「すべてのお母さんが安心できる社会のために」低出生体重児のベビー服とは

金平糖のようにカラフルで、目にも楽しい赤ちゃんのお洋服。

実はこの赤ちゃん用肌着、既製品の3分の2の大きさなのです。ベビー服ブランド「ミキハウス」で販売されている、一番小さな赤ちゃん用肌着は着丈が45cm。この肌着の着丈は、それより10cm小さい35cmとなっています。

こちらは、生まれた時の体重が2,500g未満で体の小さい「低出生体重児」のためにつくられた肌着なのです。

※「低出生体重児」とは、生まれたときの体重が2,500g未満の新生児のことを指す。日本では少子高齢化が叫ばれ出生数が減少しているものの、低出生体重児の数は毎年増加しているという。その要因として、新生児医療の進歩によって超低出生体重児(1,000g未満の新生児)の赤ちゃんも救出できるようになったことなどが挙げられている。

「肌着は私がメッセージを届けられるツールのひとつ」

そう語るのは、低出生体重児のための肌着のオンラインショップ「 Baby Storia(ベビーストリア)」を運営する谷山綾子さん。6年前に、自身が低出生体重児の出産を経験したことがきっかけで、サイズの小さな肌着づくりをはじめました。

「ちょうどいいサイズの肌着を着せることができて幸せです」
「他のお母さんも絶対私と同じ気持ちなので、ずっと続けてください」

ベビーストリアには毎日のように、低出生体重児の出産を経験した全国のお母さんから応援メッセージが届いています。

谷山さんはこのカラフルな肌着にどんなメッセージを込めて、世の中に発信しているのでしょうか? 肌着づくりをはじめるきっかけとなったご自身の体験、そして「すべてのお母さんが安心できる理想の社会」について伺いました。

「母親としてできること」が肌着づくりだった

ベビーストリアの肌着が生まれたのは、谷山さんご自身の体験がきっかけだったそうですね。

はい。私の子どもは6年前に445gの体重で生まれました。

低体重の赤ちゃんは、皮下脂肪が少なく自分で体温を一定に保つことができません。なので不要な体力の消耗や病気を防ぐために、生まれてすぐに「NICU(新生児集中治療室)」と言われる保育室に入ります。

NICUに入っている赤ちゃんは、たくさんの管に繋がれていて、抱っこすることもできません。毎日保育器の前に座って、ただ見守るだけ。そんな日々が1ヶ月くらい続きました。「もしかしたらこの子は明日死んでしまうかもしれない」といった状況の中で何もできない自分に、母親としての不甲斐なさというか、無力さを感じてしまって。

同じような境遇の方と関わりを持つ機会はなかったのですか?

病院なので、隣のお母さんたちと気軽に話すことはなかなかできないんです。うちみたいに小さく生まれた赤ちゃんもいれば、出生後すぐの手術をいくつも乗り越えている赤ちゃんもいましたから。気軽に「お子さん、元気ですか?」のように話しかけられる環境ではなかったですね。

苦しい気持ちを抱えつつも、それを共有できる環境もない……そこから、なぜ「肌着づくり」をしようと思われたのですか?

保育器を出たとき、看護師さんから「赤ちゃんの肌着を用意してください」と言われて、市販の肌着を持っていったんです。

当時の私は低出生体重児用の肌着があることなんてまったく知らなかったので、市販品の最小サイズを着せるのが当たり前だと思っていました。でも、何も考えずに子どもに着せてみたら、「あれっ?」という違和感を感じたんです。

違和感、ですか。

赤ちゃんの小ささが余計に際立って見えたんです。いろんなことを乗り越えてやっとNICUから出てこれたので、自分の中では「赤ちゃんが大きくなってきた」と感じていました。だからそれがショックで……。

保育器を卒業したとはいえ、子どもには呼吸などを助けるチューブや管がたくさんついているんですよね。ただでさえ痛々しい姿なのに、体に合わないサイズの洋服に埋もれてしまうと、痛々しさが増して見えました。

子どもの写真を撮るという本来なら嬉しいはずのことをしてみても、申し訳なさが生まれてくるばかりで……。あのときは本当に気持ちが沈んでいました。

「この子にぴったりな肌着がないのなら、自分でつくるしかない。母親として、せめてものできることをしよう」

そう思い立って、肌着づくりを始めたんです。

カラフルな肌着をつくることで、自分自身も救われた

ご自身のお子さんのために肌着をつくられたんですね。ゼロから肌着づくりをしていく上で、どんなところにこだわったんですか?

意識的に明るい色の生地を選びました。というのも、病院の空間ってすごく無機質なんですよね。病室も、ベビーベッドも、ベッドに敷いてあるタオルもすべて白。

でもある日、他の赤ちゃんがハーフバースデー(生後6ヶ月のお祝い)をやっているのを見かけたんです。カラフルなバルーンや折り紙でベッド周りを華やかに飾りつけていたので「私もあんな風にしたい」と思って、肌着やシーツに明るい色を取り入れてみました。

実際にカラフルな肌着をお子さんに着せてみて、何か変化がありましたか?

看護師さんや他のお母さんから、「今日も可愛いお洋服を着てていいね」と声をかけていただく機会が増えました。退院後に他のお母さんと再会したとき、「病院で、赤ちゃんにぴったりの肌着をすごく羨ましく思っていた」と言われたこともありましたね。

そんな風に声をかけられることは、谷山さん自身の救いにもなっていたのではと感じます。

すごく必死でしたね。子どももそうだけど、自分自身も救われたい。そういう気持ちが強かったです。

肌着づくりを通して前向きになれたんですね。そこからはお子さんの写真を撮ることも楽しくなったのでは?

そうですね。ただ、病室は気軽に写真を撮れる雰囲気ではなくて。泣いているお母さんがいたり、体調が急変してしまう赤ちゃんがいたり……。その状況の中で「わぁ可愛い」と自分の赤ちゃんの写真を撮ることはできず、こっそり撮っていました。

仕方がないことなのですが、そうした雰囲気に違和感を感じていました。本来、お母さんが我が子の誕生を喜び、成長の記録を残すことはごく当たり前のことです。だからこそ、頑張っているお母さんたちのために、写真をたくさん撮ることができるような雰囲気があってほしいと思っています。

なので、ベビーストリアの肌着は明るい色の生地を使って、写真映えを意識してつくっていて。この襟元のフリルも、顔まわりが華やかに映るように“あえて”つけているんですよ。


生まれたばかりの赤ちゃんの肌は、服の縫い目すら気になるほどデリケート。そのため、赤ちゃん用の肌着は表側に縫い目があるものが多い。ベビーストリアの肌着の襟元に付けられたフリルは、新米のお母さんが裏表を逆にして着せてしまわないような目印にもなっている。

「リアルな声」が詰まった、お母さんに支持される肌着

ベビーストリアの商品開発には、現役のお母さんたちが携わっているそうですね。

NICUを卒業した母親、活動に共感してくれた7名の女性に手伝っていただいています。皆さん、私の活動に共感して集まってきてくれていて。

商品開発には、彼女たちのリアルな意見を反映させています。

それは心強いですね。具体的にどんな意見があるのでしょう?

たとえば肌着の生地ですね。お母さんたちから「型崩れしないものがいい」といった声が多く上がっていました。一般的な生地は、洗濯すると伸びてしまったり紐がねじれてしまったりすることが多いのですが、ベビーストリアの生地は柔らかくて型崩れしにくい素材を使っています。


吸湿性と通気性にも優れたダブルガーゼを採用している肌着は、とても柔らかく肌触りが良い

同じ悩みを抱えているお母さんたちを元気づけたいという気持ちが、商品に反映されているのですね。「リアルな声」が詰まっているからこそ、購入された方の満足度も高いのではないでしょうか。

注文の際に「うちの子は何gで生まれて、頑張っています」とメッセージをくださる方が多いんです。購入後に、私の活動への応援の声を送ってくださる方もいます。そうした声を聞くと、ショップを始めて良かったと感じますね。


ベビーストリアの公式Instagram。撮影には谷山さんのお子さんも協力してくれているそう

すべてのお母さんが安心できる理想の社会

谷山さんのつくった肌着が、お母さんたちの励みにもなっているんですね。谷山さんもそうだったように、低出生体重児を産んだお母さんたちが孤独や不安を抱えてしまう原因は、どこにあると思いますか?

一番の原因は、赤ちゃんの体つきや発達状況を周りと比べてしまうことにあると思います。低出生体重児を産んだお母さんたちは、自分の赤ちゃんの発育が周りの子よりも遅いと感じると、すごく傷ついてしまうんです。

しかし、発育が遅いことは特別なことではありません。そして小さな赤ちゃんは決して「かわいそうな赤ちゃん」ではない。事実、現在生まれてくる赤ちゃんのうち10人に1人は低体重で生まれているという調査結果もあります。

だからこそ、もっと社会全体で低出生体重児に対する理解が進んでほしいと思っています。そして小さな赤ちゃんを持つお母さんたちが、周りの目を気にすることなく子育てができる社会であってほしい。今は低体重で生まれた赤ちゃんに対して、世の中がデリケートに扱いすぎていると思います。

タブー視されている、のような?

そうですね。小さな赤ちゃんを産んだお母さんたちは、すごく疎外感を感じていると思います。別に特別扱いしてほしくないのに、腫れ物のように扱われてしまって。

育児雑誌やウェブメディアでも、「特殊な赤ちゃん」として紹介されている記事を見ると違和感を感じます。親にとってはみんなかわいい我が子なのに、「かわいそう」な存在として扱われるのは、ちょっと違うんじゃないかなと。

小さな赤ちゃんを持つお母さんたちに寄り添った情報が、あまり多くないんですね。

小さな赤ちゃんを出産したお母さんは精神的にも身体的にも大変なので、知らないことを調べることがすごく負担になるんです。だから私は、お母さんたちに対して肌着を届けるだけでなく、NICUでの育児の仕方も提案していきたいと思っています。

ショップには「ベビーストリアの存在をもっと早く知りたかった!」という声も届くんです。「私の時にあったら、子育てはもっと違っていた」と。

まだまだ、低出生体重児の認知って低いんですよね。私も実際に出産するまでは知りませんでしたし。でも、“絶対安全”な出産ってないんです。いつ、誰が低体重の赤ちゃんを出産するかわかりません。

それでも出産を恐れたり、不安を抱えたりしないでほしいんです。すべての女性が当たり前に低出生体重児について認知していれば、いざというときに安心できる世の中になるのではないかと思います。

ベビーストリアの肌着が「ハブ」になって、もっと多くの人が当たり前に低出生体重児のことを知っている世の中を目指されているんですね。

そうですね。ベビーストリアは、小さな赤ちゃんを持つお母さんたちをサポートできる場所だと考えています。「小さく産まれてきても大丈夫だよね」と思える環境があれば、お母さんたちも安心して産めるはず。そのために正しい知識を持っておくことと、いざという時に安心してもらえる備えがあることが大切だと考えます。

「今までも同じように低出生体重児を産んだお母さんたちがたくさんいて、様々なことをひとつひとつ乗り越えているから、臆することはないよ」と伝えていきたいですし、「サポートは整っているので、安心して産んでください」という声がもっと増えてほしい。そういう世の中になれば、体の小さい赤ちゃんだからと周りに気を使うお母さんも、少なくなると思っています。

しっかりとその「声」を伝えさせていただきます!ありがとうございました。

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すべてのお母さんへの「応援メッセージ」を肌着にこめている谷山さん。

そんな肌着を販売している「ベビーストリア」は、谷山さんの想いを世の中に届けるための場所なのだと思いました。

世間ではダイバーシティ(多様性)が叫ばれているものの、「知らないこと」を異質なものと捉えてしまう人が、まだまだ多くいると感じます。低出生体重児の赤ちゃんのことを、みんなが当たり前に知っている社会になれば、肩身の狭い想いを抱えるお母さんも少なくなるのではないでしょうか。

テクノロジーの進化で、誰でも簡単にネットショップがはじめられる今。ネットショップはモノを売る場所に留まらず、世の中に“小さな革命”を起こしたい人が、声をあげられる場所にもなっています。

店データ
  • Baby Storia(ベビーストリア)
  • 体重が2500g未満で生まれた「低出生体重児」の赤ちゃん向けの肌着専門店。体の小さな赤ちゃんにぴったりなサイズの肌着をお届けします。
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書いた人 : いげたあずさ

東京生まれ東京育ちのライター/編集者。アパレル販売を6年やってから、インターネットの世界へ。映画館が癒しの場所。「衣食住」としての服の在り方、テクノロジー、日本文化などに興味があります。

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