「ヤンキーインターン」は東京と地方の“体験格差”を解消する

違う世界を知れないのは“もったいない”

一度きりの人生、進路選択に正解はない。それでも、目の前の選択肢の広さは、生まれや環境によるところも大きい。

確かにWebやSNSが生活に溶け込んだことで、自分の日常の外の世界へ触れられるようになった。それでも人の意思決定に影響を与えるのは、あくまでも身近にいる人の存在ではないだろうか。

「脳みそはどこまでも行けても、身体はついてこない」

東京と地方に厳然と存在する“体験格差”ーー。どれほど東京にチャンスが広がっているのかを頭で理解していたとしても、ほとんどの人が地元から動けずにいる。

自らも18歳までは地元から出たことがなかった、ハッシャダイ代表の久世大亮さんは「ヤンキーインターンシップ」を通じて、この課題解決に挑んでいる。

「ヤンキーインターン」の参加対象者は、地方に在住する16歳から22歳までの中高卒。インターン期間中は「職・食・住」が無料提供される。英会話から就活講習などの研修を受けつつ、職業体験を通じた社会進出の支援が受けられるのだ。

「僕は社会起業家でもなんでもない。ただただ、“もったいない”と思うから支援するだけ」と語る久世さん。事業の背景にある原体験から、地方ヤンキーの実態、構想中の新たな取り組みまで話をうかがった。

プロフィール
久世大亮(くせ・だいすけ)
京都出身、1993年生まれ。母子家庭で育ち、高校時代から自分で学費をまかなう必要があったため土木関係と飲食のアルバイトに従事。大学に進学後は、営業経験を積む学生のキャリア支援を行っていたが、そこで得た着想と自らの原体験を元にビジネスを考え中退。現在は若者へきっかけの場を提供する事業を行なっている。

違う世界を知れないのは“もったいない”。地方のヤンキーに「東京でインターンシップする」選択肢を

「世界を広げるほどに、見える景色が変わり、人生の選択肢が増えていく。それで初めて目標が持てるんだよ。学歴を得る過程が大事なんだ」

恩師からこの言葉をもらったことをきっかけに大学へ進学した久世さん。「世界が広がった」ことを実感した、半年後に中退した。

18年間地元の京都から出たことがなかった久世さんは、それから大阪で携帯電話販売のビジネスを始めた。アルバイトの大学生が200人ほど集まった頃から、企業を呼んだ就活講座を開くようになる。

このとき、中卒や高卒だとしても、企業が求める人材像に合致する優秀な子たちを何人もみた。こうした経験を通じ、大学や就活のあり方に疑問を抱くようになったという。2015年、久世さんは大阪から上京し、ハッシャダイを創業した。

久世

「ヤンキーインターンシップ」をある一点からみると、「地方はダメで、東京が素晴らしい」といった考え方で捉えられることが少なくありません。しかし、僕らの想いの根本にあるのは「違う世界を知らないまま選択をするのは、“もったいない”」ということ。そのため当然、インターンの後に東京で働くのも、地方へ戻るのも自由です。一つ面白いデータがあります。ある研究によると、学歴が上がれば上がるほど移動距離が長くなるそうなんです。反対に、学歴が下がれば下がるほど移動距離は短くなる。考えてみれば、大学のために上京する時点で移動を伴いますよね。

長谷川

たしかに大学で出会う仲間に刺激を受け、海外旅行をしたり、インターンシップに行く流れが構造としてある気がします。

久世

大学生活はよく「モラトリアム」と表現されることがあります。それでも、世界や日本全体をみながら過ごす4年間と、地元だけをみて過ごす4年間では確かな差が生まれてしまうんです。大学における勉強そのものに意味はないと思うのですが、そこで経験すること、出会う人の存在は大きい。ヤンキーインターンも、「無料の大学を作りたい」との想いからスタートしました。

長谷川

ちなみに「ヤンキーインターン」というネーミングは久世さんが?

久世

はい。社名の「ハッシャダイ」も「ヤンキーインターン」も、スッと耳に入ってくる言葉を選ぶことが大事だと思っています。耳に残った認知が興味につながり、そこにストーリーがあると尚いい。「ヤンキー」と「インターン」は普通つながりませんよね。ここ数年で市民権を得た「インターン」と、古くからある「ヤンキー」。新旧の言葉をつなぎ合わせることで、キャッチーな語感が生まれました。

長谷川

言葉に対するこだわりは、小さい頃から持っていたんですか?

久世

もともとは大阪で営業マンをやっていたので。言葉一つで相手の態度は変わります。分かりやすくて引きのある言葉にすることは、採用戦略にも関わってくるので、かなりこだわっていますね。

金髪ロン毛の兄ちゃんが、黒髪短髪ビジネスマンに。経験と環境が生み出すビフォーアフター

長谷川

創業されてから約2年が経過するわけですが、これまでに一番苦労されたことは何でしょうか?

久世

「苦労」と思ったことはないです。自分に対しての期待値がそもそも高くないので、ずっとニュートラルといいますか。「上手くいくと思っていた」と期待値を高く設定するから、苦労が生まれるわけですよね。僕はそもそも上手くいくと思ってないんですよ。だって、ヤンキー集めてインターンって意味分からないじゃないですか(笑)。もしかしたら今回の記事を通して、「社会起業家」のようなイメージを持たれてしまうかもしれないのですが、僕はなにも聖人君子ではありません。あくまでも原点にあるのは、「もったいない」。最初は地元の友達を変えようと思い、始めただけです。


ヤンキーインターンの仕組み

久世

環境が変わったことで、それまでは地元でくすぶっていたような友達たちが、みるみる変わっていく。それがなければずっと地元でブラブラしていたかもしれませんが、今では会社で働いています。こうした変化を目の当たりにし、「これは自分たちだけの問題ではなく、日本中で起こっているのかもしれない」と考えるようなりました。楽しいからやっているだけで、上場を目指しているわけでもありません。はじめから仕事自体が手段ではなく、目的なんです。

長谷川

逆に一番うれしい瞬間は、本人たちがもったいなさに気づき、新しいチャレンジを始めたときですか?

久世

そうですね。顔つきもガラッと変わって、みんなビックリするくらい生き生きしてます。それこそ肌のハリからして違う(笑)。インターンを通じて色んな人に出会い、話すなかで、自分の世界がどんどん広がっていくんです。全員のビフォーアフターの写真を見せたいくらいです。


海で遊びまくるプチヤンキーだった安田さんは現在、起業家になる目標に向け営業の仕事に従事している。


「いつか自分が親になった時、私はなにを教えてあげられるんだろう」。高校卒業後、地元の沖縄で接客業の仕事をしながら、そう考えていたという野村さん。夢は「かっこいいママ」になること。


自らを“非行少年”だったと語る小崎さんは、18歳まで広島で大工だった。上京後は営業の仕事に打ち込み、高学歴のエリート揃いの会社に内定。

SNSによって減少するヤンキー。それでも埋められない“体験格差”とは

長谷川

先ほど「上場は目指していない」との話がありましたが、会社としてのビジョンは何になるのでしょうか?

久世

情報格差に紐づく「体験格差」を解消することです。いくらウェブ上に情報が溢れていようが、地方の子たちは驚くほど地元から出ようとしません。大学で上京しないかぎり、頼れる人が地元にしかいないからです。スマホで情報摂取することで、脳みそはどこまでも行けるのですが、身体がついてこない。

長谷川

頼れる人的ネットワークがないのに加え、物理的なコストもかかりますよね。

久世

人的ネットワークは移動や居住のコストも下げることが多くあります。冒頭で触れた学歴と移動距離の相関関係も、この辺りに理由がありそうです。

長谷川

たしかに僕が海外へ行くときも、大学時代の友達を訪ねる場合が多いかもしれません。

久世

そもそも地方にいる子は「行く」思考すらないですよ。僕が10代の頃は、スマホがなかったこともありますが、「東京!えー!」みたいなレベルでした。今でこそ、東京ー大阪間も夜行バスで2,000円程度で安く行けるようになりましたが、当時は行く手段も限られていましたから。

長谷川

実際、「ヤンキーインターン」に応募してくるのはどんな子が多いんですか?

久世

当初はガチのヤンキーばっかりでしたね(笑)。最近では国立大学を中退した子だったり、いろんな子がいます。悲しいことに、ヤンキー自体が減ってきていますね。

長谷川

なんでヤンキーが減っているんですか?

久世

今はみんなSNSで繋がり、頭が良くなってきているからだと思います。なぜ昔、ヤンキーが反抗的な行動を取っていたかというと、コミュニティが分断されていたからなんです。あるコミュニティでは小中高生でバイクに乗るのが当たり前なのに、別のコミュニティからは「DQN(ドキュン)」にみえる。別々のコミュニティが交わることがなかったため、白と黒のように分かれていた。今ではSNSがあることで、どのコミュニティも基本的には同一の思想で動くんです。外の世界が容易に知れるようになったので、自分たちのやっていることがまともかどうか判断できるようになりました。だからこそ、今の若い子はあらゆることに寛容なんです。

長谷川

なるほど。自分以外のあらゆるコミュニティがSNS上で可視化されたことで、自分自身を内省する術を持っているということですね。

久世

昔は周りを知る術がなかったため、事実でしか物事を考えられませんでした。僕の肌感覚からしても、「俺の時代はこうだった」と事実思考で話す40〜50代の人が多い。一方で、SNSに触れながら育ってきた10〜20代は「もしこうなら、こうかもしれない」と仮説思考で考えられるようになっています。リテラシーも高くなっていますし、「自分の世界が当たり前ではない」と自己認知できていますね。

長谷川

リテラシーが上がっても動けないのは、リアルな人的リソースが足りないから。ハッシャダイがやろうとしているのは、まさにその環境を提供することですよね。

潜在ニーズに応えるオンライン相談室で、“体験格差”を埋めたい

長谷川

ちょっとだけ自分の話をさせてもらうと、僕は親戚も含め家族に大卒者がおらず、兄貴も不良でした。「勉強はできないもの」と思い込んでいたので、中学卒業のときも、土方になるか底辺の商業高校に行くか迷ってるくらいだったんです。でもある恩師との出会いを通じ、結局は大学院まで進学したので、人生どう転ぶか分かりません。そもそも人間が100人いたら、1人の天才と1人の大馬鹿者くらいはいるかもしれませんが、98人のスペックは変わらないと思うんです。「環境で人は作られる」ことに気づけたのも、また環境のおかげでした。

久世

おっしゃる通りだと思います。人生は家族や友達など、「準拠集団」によって決まるんです。たしかにインターネットやSNSによって世界は広がります。それでも選択肢に影響を与える決定的な要因は準拠集団なのです。

長谷川

つまりSNS上の弱いつながりは「準拠集団」にはなり得ないと?

久世

日々SNSで流れる情報に触れはするものの、 結局は半径5mの人間関係から受ける影響が大きい。今の若い子たちは検索しても上位に上がってくるのは適当な情報と、SEOの欠点にも気づいていますし、そもそもネットは目的なくしてどこにもたどり着けないじゃないですか。スペルが間違っているだけで、情報にたどり着かない。顕在化しているニーズに対しては、たしかに最高のソリューションかもしれません。でも潜在的なものに訴えかけるのは、やっぱり準拠集団。そこで僕が思ったのは、「もしかすると、高校の相談室が重要なのではないか」ということです。

長谷川

リアルな場でかつ、気軽に行ける場所として?

久世

長谷川さんも僕も、人との出会いによって変わりました。でもこれって、運ですよね。属人的で再現不可能なもの。おそらく高校の相談室も、熱血な先生なのか、適当な先生なのか、人によって体験の質が変わると思うんです。Webを活用しつつも人が間に立つことで、その体験の質を一定に保つことができます。なので今、全国の相談室を一つにつなげ、目的がなくても相談できる場所を作ろうと思っているんです。

長谷川

「目的がなくても」がポイントになりそうですね。

久世

Web広告もSEOも、顕在化しているニーズに対してみんな広告を打つじゃないですか。僕らは「どうしたらいい?」という何もない状態からスタートするんです。ある意味ビジネスの最上流とも言えるかもしれません。正解が存在しない潜在的なニーズに対してビジネスを行うからこそ、自分たちの正義感を明文化するのが大事だと思っています。

区切り線

僕らは誰の人生でもなく、たった一つ自分の人生を生きている。比べるための、もう一つの人生を同時に生きれない。そこに人生の本質があるのではないか。

目に見えるものしか、見えない。耳に聞こえるものしか、聞こえない。手に取れるものしか、触れられない。人は人によって、形成される。自我や希望も、環境が規定する。

「SNSによって多様な世界に触れた若者は賢く、そして寛容になっている」という久世さんの言葉が印象的だった。それでも依然として、自分の半径数メートルの世界が自分にとっての“リアル”であることに変わりはない。

一歩を踏み出すとき、その先に頼れる人や場所がある安心感は何ものにも代えがたい。ヤンキーインターンの卒業生が、諦めかけていた人生の発射台から、今日もまた飛び立とうとしている。

書いた人 : 長谷川 リョー

アサシン系編集者。90年、東京。リクルートホールディングスを経て、独立。修士(東京大学 学際情報学)「SENSORS」シニアエディター。WHITE MEDIA顧問。#木曜解放区 出演中。夢は馬主。

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