400km離れた親子がITを駆使して、秘伝の「ご飯どろぼう」を販売中

「ほんの一部でも、家業を継ぎたい」

見るだけでお腹が空く写真から始まってすいません。この記事の主役、鮭の味噌漬けです。

新潟県長岡市(花火大会が有名!)の名物でもある、この“ご飯どろぼう”をBASEで販売するのが富川屋さん。明治時代から三代続く老舗の仕出し割烹です。

「よくわかりませんが、これがあると便利なんですよね?」
取材のためお店にお邪魔すると、おかみさんが「わぁいふぁい」とルビの振られたWi-FiスポットのID・パスワードを差し出してくれました。失礼ながら、ネットやガジェットに詳しいわけではなさそうです。

昔に比べれば手軽になったものの、自らネットショップを開くためには、それ相応のリテラシーと、何よりネットへの興味が必要です。しかし、このお店からはそれがまったく感じられません。では、いったい誰が……?

実は、富川屋さんのネットショップを裏で支えていたのは息子さんでした。実家にプロを呼んできれいな写真を撮り、丁寧な商品説明を書き入れてネット販売を開始し、全国から届く注文をさばいておかみさんに連絡を入れる……なんと岩手に住みながら、新潟にある実家の家業を手伝っているというのです。

遠く離れた三人四脚は、いかにして始まったのか? 富川屋を切り盛りする富川夫婦と、その長男で岩手県遠野市在住の富川岳(がく)さんにお話を聞きました。

プロフィール
富川栄司・和代
ともに長岡市出身。買い付け・刺身担当の父(68)と、料理・接客担当の母(59)。二人三脚で町の仕出し割烹屋を運営し、細々と会食や宴会、弁当・オードブルなどを作る日々。父の趣味は登山とスキーであり、息子の名前「岳」は父が命名。母の趣味は、庭の手入れと食べること、そして喋ること。陽気なキャラクターのため、息子がいなくても友人が訪ねて来ることもある。
富川岳
2009年にspicebox入社。2012年から博報堂に出向。2016年春より岩手県遠野市に移住し、Next Commons Labの立ち上げに関わる。2017年4月に独立し、web、映像、写真、編集、商品開発などをしている。最近では、柳田國男『遠野物語』をアップデートするプロジェクトを立ち上げている。“ローカル・プロデューサー”として、地域にあるものを磨き、顕在化し、発信することを生業としている。

老舗(実家)の味×元代理店勤務の息子=人気ネットショップ

ー今日は「遠隔」がテーマですので、岩手在住の岳さんにもテレビ電話でご参加いただきます。

岳さん
両親とテレビ電話をすることがないので新鮮です。よろしくお願いします。

ー先ほどいただいたのですが、鮭の味噌漬け、とても美味しかったです。脂がのった鮭に、ほんのり甘い味噌と濃口醤油の風味がぴったりで。新潟のコシヒカリとの相性も素晴らしいし……。

お母さん
ありがとうございます。でも、そんな大したものはお出ししてないですよ。「鮭の味噌漬け」も、けっしてうちのオリジナルではないですし。この辺りのお店は、どこも出してらっしゃるもので……。

岳さん
両親はこうして謙遜しますけど、美味しいでしょ? 東京で働いていたとき、普段お世話になっている人に配ってたんです。すると「お金を払うからもっと食べたい」という声をたくさんもらうようになって。それで、母に頼んで、まずは僕の知り合いの注文だけ受けてもらったんです。

お母さん
わたしたちはいつも通り作って発送するだけで、息子に仕送りをするのと変わりませんでした。息子の上司やお友だちが「美味しい」って言って下さるのが嬉しかったですね。

ーこんなに美味しいものをお中元やお歳暮としてもらったら、息子さんとの関係を良好なままキープしたくなること必至です。

岳さん
あまりに評判がいいので、儲かりはしないまでも、もっと多くの人に楽しんでもらえるのではないかと思い始めたのが2016年の始め頃でした。同じ時期に東京の仕事を辞めて、地方創生のため岩手に行くことを決めていて。遠隔でもできる方法はないかと考えた結果がネット販売でした。

まったく気乗りしなかった両親

ーネットなら、距離が離れていることは関係ないと。息子さんの提案に、ご両親はどんなお気持ちでしたか?

お父さん
イヤでしたね。

お母さん
面倒くさそうだなと思いました。

ーまったくノってない……! 

お父さん
知らない人に食べてもらうのに抵抗があったんです。それに、ネットだと何かあったときにすぐ謝れないのも不安でしたね。万全を期して作っていますし、何も起こったことはないんですが、それでも100パーセントの品質保証はできないので。

お母さん
そうですね。わたしは、うちの商品を食べたことのない人が、この味を受け入れて下さるのか不安でした。あと、ホームページに顔が載るのもイヤでしたね(笑)。

ーお二人とも、責任感が強いですね。 

岳さん
というようなことを言っていたのですが、僕の方はお客さんから反響をダイレクトに受けていたので「うるせえ!」と思いまして(笑)。いいものはいいんだからという理由で、写真の仕事をしている友人と一緒に実家で撮影をして、なし崩し的に始めました。

ーそして2016年5月、富川屋@BASEがオープンしたんですね。懸念していた点はいかがでしたか?

お母さん
わたしには同居している娘経由で、住所とお届け希望日の連絡が来るだけなので。思いのほか、面倒くさいことはありませんでした。

岳さん
そこは、すごく気を遣いました。ちょっとでも面倒になったり、わからないことがあったりすると続けてくれないだろうなと思ったんです。だからネットを使ったやり取りは、すべて僕がやっています。

ー具体的には、どういう手順なんですか?

岳さん
注文が入ると、僕がそのメールに返信をします。同時にスクリーンショットで住所を撮って、実家に住む姉にLINEで送ります。姉はそこから必要な情報を抜き出して、紙に書いて母に渡す。その後、父が鮭を切って味噌を仕込んで、母が詰めて発送という流れですね。

ーなるほど、一家総出での運営なんですね!

岳さん
大した量ではないので、そんな大げさなものではないですけどね。僕らと面識もないのに、何度も買って下さるお客さまもいて嬉しいです。注文者は同じなのに、発送先がいつも違うという方もいらっしゃいます。贈答用に使って下さっているのかなと。

ーあの美味しさなら、リピーターが出るのも当然だと思います。

お母さん
リピーターさんの分は、できるだけ大きいのを詰めたくなっちゃったりしてね。

お父さん
儲けようとは思っていないので、今ぐらいの規模で十分です。息子がお世話になっている皆さんと、お得意さまに喜んでもらえれば。

「ほんの一部でも、家業を継ぎたい」

ーあの厚みで9切れ3,240円はあまり儲ける気がなさそうですよね。岳さんは、今後どうしていきたいと思ってらっしゃいますか?

岳さん
実は僕、料理人の息子なのに刺身と酒が苦手で(笑)。ずっと家を継ぐ気はなかったんですが、鮭の味噌漬けだけなら、美味しいと言ってくださる人がいるし継いでいきたいと思うようになりました。

なので、まずは両親にこのままのんびりと続けてもらいたいです。いずれは二人が引退する日が来ると思うので、そのときに僕と妻とで、なんらかの形で引き継げたらと思います。

お父さん
この前に帰ってきたときに、作り方を教えたんですよ。

ーまさに一子相伝ですね。

岳さん
まだうまく作れないんですけどね。

お母さん
わたしは不器用な息子より、彼の奥さんに期待しています。ほんとうに素晴らしい方で、彼女ならきっと、もっと美味しいものが作れるんじゃないかな。

岳さん
うるさいよ(笑)。僕らの住む岩手の遠野にもいい味噌があるので、こっちの素材で研究してみるのもいいかと思っています。

ー次世代の味噌漬けも楽しみです!

岳さん
広告の仕事をしているので家業をそのまま継ぐことはできないのですが……鮭の味噌漬けと、のれんだけは守っていきたい。今、フリーランスで仕事をし始めたのですが、屋号を「富川屋」にしようと思っているんです。

【食べ頃のまま1週間保存できる】鮭の味噌漬け製造レポート

息子さんとのお電話を終えたあと、お店の厨房にご案内いただき、実際に鮭の味噌漬け作りを見せていただきました。

鮭の味噌漬けは、クラシックな雰囲気ながらも掃除が行き届いた清潔な厨房で作られています。

まずは主役の鮭。高級ノルウェーサーモンを切り身にしたものです。かなり大ぶり。

続いて秘伝の味噌ダレです。ご近所の老舗から仕入れた特製味噌に、同じく地元の酒・八海山や醤油を加えてあります。この味噌ダレも絶品なので、鮭を食べたあとの残りを使って、炒めものを作るのもオススメなんだとか。

さあ、缶に鮭を詰めていきます。実はこの時点では、まだ鮭と味噌ダレは何の絡みもありません。缶に詰めて3日ほど寝かせてこその「鮭の味噌漬け」なのです。

まず、ビニールの上に味噌ダレを敷き詰めます。

あとで取り出しやすいようにガーゼを敷き、切り身を置いていきます。


すき間なくギュウギュウに。

9切れ詰めたら、再度ガーゼをかぶせて、上からも味噌ダレを。

まんべんなく塗れたら完成。

ビニールで封をします。

ふたをして包装紙でくるみます。

出荷準備が完了! 歴史ある「富川屋」のロゴが映えます。美味しく食べる目安となる「食べ頃」と「賞味期限」両方の記載もあり。食べ頃になってから冷蔵庫でおよそ1週間は持つとか。

人脈×家業×ネットショップの可能性

「遠隔から家業を盛り上げる」という難しい課題を、いい意味で片手間にこなす息子と、やや照れながらも息子の作戦に乗る両親。

大儲けを狙うでもなく、誰かに無理を強いるでもなく、それぞれが自分の守備範囲できっちりと仕事をする。そうして成り立っているからこそ、富川屋のネットショップは続いているのだと思います。富川屋ののれんも、変化しながら受け継がれていくのでしょう。

「都会に行った子どもの人脈×両親が営む家業×ネットショップ」

この考え方を使って掘り出せるものがまだまだ日本にたくさんあると思うと、ちょっとワクワクしてきますね。

店データ
  • 富川屋
  • 長岡花火で有名な新潟県長岡市で、明治時代から続く仕出し割烹。一部のお得意様向けだった鮭の味噌漬けの好評を受け、WEBでの販売を行なっている。
  • ▼店舗データ
    住所:新潟県長岡市呉服町1-3-11
    電話番号:0258-32-2392

書いた人 : 今井雄紀

1986年生まれ。滋賀県出身。新宿在住。新卒でリクルートメディアコミュニケーションズに入社し、Webディレクターとして勤務。2012年より、フリー編集者として星海社に合流し新書を中心に編集業務を遂行。2017年6月、編集とイベントの会社ツドイを設立。社長1年生です。

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