですよね。どういった意味でしょうか?

「iLbf」は「I LOVE THE BONFIRE(=焚き火)」を省略した造語なんです。

「焚き火が大好き」……シンプルに愛を感じさせるネーミングですね。ショップの二軒隣にもギアが置いてありますが、何のスペースですか?


ショップと焚き火スペースの間の物件も、カフェとしてオープン準備中だそう

実際に焚き火を体験できるスペースです。サンプルの焚き火台が置いてあって、実際に薪をくべて燃やすことができます。

お店で焚き火ができるなんて魅力的ですが……iLbfがあるのは団地のど真ん中ですよね。焚き火をしても大丈夫なんでしょうか?


iLbfがあるのは1973年から建設され、ピーク時には2万3千人の人口を擁したマンモス団地「みさと団地」(埼玉県三郷市)。その中の商店棟に、iLbfは店舗を構えている。場所を決めた理由はIKEAやコストコなど商業施設が近いこと、駅から徒歩圏内なこと、外環自動車道の内側なことの3つだそう

管轄する消防署に指導を仰ぎ、法令遵守で営業しているので地元の方にも安心してもらっています。夏祭りのときは団地の方たちが囲む焚き火でにぎわいますよ。

郊外とはいえ住宅地ですから、焚き火ができるスペースは貴重ですね。それに客目線でも、使ってから購入できるスタイルはありがたいです。

慎重に選んでほしいですからね。焚き火台はコロコロ買い替えるわけにはいかないので。私自身、お店を始めてからフィールドに行く機会が減ったこともあって、ここでよく火を楽しんでいますよ。


この日は薪ストーブで火が燃やされていた

以前はキャンプといえば夏場のイメージでしたが、最近ではシーズン性が薄れ、年間を通して楽しむ傾向になってきています。むしろ、ここ数年は冬キャンプが人気なんです。

寒さが苦手という人でも、冬キャンプならではの魅力もあります。人気キャンプ場の予約が夏に比べて取りやすかったり、虫がいないので快適に過ごせたりしますから。

そこに寒さ対策ができれば言うことなしですから、焚き火やストーブが必要になるわけですね。

ントの外では焚き火をして、テントの中では薪ストーブや灯油ストーブを使う人も多いです。ただし、一酸化炭素中毒の恐れもありますから、テント内でストーブを使用する際は一酸化炭素を測るチェッカーを利用したり換気したりして、安全は心がけてほしいです。


体験スペースで、実際に火を燃やして試すことができるギア

ニッチな商品こそ生き残りのカギ

ショップの中も、一日中でも見ていられそうな品揃えです。そもそも、どのような経緯で「火」をテーマにしたショップを作られたのでしょう?

ここに到るまでには紆余曲折がありました。元々アウトドアは好きだったのですが、7年前に脱サラをして、国内を軽キャンピングカーで旅したんです。その後、車中泊用のアイテム専門のネットショップを立ち上げました。

でもショップを続けるうちに、いつのまにか大好きだった焚き火用のギアばかり仕入れていることに気づいたんですね(笑)。そこで焚き火に特化したショップのアイデアが浮かびました。

でも冷静に考えてみたら、「冬はいいけど、夏は何を売ればいいのか?」と……。

私も焚き火は好きですけど、暑い夏場には好んで燃やさないですからね。

最初は躊躇しましたが、他にないコンセプトでしたし、「走りながら考えよう」と腹を決めました。それで2016年にiLbfをオープンしたんです。

ニッチなコンセプトゆえの苦労はありませんでしたか?

最初は店の宣伝にとにかく力を入れましたね。Instagramで商品の入荷情報を積極的に投稿していました。まあ、最初に店が認知されるきっかけはクーラーボックスだったのですが(笑)。

火に関するギアではなかったんですね!

ええ、アイスランドのクーラーボックスが入荷したという投稿がアウトドアファンに拡散されたんです。

なかなか日本で買えないアイテムだったので、「あの商品が売ってるショップがある!」と話題になったんですね。車中泊のショップ時代から主力商品の一角だったクーラーボックスには感謝しています。

それでクーラーボックスの品揃えも充実しているんですね。品揃えといえば、私もアウトドアショップにはよく行きますが、見たことのない焚き火台がたくさんあります。

珍しいクーラーボックスが話題になったことでヒントを得て、よそにないアイテムを積極的に扱うようにしています。メジャーブランドはもちろん、いまアウトドア業界で流行っているガレージブランド(※2)にも力を入れています。

店内には全部で2,000アイテムくらいあるんじゃないでしょうか。ネットショップに全ての商品を出しているわけではないので、実店舗でギアを探す楽しみはあると思います。ただ、やはり夏場は店舗の売り上げが下がるので、ネットショップに助けられていますね。

というのも、先ほどのクーラーボックスのように珍しい商品が入荷した際、ネットショップを通じて予約販売しているんです。夏場はそうした限定商品をうまく仕入れて、売り上げを立てていますね。

※2 ガレージブランド……「ガレージ=車庫」から由来し、小規模に商品展開をするブランドのこと。品質の高さや機能にこだわり、アイデアがつまったアイテムが多い

「薪」を変えれば、焚き火はもっと楽しくなる!

iLbfでは焚き火の燃料となる薪にもこだわっています。実は、キャンプ場で火起こしに手こずる原因の多くは薪にあるんです。着火剤など焚き付けのアイテムは進化していますが、肝心の薪に着目している人は少ないですね。

薪は見落としがちでした……つい安いもので済ませてしまいます。

ホームセンターなどで安く手に入る薪はたしかに便利ですが、実は「含水率」が大事です。

市販されている薪の多くは機械を使って強制乾燥させたもので、含水率が25~26%です。もちろん燃えないことはありませんが、より着火が早く、より美しく燃えるのは、含水率が20%以下の薪なんです。うちでは含水率20%以下の薪にこだわり、3社から8種類の薪を仕入れています。

薪は燃えればいいと思っていました……。

薪を突き詰めていくと面白くて、木の種類によって燃え方や香りも変わってきますよ。焚き火の基本として、火をつける際の焚き付けに最適なのは杉やヒノキなどの針葉樹。クヌギや樫などの広葉樹は火持ちがよく、火力が強いので、焚き火自体の燃料にと使い分けます。

確かに、針葉樹だけで焚き火をすると、すぐ燃えてしまって大量に薪が必要になってしまった経験があります。

針葉樹だけの焚き火も決して間違いではないですが、木の種類まで意識すると、より楽しめると思います。広葉樹のなかでも、シデは火付きも火持ちもよいのでおすすめですよ。

シデ? 初めて聞きました。

落葉性の広葉樹で、硬くて重い特徴から線路の枕木にも使われています。うちには他ではあまり売っていない種類の薪もありますから、薪の価値も発信していけたらと思っています。

計り売りもしていますので、一度の焚き火で色々な薪を燃やし比べてみるのもいいですよ。桜は燻製のチップにも使われるぐらいなので、焚き火の際にいい香りが楽しめます。

東日本大震災で、火の価値が再注目された


小枝のような自然素材を燃料にでき、燃焼効率のよい構造の「エコストーブ」。環境に優しく持ち運びが便利で、調理にも使えることから人気を集めているギア

焚き火はただ燃やすだけではなく、楽しみ方も幅広いんですね。

火は古来から存在し、ときには人に牙をむきますが、コントロールできれば人に温もりや癒しを与えてくれます。火をコントロールできたとき、猿からヒトに進化したといっても大げさではないでしょう。

その「コントロールできる火」が焚き火かもしれませんね。

はるか昔の記憶がそうさせるのかはわかりませんが、焚き火の前で揺らぐ炎や薪が爆ぜる不規則な音を聞いていると、リラックスして素直な気持ちになります。火を一緒に囲む人とのコミュニケーションも弾む。裸の付き合いみたいな感覚ですね。

それに、自分の手で火を起こす経験は小さいけれど確かな達成感を与えてくれます。私も焚き火をすると、日ごろの疲れがリセットされるように感じるんです。

不思議と焚き火するとスッキリしますからね。SNSの時代ですが、焚き火を仲間と囲んでいると、やはり人間は顔を合わせて会話するのが一番だとつくづく実感します。

東日本大震災を機に火の存在が見直されたことも、焚き火ブームが起こったきっかけのひとつかもしれません。ライフラインが途絶えると一気に生活は困難に陥りますが、火を起こせさえすれば、食事を作れ、暖も取れ、火を囲むことで不安も和らぎますから。

私たちは技術の進歩により、スイッチひとつで火がつく快適な暮らしを手に入れました。しかし、その快適さは一瞬で失われることがある。震災を通じて、いままで遠ざかっていた「火との関係」が少し近づいたのかもしれません。

最近では、大人でもマッチやライターで火を点けられない人もいますからね。火を扱い、コントロールする経験を通じて、人間本来の姿に戻れるのかなと思います。

この記事を読んで、アウトドアや焚き火に挑戦したくなる人もいると思います。初心者に向けて、何かアドバイスはありますか?

最初に費用をかけすぎず、まずは外に出ることです。

アウトドアを始めるにはギアを揃えないといけない感覚に陥りがちですが、いまはキャンプ場などのレンタル品も充実しています。最初はレンタルでもいいので、自分の手で火を起こしたり、焚き火をしたり、野外で調理をしてみて「何が不便なのか」を知ることが重要なんです。

フィールドに出ることで「次はあれをしたい、これをしたい」と自然に見えてきます。もし失敗してしまっても、それを踏まえて次回に改善すればいいんです。

ギアをすべて揃えてから、となると、ハードルが高くなってしまいますから、「まずはやってみる」は同意です。そこで足りないモノや技術を知りたければ、堀之内さんのようなショップの人に相談してみるのがいいですね。

焚き火の楽しみ方も人それぞれで、「観賞用」の人もいれば「調理用」の人もいます。何度か繰り返すことで、自分にとってのアウトドアスタイルが確立されていくはず。まずはバーベキュー場でも構わないので、焚き火をしてみてもらえると嬉しいですね。

店データ
  • 火とアウトドアの専門 iLbf(イルビフ)
  • 薪ストーブや焚火台など、アウトドアで使う「火」をテーマにした専門ショップです。
    住所:埼玉県三郷市彦成4-4-17 みさと団地南商店街104
    電話番号:048-951-4949
    営業時間:11:00~19:00、土曜10:00~20:00、日曜10:00~19:00
    定休日:木曜日(不定休)
    駐車場あり
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書いた人 : 猪野正哉

アウトドアライター/ライター/焚き火ヴィレッジ<いの>管理人。千葉県出身。またモデルとしても活動。

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