きっかけは母の死。「福祉の自分ごと化」に挑むハードコアを愛する男

「福祉」と聞いて、どのようなイメージを持つだろうか。

障害者支援や高齢者介護はこれからの時代に欠かせないと認識しつつ、自分や身内が当事者でない限り、どこか縁遠く感じてはいないだろうか。

そんな「とっつきにくい」イメージのある福祉の世界において、誰にも真似できない手法で数々のプロジェクトを生み続けている人がいる。

NPO法人「Ubdobe(ウブドべ)」代表理事・岡勇樹(おか・ゆうき)さんだ。

サングラスにキャップ、ハードコアとニューメタルのイベントTシャツ。
思わず「ニイちゃん」と呼びたくなるような、一見「福祉」とは真逆の世界にいそうな風貌の男性。

その見かけ同様、岡さんが代表をつとめる団体・Ubdobeが手がけるのは、一般的な福祉のイメージとは一線を画した取り組みばかりだ。

例えば医療福祉をテーマにした、踊って学べるクラブイベント「SOCiAL FUNK!」。

プログラマーやデザイナーと連動しながら、デジタルアートを使って子どもたちが楽しく積極的にリハビリを行える環境を作るプロジェクト「デジリハ」。

そして、従来の枠にとらわれない新たな福祉職を養成するための学校創りプロジェクト「先端デュクシ」など、医療・福祉・テクノロジーの領域を横断して様々な活動を行なっている。

そんな新進気鋭の「医療福祉エンターテインメント集団」を率いる岡さんが描く福祉の未来とは、いかなるものなのか。岡さんに話を聞いた。

プロフィール
岡勇樹(おか・ゆうき)
NPO法人Ubdobe代表理事。音楽×アート×医療福祉の領域でイベント・デザイン事業を展開する。東京オリンピック・パラリンピック競技大会推進本部ユニバーサルデザイン2020関係府庁等連絡会議や、厚生労働省の介護人材確保地域戦略会議の委員を務め、2017年には日本財団ソーシャルイノベーターに選出される。ハードコアとヒップホップ経由のエレクトロニカ好きで、自身もDJやディジュリドゥ(民族楽器)でパフォーマンスを行う。

ライブハウスのモッシュの中にも福祉がある

岡さんの活動は、従来の福祉のイメージとは全く異なるように思えます。

まず、僕のやることが「福祉かどうか」は考えていないですね。

「福祉とは」って言い出すと、たいてい「人の幸せ」とかの話になるでしょう。だけど、それってひとつのイメージでくくれない。だってラーメン好きな奴は、ラーメンだけで幸せになるじゃないですか?

何が福祉かを定義することは難しいと。では、岡さんにとっての福祉って何なんでしょう?

福祉が「みんなで仲良く手を取り合ってニッコリ」みたいな決まったイメージを持つものだとしたら、例えば、僕の大好きな音楽「ハードコア」(※)も福祉なんです。

僕は10代の頃からハードコアばかり聴いていて、ある時期、日本で一番激しいライブハウスに通っていました。そこで毎週、血まみれになって骨折していた頃があって。

※ハードコア……ハードコア・パンク。音楽の一ジャンルで、パンク・ロックの社会批判や荒々しさをより過激にした、激しいサウンドが特徴。

それは、ライブが激しすぎて…?

ええ、ハードコアって激しい音楽なので、ライブ現場も戦場みたいなんですよ。客席のいたるところで殴り合ってるような(笑)。

その時の光景から気づいたんですけど、「モッシュの中にも福祉がある」んです。もみくちゃで暴れている最中に、誰かが倒れたら、さっきまで殴ってた奴が急に手を差し伸べるんですよ。モッシュ中に踏まれたら大怪我になることを、暴れながらも彼らはわかっているんです。それも福祉ですよね。

暴れる中でも、他人への気遣いがあると。福祉と聞くと「全人類を救います」みたいな壮大なイメージがあったので、ギャップを感じます。

自分の大事なものを捨ててまで、知らない人を助けるなんてできないじゃないですか?

だから「全人類救う」なんて嘘。もっと細かくつながっていって、小さな福祉が無限に生まれればいいじゃんって思っています。全人類じゃなくて、「友達だから」という感覚でつながっていく。福祉なんてそれくらいのものだと思います。

なので「福祉とは何か?」みたいなことは考えていません。結局、個々人が誰のためにどうするのか、そういう個別性の高いものが福祉なんだと思います。

ふと思い出す「電気信号」を生むためのイベントづくり

普通の人が福祉を意識するタイミングって、なかなか少ないですよね。誰か身近な人が病気になって、初めて気づくことがほとんどではと。

そうなんです。その「自分ゴト化」のきっかけにしたくて「SOCiAL FUNK!」を開催したんです。

7年目となる前回開催では、渋谷の「SoundMuseumVision」に大沢伸一(MONDO GROSSO) や、DJ BAKU、SEIHO、LITEなど、著名なアーティストが集まった

「SOCiAL FUNK!」はDJパフォーマンスやライブの間に、癌や臓器移植、認知症などに関する話があったり、会場には全国の福祉施設で作られた商品が展示されたりと、他にはない体験ができるイベントです。開催のきっかけは何だったのでしょうか?

僕、母親をガンで亡くしてるんですよ。母は家族に心配をかけまいと、ガンのことを2年間隠してました。

その2年間で母は20kgも痩せていたのに、「ダイエットよ」と病気を隠す母の言葉を鵜呑みにして、僕は毎日遊び呆けていた。母の病気に気がつかなかったんです。ガンと知ってからも僕は何もできないままで、半年後に母親は亡くなりました。

もう、どうしようもない後悔が残りましたね。もし普段からもっとコミュニケーションをとっていれば母の異変に気づくことができて、母との最後の過ごし方も変わっていたかもしれないですから。

それは辛い体験でしたね。

皆、そんな風に「母ちゃんに何もできなかった」みたいな状態で過ごすのって辛いじゃないですか。だから、病気や介護について知ることで、周りの人の異変に気づけたり、大きな病気になった時の準備ができたりする場を作ろうと、「SOCiAL FUNK!」を開催したんです。

参加者の反応はどうだったんでしょうか?

出演するミュージシャンのファンがたくさん集まったのですが、9割の人がアンケートで「心が動かされました」とか「家に帰って今日知ったことを家族に話したい」と回答してくれました。

トークセッションの出演者には体験をベースに病気や介護について語ってもらうので、話がみんなに刺さるんですよ。結局はみんな、誰かの子なんで。コワモテの兄ちゃんでも、もしあなたの親が倒れたら、と例えられると分かるんです(笑)。

もちろんお酒を飲んで酔っ払っていて、聞いたことなんてすぐ忘れちゃう人もいます。でも、そんな人の耳にも、トークセッションの話は届いている。

一度でも聞いた経験があれば、ある時、ふと思い出せるんです。それが小さな電気信号みたいになって、家族との日常会話で「体調どう?検診行ってんの?」と体調を気遣える言葉が一言でも生まれればって思うんです。

全国の医療福祉コミュニティをつなげる

Ubdobeはアルバイト含めて10数名の組織と聞きましたが、日本各地でイベントを開催するなど、全国で精力的に活動していますね。

日本各地の医療福祉に関わる人たちとつながっているんですよ。医療福祉従事者や学生、経営者などを集める「WellCON」というトークイベントで全国を回って、ひたすら彼らと飲みまくったんです。そうしたら、自然と力を貸してくれる人が集まるようになってきて、各地にコミュニティが生まれました。

東京の三軒茶屋に「HALU」という拠点もお持ちですが?

家族が病気になった時って、どこに相談していいか分からないじゃないですか? そこで日常の延長で、福祉に関する無料の相談窓口があればいいなと思ってHALUという拠点を設けました。

行政のサービスの場合、公平な情報の提供しかしちゃいけないと法律で決まっています。だから行政に相談しても、オススメのサービスとか施設を具体的には教えてくれません。

でも僕らは民間で、全国の医療福祉従事者や施設のコミュニティとつながっている。それに、うちのメンバーは全員、医療や福祉の現場出身。だから相談の内容に合わせて、現場感覚に基づいた信頼できるものを紹介できるんです。

HALUがあるのも、人通りの多い三軒茶屋の商店街ですよね。買い物ついでにふらっと立ち寄れるような、風通しのいい空気を感じます。

元々、HALUは医療福祉系のセレクトショップでもあったんです。ただ、HALUを始めて数年すると、お客さんに「いらっしゃいませ」と言うのが嫌になってきたんですよ。受け身で待ち構えてるんじゃなくて、こっちからガンガンお客さんを捕まえに行きたい性格なので(笑)。

なので、相談窓口としての機能は残しつつ、店舗としては畳んで商品の販売はECサイトに絞りました。代わりに、移動式ラボ「HALU LAB」を立ち上げたんです。


HALUのECショップでは国内外の福祉作業所でつくられた雑貨や、子どもから高齢者まで使いやすいユニバーサルデザインのプロダクトなど、厳選したアイテムを販売している


「福祉施設で作られる商品はデザイン性がいまひとつなものが多いので、商品は見た目重視でぱっと見てかわいい、かっこいいものをセレクトしています」と話すUbdobeの吉井さん

移動式ラボですか?

ええ。「HALU LAB」では、全国各地で医療福祉従事者が集まる会議を開いて、商品開発のワークショップを一緒にやるんです。

現場で働く彼らには「こんな商品があったら」というアイデアがあるので、それをワークショップ形式で出し合って、一緒に形にする。それをプロダクト開発者と共有して、設計図やプロトタイプを作って、クラウドファンディングで商品化していくという取り組みです。

なるほど! そこでできた商品は、HALUのECサイトで販売を?

もちろんです。今年の春に始めたばかりですが、これから全国を回るのが楽しみです。


2018年3月に沖縄で開催された「HALU LAB」の様子。現地の老人福祉施設協議会、計60名とワークショップを行った。

「福祉のために」なんか考えていない

数多くの斬新な取り組みをされていますが、これらは全て、福祉のイメージを変えるために活動されているんですか?

福祉を変えるみたいなことは考えていないですね。ただ、やりたいことをやっているだけです。よく「音楽を使って福祉を発信しているんですよね?」とかって言われるんですけど。

え、違うんですか?

音楽やアートを「情報を伝えるツール」として考えたことはないです。まず、僕は表現をしたい。なので、表現をするために福祉というツールを使っている、くらいの感覚です。僕にとっては、福祉という「幸せに、よりよく生きる」みたいな話と、音楽やアートって直結しているんです。

だから、言葉を選ばずに言うと、「福祉のイメージを変える」みたいなことはどうでもよくて。医療福祉のカジュアル化って感じです。伝わった先で、福祉の内部活性化やイメージチェンジに繋がったらそれでもいいし、先のことはそんなに気にしてません。

「やりたいことをやる」それが岡さんにとっての福祉でもあるということですかね。

僕がやりたくないことをやったり、他の人を気にし始めたりすると、僕自身の福祉が崩れるんで(笑)。何年か前までは「福祉のイメージ変革が大事だ」とか言ってたんですけど、他の人からの見られ方を気にしている場合じゃないことに気づきました。もっと自分が自分の好きな状態で尖って拡張して発信していかないと、結局、自分のイメージの中だけで終わってしまうんです。

今は、音楽やアートそのものが人の命にどれだけ作用するのかに興味があって。「この音楽があったから寿命が5年伸びました」くらいのエビデンスを作らないといけないと思って、学会発表や論文作りも重視しています。大事なのはイメージよりも事実だと思うんです。

大切なのは「勝手にやる」こと

岡さんの目から見て、福祉業界は変わりつつあるのでしょうか?

変わってきているとは思いますが、全然足らないですね。もっと勝手にやる奴が出て来てくれないと面白くない。福祉にVRを取り入れるみたいに、一人一人が好きなことを福祉と混ぜ合わせて、ビジネスを立ち上げる流れはできています。それをもっとたくさんの人が当たり前にやっていければいいと思います。

自発的にということですよね。

それが大事ですね。Ubdobeは全国に支部があったんですが、「勝手にやる」という感覚がなくなってきたんで、支部を全部廃止しました。「やっていいですか?」って許可とか「決裁」とかね、面倒臭くて。「やれよ勝手に!」って感じじゃないですか(笑)。

だから、ある日突然思いついて、全員に「支部、辞めます」っていうメールを入れたんです。「組織化してメジャーシーン狙うのはやめよ? それぞれがインディーズで勝手に自分たちの地域でやればいいんじゃない?」みたいな感じで。それでも今は、それぞれが地元で新しい名前の団体を創設して、活動を続けていますよ。

岡さんの行動原理の中には「勝手」という言葉が常にありそうです。

最近、どんどん自分の「勝手感」が増してて(笑)。たまに「こういうことやりたいんですけど、どうですか?」みたいな相談を受けるんですけど、「え、やればいいんじゃない?」しか言えないんですよ。「やりたい」って言うことにあんまり意味はないじゃないですか。本当にやる場合って、人に相談とかは基本的にしない。やりたいから、勝手にやるだけであって。

だから、そういう相談を受けた時には「いつまでにやるの?」って期限を決めるんです(笑)。でも、ほとんど次の連絡は来ませんよ。皆、やってないんです。結局全ては自分ゴト化からしか始まらないと思っているので、僕もこのまま「好きなようにやる」だけですね。

区切り線

濱田祐太郎、GIMICO、ブルボンヌ、kinoko.など豪華ゲストが出演するイベント「先端デュクシPARTY」が5/26(土)に開催!(※高校生限定)
詳細はこちら→http://dukushi.com/party/

今年度の「SOCiAL FUNK!」は11/11(日)に開催予定!

書いた人 : 稲田ズイキ

1992年生まれの編集者/ライター/僧侶。Webメディア会社勤務のち独立。京都のお寺の副住職だが、各地を転々とする「定住しない住職」活動中。

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