「お店をやるのは大変すぎる」サブスクリプションから考える“お店2.0”の形

定額課金サービス、「サブスクリプション」。
動画・音楽・ニュース配信をはじめ、自動車、家具、ファッションなど、「所有はしないで、使いたいときだけ使う」というサービスモデルが、インターネット普及とともに今どんどん広がっている。

みんな、どんな「サブスク」を使っているのだろう。
そう思い、自分自身の出費を鑑みてみたけれど、音楽を聴くためのAppleMusicくらいしか見当たらなかった。案外少ないものだ。

自分が利用しないのはどうしてなのか考えてみたが、まだ「お店で選んで物を買う」というサイクルが根強くあって、サブスクリプションの必要性や利便性をそこまで体感できていないのかもしれないなと思う。

さて今回は、まさにその「お店」で働く三名が集まり、「お店のサブスクを考える会」が催された。本記事はそのレポートだ。

物を仕入れ、陳列し、お客さんに売り、利益をあげる……
これが従来の「お店1.0」方式だとすれば、彼らはその「お店1.0」のみで運営していくこと自体が相当しんどい、と話す。
だから「お店1.0」以外の方法として、定期的収入の見込めるそれぞれのお店のサブスクリプションを考えよう……つまり、自分たちの「お店2.0」のあり方を模索しようというのが、この会議なのだ。

最初、この会議のレポートを書いてほしいと言われたときには正直「どんな話になるのだろう?」「サブスクリプションに関心の薄いわたしでも話についていけるかしら?」と疑心暗鬼だったのだが、話を聞いているうちに、
「これはもしかしたら単なるアイデア交換ではなく、『新しいお店のかたち』を具体的に模索する会議なのでは?」
と思い始めた。

まだ見ぬ「お店2.0」を語れるのは、今「お店1.0」を真剣にやっている人たちのみだ。
そしてそんな人たちが、答えのない問いに向き合い知恵を出し合うことで、新しい答えを作っていく。
その繰り返しで、ビジネスや文化の歴史は作られてきたのかもしれない。

今回はその様子を見ながら、読者のみなさんにもぜひ一緒に『新しいお店のかたち』について考えてみてほしいと思う。


【鼎談参加者のプロフィール(写真左から)】
龍崎翔子……ホテルプロデューサー。L&G GLOBAL BUSINESS, Inc.代表。2015年にL&G社を設立。15年に「プチホテルメロン富良野」、16年に「HOTEL SHE, KYOTO」、17年に「HOTEL SHE, OSAKA」を開業。「THE RYOKAN TOKYO」「HOTEL KUMOI」のリブランディング・運営も手がける。

岩崎達也……泊まれる雑誌「マガザンキョウト」オーナー兼編集長。東京でリクルートコミュニケーションズ、楽天などを経て京都へ移住。ロフトワーク京都勤務、雑貨屋の経営を経て、16年5月に「マガザンキョウト」をオープン。現在は様々なプロジェクトのマネージャーとしても活動している。

徳谷柿次郎……大阪出身の編集者。株式会社Huuuu代表。長野と東京の二拠点生活をしながら、ウェブメディア「BAMP」「ジモコロ」の編集長として、全国47都道府県を飛び回る。17年、長野県にて「やってこ!シンカイ」というお店をオープン。サブスクリプション制の会費を軸にした運営を考えているが、波に乗るまではスーパー赤字を垂れ流している毎日。

お店をやるのって、めちゃくちゃ大変。

岩崎

もともと僕たちと柿次郎さんは、お互いのクラウドファンディングを支援し合っていた仲だったんですよね。柿次郎さんは「ローカルに新たな価値を届ける! サブスク制の『お店2.0』を始めます」というプロジェクトを、僕と龍崎さんは「パジャマをもっと自由に。京都のホテルが寝る直前まで夜遊びできるパジャマを作ります」というプロジェクトをやっていて、お互いに支援し合っていたんです。支援したのは、純粋に「おもしろいな」と思ったからというのもあるんですが、「お互いの『お店』をやる大変さが痛いほどわかる」という思いも強くて。それで今回は、「夜遊びできるパジャマ」の柿次郎さんへのリターン・「京都夜遊ツアー / オールナイト」の一巻として、このトークイベントを急遽開催しました。


龍崎さんのHOTEL SHE, KYOTOと岩崎さんのマガザンキョウトが共同で立ち上げた「夜遊びパジャマ」プロジェクト

岩崎

前回の鼎談で、柿次郎さんと「お店をやるのってめちゃくちゃ大変ですよね」という話になったんです。従来のやり方での「お店」運営が大変すぎる。そこで、お店のサブスクリプション(以下、サブスク)を一回ちゃんと考えてみましょうよ!という話になりました。月額課金、ファンビジネスとも言われるサブスクですが、これがうまくお店にハマったら最高なのではないかと。そこで今日は、「こんなサブスクならいけるんじゃないか?」というアイデアを出していきたいと思います。


岩崎さんの運営するショップ&ギャラリー併設のホテル「マガザンキョウト」

岩崎

では、まずは簡単に自己紹介を。僕は京都で「マガザンキョウト」というホテルを運営しています。「紙媒体の雑誌が空間になったら」というコンセプトのもと、定期的に特集を入れ替え、雑誌のように「見る、読む」だけでなく、宿泊を通して実際に「触って、使って、泊って、買える」空間にしました。宿泊ゲストや遊びに来てくれるお客さんなどのコミュニティから、プロジェクトワークのお仕事が生まれることが多く、うちの収益の大半はこっちですね。今日来てくれている龍崎さんも一緒に、新しいホテルの企画運営や建築のディレクションなどもしています。

龍崎

私もホテルを経営しています。私も岩崎さんと同じように、「ホテルはメディアなのではないか」という仮説をもともと持っていました。人と人、人と街、人と文化をつなぐ箱として、お客様の人生を豊かなものにする。ホテルにはそんな力があると信じて、メディアとして意識したホテル作りをしています。現在は全国で5店舗運営中です。

柿次郎

僕はウェブメディア『ジモコロ』『BAMP』などで編集長をやっています。2017年に長野に家を借りて、東京・長野の2拠点生活を始めました。その後、長野に住む意味を持ちたくて、クラウドファンディングで320万円の資金を集めて「やってこ!シンカイ」というお店を開いたんです。


柿次郎の運営する「やってこ!シンカイ」

柿次郎

シンカイのコンセプトは「お店2.0」というものです。従来の小売のあり方、仕入れて物を売って利益を得る、という「お店1.0」的仕組みから距離を置いて、友だちや知人たちからの月額課金システムで運営できないかなと考えました。そういったサブスクでまわすやり方が「お店2.0」なんですね。だけど、「お店2.0」を始めたものの「お店1.0」がめちゃくちゃ難しいんです。もちろん「2.0」もめちゃくちゃ難しくて、今もすごく苦労しているんですけど……自分自身が発した呪いに悩んでいますね(笑)。

岩崎

まだ答えがないことですもんね。

柿次郎

若者から「同じようなことやりたい」っていう連絡も来たりしたんですが、シンカイだから、長野だからできることだったりするんですよね。環境と建物でできることが違うので。でも、理想は求めていけるはず、とは思っていて。とは言え、やりながら無理がどんどん出てくるんですよね……。

岩崎

僕がこの業態についたのも、前に2年ほど雑貨屋をやってたからなんです。当時は海外のビンテージを小売りしていたんですけど……まあ大変ですよね(笑)。1点もので付加価値があるものを売っていたんですけど、在庫管理・帳簿整理が本当に大変で。どの納品書がどれ!?みたいなことが頻繁に起こって、人件費がすごいんです。
そして何より、「先に仕入れて後で売る」ということの、お金のなくなり方のえぐさ……。

一同

(笑)。

岩崎

こんなこと、先人たちが散々言っているし、当たり前のことなんですけど。

柿次郎

でも、やってみないとわからないですよね。

岩崎

わからなかったです。それで、これはこのままやっていても負け戦になると思いましたね。いろいろ考えた結果、ホテル業の宿泊費でベーシックインカムを作りながら、物販で価値を補強して、そこの場で得た仕事でレバレッジをかける、というやり方に落ち着いたんです。
自分なりに「お店2.0」を試行錯誤していた時期と言えるのかもしれません。

物販は送料の積み重ねがバカにできない。

岩崎

それで今日は、お店のサブスクリプションを考えようということなのですが、僕もこれまでに、いくつかアイデアはあったんですよ。例えば、ここで一緒に働いているイラストレーター・デザイナーに岸本敬子がいるんですけど、この場所でのビジュアルってだいたい彼女が作っているんですね。それで、マガザンに来てくれた人の中で、彼女のファンがだんだん増えていっている。なので、彼女の絵を月額固定でお送りするのはどうかなと考えたんです。

柿次郎

ファンクラブみたいな感じですよね。関係性が築かれるのが嬉しいみたいな。

岩崎

そうですそうです。それがいちばん、サブスクのベーシックなやり方かなと。そうすると遠方の方にも楽しんでもらえるわけですけど、ここで問題なのが、送料のやばさで。物販やると痛感するんですが、郵送の最安値である「84円」の積み重ねがバカにできないんですよね。そして配送管理もすごく大変。とは言え、データだと味気ないし。だから一回ペンディングしたんです。

柿次郎

ああー。やればやるほど大変そうだ。

龍崎

なるほど。ここで考えないといけないのって、何のためのサブスクかってことですよね。マネタイズ目的なのか、関係性づくりなのか。

岩崎

マガザンでいつも気をつけているのは「お金がないと続かないぞ」ってことなんですよ。どんなにおもしろいことでもお金がないと続けきれないから、全体としてなんらか黒字になる仕組みにはしたい。それに加えて、ホテルという場所が一番楽しめるのは現場だと思うんですけど、なかなか来られない人っているじゃないですか。でもマガザンが好きで応援したいなという方。そういう方に喜んでもらえたらいいなと思いますね。

ホテル宿泊をサブスク化する?

龍崎

たとえばホテルに泊まることをサブスクする、とかは考えないですか。マガザン泊まり放題とか。

岩崎

あ、それも考えたことはあります。

龍崎

うちは5か所でホテルを運営していることもあって、宿泊サブスクしないんですかって結構聞かれるんです。たとえば、京都・大阪で泊まり放題になるとうれしいな、とか。でもやっぱりホテルって繁忙期と閑散期の差がめちゃくちゃあるんですよね。泊まり放題のプランが4月の京都で適用されるとしんどいな……とか。それも、あまりいいビジネススキームが組めずペンディングしましたね。


龍崎さんの運営する「HOTEL SHE, OSAKA」

岩崎

ホテルって、泊まりたい季節には埋まっていますからねえ。僕と龍崎さんとクマグスクの矢津さん(※1)で、「泊博」(※2)という宿泊レーベルをやっているんですが、三社提携でのサブスク案は出たことがあります。月3万円で3社に泊まりたい放題、とかね。でもそれが実現しなかった理由は、3社とも観光客の多い京都にホテルがあるのもあって、稼働率に関しては困っていないんですよ。だから単なる安売りになってしまう。

龍崎

でも最近、月いくらかで、加盟している全国のホステルに泊まり放題になるっていうサービスができましたよね。

岩崎

あ、そこに加盟されている「SUZUKI GUESTHOUSE」さんが今日客席にいらっしゃっています。いかがですか、鈴木さん。


マガザンキョウトの近くでゲストハウス「SUZUKI GUESTHOUSE」を運営する鈴木さん

鈴木

そのサービスは、「ホステルパス」という名前で、つい最近10店舗が加盟するかたちでスタートしました。プランによって連泊は2泊までとか、土日はNGとか、いろんな制約はあるんですけどね。まさに龍崎さんがおっしゃっていたような閑散期・繁忙期の問題もあるんですけど、ドミトリーに関しては京都でも稼働率が落ちていて、フロー収入がどんどん少なくなっていっているんです。このホステルパスは、観光客の方より定期的に訪れるフリーランスのビジネスマンにターゲットをあてている感じですね。

岩崎

フリーで移動しながら仕事している方の中には、家を持たない方がいい人もいますしね。

龍崎

うちの会社の広報スタッフも毎週のように東京と大阪を行き来しているから、2拠点生活の人には嬉しいサービスかも。

岩崎

毎月うちに泊まりに来てくださっている方がいるんですけど、そのお客様、フリーランスでお医者さんをされているんですよ。僕は「ニュー・エリート」って勝手に呼んでいるんですけど。お医者さんでも麻酔科医とか、機械がいらない職種にはフリーランスってよくある形みたいです。僕が彼を「ニュー・エリート」だって思う理由は、地域医療に貢献して、ちゃんとお金をもらえて、なおかつ自分の時間があるところ。しかも全国にニーズがあるから、働きに行きたいときに行けちゃうんですね。そういう人は今後増えるだろうし、全国的に飛び回っている人にはいいサービスですよね。

※1「クマグスクの矢津さん」…クマグスクとは、展覧会の中に宿泊しながら美術を“体験”として深く味わえる、宿泊型のアートスペース。矢津さんはクマグスクのオーナーであり、現代美術家。

※2「泊博(hakuhaku)」……マガザンキョウトの岩崎達也、クマグスクの矢津吉隆、HOTEL SHE,の龍崎翔子で結成した宿泊レーベル。宿泊施設という媒体を活用し、宿泊体験を通じた新たな価値を提案する。

主体性を東京から引っ張ってこよう。

柿次郎

そうか、泊まれるっていいですね。

岩崎

「泊まれるっていい」?

柿次郎

いや、シンカイは、宿泊許可も飲食許可もとっていないんです。それをとるにはハード的な投資が必要なので、そっちに寄せてしまうと今の「お店」じゃなくなってしまう。うちのコンセプトは、集まった人がいかにコミュニティとしてあの場を活用するかなので。うちは、毎月5千円の棚代を11人くらいからもらっているんですよ。その5,6万円と、売れた分の10%がうちの取り分として毎月上がってくる。だけど、たとえば最初に仕入れで40万円くらい金が出ていくのに、翌月からやっと10万円くらいこつこつ入ってくるとか、キャッシュフロー最悪じゃないですか(笑)。

岩崎

ですよね。よくわかります(笑)。キャッシュフローがえぐいんだよなあ。

柿次郎

それを見て「やばいな!」って思って。月5千円をとりにいったら、キャッシュフロー最悪だったみたいな。このままやるべきなのか?と悩みますよね。でも、そこ外しちゃうとコンセプトがぶれぶれになってしまうから……。

岩崎

言ってしまってますもんね、これが「お店2.0」だぞ!と。

柿次郎

まあ、これで1年くらいやってみようかと……。でもそこで思ったのが、「主体的なサービス」とサブスクって、相性が良くないのかもってことなんです。世の中のサブスクって、すでに用意されたサービスに飛び込んで享受する形で成り立っているのが多いですよね。NetflixとかAmazon Primeとか、大量のコンテンツがあって、好きなタイミングでそれを楽しむことができる。だから、「主体的なサービス」をサブスク化するのって難しいのかなあ。……あと、もしかしてサブスクって嘘なんじゃないかなって思ってて。

一同

(笑)。

岩崎

サブスクが嘘! 根底から覆しますね(笑)。

柿次郎

いやもう、ここでこういうこと言っていいのかわからないけど、サブスクが増えすぎてるんじゃないかなって思ってるんですよ。僕自身は編集者なので、NetflixもAmazon Primeも、SpotifyもApple Musicも、新聞購読もネット購読も、情報に触れるためにいろいろやっているんですよ。でも、みんなどこかで嫌になるんじゃないかなって思っていて。そんなに毎月固定費払えないよ、みたいな。サブスクローン地獄みたいになって……。

岩崎

サブスクローン地獄(笑)。

柿次郎

あと、特に地方でやっていると、周りがまだクレジットカード使えないお店ばっかりとかだったりするので、そこに新しい言葉を持ってきて強制的に営業するものでもないよなあと。

岩崎

なるほど。サブスクは都会に合ったサービスだとしたら、シンカイが長野から東京の人に向けてサブスクを提供する、とかはどうですか?

柿次郎

それはまさに今考えているところで、「シンカイトーキョー」っていうのをやっているんですよ。「やってこ!シンカイ」が月1で都内で開くトークイベントなんですけどね。要は出稼ぎです。

岩崎

(笑)。

柿次郎

長野出身で今東京で働いている人とか、長野でいつか何かしたい・戻りたいなと思っている東京の人とか、「今は長野にいないけど、長野と繋がっていたい」という需要はあるんですよね。そういう方に月額で3000円とかで会員になってもらう。会員になった方は、長野に来たときにはシンカイを展示やイベントのスペースとして使うことができる。わざわざ3000円払って、わざわざ東京から来ているんだから、一緒に何かやろうよっていう。そういう主体性を東京の人から長野に引っ張ろうというのが「シンカイトーキョー」なんです。でも、シンカイの店長の女の子がめちゃくちゃシャイで、「会員になってよ」って言うのがすげえ苦手なんですよね(笑)。友達には言えるけど、知らないおじさんには言えない、みたいな。

岩崎

ああ、「この商品いいよ!」って気持ちよくすすめる、「お店1.0」でやるべきことがまずできていないんだ。

柿次郎

そう、シンカイは「お店1.0」でまずつまずいているんですよね。店長としての修行中の身です。

「行こう」と思う動機付けとしてのサブスク。

龍崎

私は、在庫を抱える「物」とサブスクって、あまり相性が良くないなと思っているんです。逆に、イベントとかって相性良いと思いません? たとえば定期的に開催されるイベントに来放題、とか。イベントをサブスク化すると、お客様が現地に来てくれますよね。つまり、動機付けのサブスクです。そしてそこでコミュニティが構築されれば購買活動が行われるから、総合的にプラスになるかなって。

岩崎

ああ、それで言うと、柿次郎さんと以前鼎談したときに、「リアルな場には『ハレ』と『ケ』がある」という話になったんですよ。たとえばブランディング的な部分、マガザンだったら毎回の特集、それが「ハレ」にあたります。一方で、売上の大半を占めるのが「ケ」の部分である宿泊業の売上なんですよね。イベントってどっちかって言うと「ハレ」なんじゃないかな。よりカロリーを使う方ですよね。企画脳を駆使して、イベントを作っていくことに対して、課金されるパターン。

柿次郎

シンカイも2,3か月に一度マーケットを開催しているんです。東京からわーって人を呼んで、わーってお金使ってもらって、夜はわーって山賊みたいに酒飲んで帰る。

龍崎

(笑)。

柿次郎

なんか、高揚感がすごいんですよ。「やってる」感と、いろいろな人が来てくれる感じが。そこで出店料2千円とか売上の10パーとかをいただいて、最終的には2,3万円出店料があがってくる。でも、それだけやってもやっぱり知れてるんですよね。だからやっぱり、平日の「ケ」の部分でどれだけ人に来てもらうかだなあと。

龍崎

うちは湯河原で温泉宿をやっているんですが、「温泉+コワーキング」のサブスクをしようとしていたことはあります。今は湯河原で温泉に浸かりながら原稿を書きませんかと提案する『原稿執筆パック』や、積ん読を解消しませんかという『積ん読パック』というのをやっているんですけど、その宿泊のないバージョンですね。

岩崎

このパック評判になりましたよね。そこに味をしめたんだ(笑)。

龍崎

そうです(笑)。それに温泉とスペースを使っていただくだけなので、正直そんなにコストがかからない。私自身、温泉旅行がラグジュアリー化してしまうのはもったいないなって思っているんです。パイ自体が縮小化してしまうから、ラフに温泉に来るっていうライフスタイルを提案したいなと。それをサブスク化するのはありだなって。それで、月1で原稿を書きに行こうという日帰りパックがあるといいのではないかなと思ったんですけど、それをコンサルの方に話したら、ロジカルに詰められてしまって(笑)。それでやめちゃったんですけどね。

岩崎

だけどそれだと、オペレーションも変えなくていいですよね。発送も仕入れも在庫もないから、リスクが少ない。

龍崎

そうそう。

岩崎

サブスクをフレームワーク化していくんだったら、仕入れと発送はなくしたほうがいいかもしれないですね。

龍崎

物じゃないサービスを受けてもらうために、現地に来てもらう。その、「物じゃないサービス」をサブスク化するっていうのがいいかもしれないと思います。

岩崎くん、龍崎さん、柿次郎さんと、それぞれのアイデアが飛び交ったが、いまだに「これだ」というものはまだ誰も見つかっていないようだった。

ただ、ここまで来ていろいろと整理はできたように思う。
まずサブスクリプションと相性がいいのは、物よりもサービスであるということ。地方よりも都会であるということ。主体性を求めるものよりも、受動的に享受できるものであるということ。「ハレ」が強いものよりも、「ケ」に近いものであるということ……。

観客の方からも「こんなサブスクがあったらいい」というアイデアが出た。
「銭湯フリーパスとかあったら素敵ですよね」
「複数人が日替わりで店に立てる、シェアスナックをやりたい」
など。
それに合わせて登壇者からも、「美容院では月額制でシャンプーやブロウを何度もしてもらえるサービスがあるらしい」とか「大手ビジネスウエア企業では、ついこの間までスーツの定額レンタルサービスがあった」など、様々な情報が出る。

そんな中で、岩崎くんがふと言った。
「そもそも、サブスクって今何でこんなに流行っているんですかね?」

それに対し、龍崎さんが言う。
多分シェアリングと相性がいいんだと思います。家具のシェアサービスのサブスクとかあるじゃないですか。そのシェアエコ的なところとサブスクが、相性いいんじゃないかな」

それを聞き、なるほど、と思う。
完全に個人で所有するのではなく、人と共有するやり方が少しずつ浸透しているということなのだ。それはある意味で、自分と人の領域が溶けていく感じでもあるな、と思った。

自分のものであり、他人のものでもあるということ。
ゆえに永続的なものではなく、一時的な関係性であるということ。

少しずつサブスクリプションのことが、わかってきた気がする。

成功体験から勝ちパターンを育てていくのはどうだろう?

岩崎

さっき龍崎さんが『原稿執筆パック』の応用編を言ってたように、味をしめたというか、成功体験から勝ちパターンを育てていくっていうのはありかもしれないです。僕にもそういうのが一個あって。マガザンを作るときにクラウドファンディングをしたんですが、「事業計画書のPDFを売ります」っていう5000円のプランを用意したんですね。実はそれが100何十セットも売れているんです。これをECで売るのはありかもしれない。

柿次郎

味をしめてますねえ。まだまだ味が出る!

岩崎

(笑)。シンカイにはないんですか、そういうの。

柿次郎

シンカイもクラウドファンディングで開店資金を集めたんですが、そこで味をしめているのは「スーパー足長おじさんプラン」ですね。10万円で圧倒的名誉をお返ししますっていうプランなんですけど、10枠全部売れたんですよ。

岩崎

すごい! 肖像画を店に飾るってやつですよね。

柿次郎

そうそう。基本的に僕が新しいことにチャレンジしているから、それを見ているお金ある人が「がんばれよ」って気持ちよく払ってくれる感じでありがたかったです。本当に名乗らない足長おじさんもいたりしたんですよ。

岩崎

もしかしたら「このサービスにいくら」よりも、「柿次郎さんチームがめちゃがんばるから応援して!」みたいなのがいいかもしれないですね。

柿次郎

もうね、「助けて!」みたいな感じですから(笑)。

岩崎

日本人って成果主義が得意じゃないじゃないですか。「プロセスが大事」みたいな美意識があると思うので、そういうのは相性が良さそう。世の中にはお金持ちっていますからね。よくわからないけど、おもしろいからお金出してあげる、みたいな。

柿次郎

「仮面屋おもて」っていうお店が東京にあるんですけど、そこは元舞踏家の方がやっている仮面の店なんですね。で、仮面って、お金持ちの変態がいつかたどり着くものらしいんですよ。

岩崎

そうなんですか(笑)。

柿次郎

お金持ちは最終的に民族の仮面とか集め始めたりするらしいんですけど、ひとつ悩みがあって、家に仮面を置いておくと奥さんに「あんたこれ何に使うの!」って怒られるんですって。

龍崎

(笑)。

柿次郎

だから、集めたいけど集められない仮面好きもいるらしくて、「活動を続けてほしいから」って急にお店に大金が振り込まれるってことがあるらしいんですよ。

岩崎

うわー、それはすごいなあ。

柿次郎

尖ったことをやると、伊達直人的な人に声をかけられるんでしょうね。「仮面屋おもて」ってネーミングもいいですよね、裏がありそうで……。

龍崎

なんだか、サブスクにこだわる意味がわからなくなってきましたね(笑)。

人生をサブスクにはできない。

――あの、質問していいですか。

岩崎

どうぞ。

――たとえば、こちらにいらっしゃるお三方自身が、サブスクのコンテンツになるとかは考えてはいらっしゃらないですか。つまり、「オンラインサロン」みたいな。あれもサブスクを利用したサービスだと思うので。

岩崎

ああ、なるほど。オンラインサロン!

龍崎

実は私も話そうかどうか迷ってたんですけど、そういうご依頼はよくいただくんです。でも私自身は、自分をコンテンツにするのはしたくないと思っているんですね。適切な言い方かどうかわからないんですけど、私をコンテンツにすると、私が正しいって感じになってしまうので、ちょっと違うなと思うんです。対等じゃない、フェアじゃない感じがしてしまう。それが大きくなっていってお金をいただくのも、納得感がないというか。でも、仕組みを活用するのはありだと思っていて。今やろうと思っているのは、ホテルマーケティングの研究会なんです。セミナーを開催しながら、アーカイブのアウトプットはnoteで売っていく、みたいな。形式はオンラインサロンに近いけど、より、誰にとっても価値があるものにしたいというか。

岩崎

それはいいですよね。「この人だったらいい使い方をしてくれるだろうな」って、お金も集まりそうです。

柿次郎

僕もスタイル的に、オンラインサロンというのはちょっといやだなってところがあるんですよ。やった方がいいのもわかっているんですけどね……。でも、そこに自分が入っていっても勝ち目がないから無理なんですよね。僕にはなり切れる気がしない。月数千円出してくれると言っても、オンラインでつながっただけの人の面倒見たりできないなあと。僕自身、目の前で一緒に飯食って、風呂入って、やっと面倒見られるタイプなので、スタイル的に想像できないんですよね。そこを理解できていないから、サブスクもできないのかなっていう感じはします。

岩崎

僕自身も考えることはあるんですが、やらない理由はふたつあるんです。マガザンをやっていて収益的にもうまくいくと、銀行の方とかから2号店の話なんかがくるんですね。だけど、自分は路面店とか個人でやっているお店に行くのが好きなんです。それなのに自分の事業がチェーン化していくのが、すごい大きな矛盾で。それと同じように、自分のノウハウを喋って、それを誰かがコピーするのがどうも違うなと。あとひとつは、1日職業体験っていうのをやったことがあるんですよ。マガザンでの仕事を1日体験していただくってやつなんですけど、その対応がめちゃくちゃエネルギーいるんですね。ひとりひとりに向き合って、なんとか建設的な時間にしてほしいっていろいろ考えたりするのってめちゃくちゃ大変で。やっぱり、人が人にお金を払うっていうのは期待値があるので、それを裏切ってしまう瞬間を考えると耐えられない。いわゆる炎上リスクでもありますよね。

柿次郎

だったら赤字のほうがいいですね。

岩崎

つまり向いていないという(笑)。

柿次郎

そう考えると、サロンって言葉も嘘に思えてきたな……。

岩崎

また出た! 「嘘じゃないか」説(笑)。

龍崎

でもそうですね。サロンって、もともとはある程度立場が対等な人が入るものだと思うので。

――ではやはり、ご自身をコンテンツ化するのではなく、あくまでサービスをサブスク化するということを目指していらっしゃるんですね。

岩崎

人生をサブスクにはできないです。

柿次郎

だから、悩むんですよね。サブスクに限らず、新しい仕組みと既存の自分たちの生活を、正解に擦り合わせていくって、本当に大変。だからこそ、議論したいですよね。来年、再来年どうなるんだろう……自分は何なんだろう……。

岩崎

(笑)。結局これだ!という答えは出ませんでしたが、そうやって考え続けていかないといけないですね。今日はどうもありがとうございました。

最後の質問を出したのは、わたしだ。
話を聞いているうちに、もっとも身近なコンテンツに対する言及がまだされていないように感じたので、質問として投げかけてみた。

それは「自分自身」というコンテンツ。
お店やホテルという空間をつくり、多くの人を動かしてきた彼らの知見自体が、コンテンツとして立派に成り立つ。
そうしたらそれをサブスクリプション化できるのではないか、と思ったのだ。
オンラインサロンの是非に関わらず、その可能性があるのかどうかについて、シンプルにうかがいたかった。

興味深かったのは、三名が三名とも即座に首を振ったことだった。
そして岩崎くんはこう言った。

「人生はサブスクできないです」

その言葉を聞いたとき、わたしは龍崎さんの「サブスクは、多分シェアリングと相性がいいんだと思います」という言葉を思い出していた。

完全に個人で所有するのではなく、人と共有するやり方のことを、わたしは「自分と人の領域が溶けていく感じ」と思った。
だけど、何かをつくる……場をつくったり、物やサービスをつくったりすることは、きちんと「個」の強さを持っていないとできないことである。それは哲学や信念と言い換えてもいいし、美意識と言い換えてもいいだろう。

そしてそれは、コピーされるべきことでもない。
なぜならそれ自体、主体的にひとりひとりが自身の中に生み出し、個人として持つべきものだからだ。

多分彼らは、自分の「個」としての領域が溶けてしまえばお店をつくることができなくなるということを、感覚的に知っているのではないかな、と思う。
それが「お店」らしさを維持しているのだということを。

「サブスクに限らず、新しい仕組みと既存の自分たちの生活を、正解に擦り合わせていくって、本当に大変。だからこそ、議論したいですよね」

正解に擦り合わせていく作業。
それは一筋縄ではいかないし、効率的でも合理的でもないかもしれない。
だけど、自分のお店が自分のお店らしくあるためには、絶対に欠かせない作業なのだろう。

こういうことを繰り返しながら、新しい愛すべき「お店」は作られていくのだと思う。

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書いた人 : 土門蘭

1985年広島生。小説家。京都在住。ウェブ制作会社でライター・ディレクターとして勤務後、2017年、出版業・執筆業を行う合同会社文鳥社を設立。インタビュー記事のライティングやコピーライティングなど行う傍ら、小説・短歌等の文芸作品を執筆する。共著に『100年後あなたもわたしもいない日に』(文鳥社刊)。

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