「新しい」だけではローカルで残れない。地方ベンチャーの生存戦略

新しいものには、つねに反発がつきまとう。例えばクラウドファンディングやビットコインなどについてもそうだ。

果たして信用できるのか? 騙されはしないか? 何か重大なトラブルを引き起こさないか?

私たちの暮らしを便利にしてくれるはずの仕組みだが、世の中に受け入れられるまでには新しさゆえの「疑わしさ」を克服する必要がある。こうしたハードルは、いかにして乗り越えていけばいいのだろう?

2013年に岡山県津山市でクラウドファンディング事業をメインに起業した「レプタイル」も、そうした新しさの壁に挑んできた会社だ。

人口10万人ほどが暮らす津山は、いわゆる地方都市。そんな津山では2013年当時、クラウドファンディングはおろか、起業すら珍しかったとレプタイル代表の丸尾宜史さんは話す。


レプタイル代表取締役社長の丸尾宜史さん(まるお・よしふみ、写真左)、取締役副社長の白石七重さん(しらいし・ななえ、写真右)

地域特化型クラウドファンディング「FAAVO」のエリアオーナーをはじめ、岡山県の求人広告サイト「いーなかえーる」やスタートアップ支援の拠点「アートインク津山」の運営、起業スクール「Homing」設立など、新規事業を次々と立ち上げてきたレプタイル。

いずれも東京ではごく一般的な事業ばかりだが、津山では初めてのものばかり。実際、地元の人たちからは不信の目で見られることもあったという。しかし、レプタイルはそうしたハードルを乗り越え、顧客と信用を獲得してきた。

彼らの6年間の道のりには、新しさの壁を乗り越え、地域に受け入れられるためのヒントがありそうだ。

レプタイルの創業メンバーである丸尾さん、白石さんに話を聞いた。

会社立ち上げ2ヶ月、売り上げゼロでクラウドファンディング事業へ参入

友光

現在は幅広い事業をおこなうレプタイルさんですが、初めての事業は何だったのでしょう?

白石

一番最初は「FAAVO岡山」でした。「FAAVO」は地域のプロジェクトに特化したクラウドファンディングプラットフォームで、2013年4月当時、各地域のプロジェクトをサポートする「エリアオーナー」を募集していたんです。それを見て、代表の丸尾が問い合わせをしたんですね。


「エリアオーナー」になると、エリア限定でFAAVOの名義とシステムの権限が与えられる。FAAVOの一員となってプロジェクトの発掘から起案、広報サポートまでを行う。画像はレプタイルが運営するFAAVO岡山

丸尾

今考えると、立ち上げて2ヶ月の会社によくエリアオーナーを任せてくれたなと。会社を作って半年間くらいは、本当に売り上げゼロでしたからね(笑)。

友光

今でこそ認知されていますが、当時はまだクラウドファンディングという仕組み自体が広まっていなかったのでは?

白石

東京で有名人が利用し始めたくらいで、岡山では「クラウドファンディング」の単語を出しても、誰も理解してくれないような時期でした。家族にも「ネットでお金集め? 怪しくないんか、それ」みたく言われて。

丸尾

「あそこの会社はヤバい、ネットでお金集めることを商売にするらしい」みたいな(笑)。それに、起業自体が珍しかったですからね。怪しさも倍、というか…。

友光

かなり前途多難な滑り出しに聞こえます。

丸尾

でも、FAAVOをやることで事業全体がうまく繋がって、会社が回り始めたんですよ。

メディアとしてのフロント事業で「看板」を作る

友光

事業全体が繋がった、とは?

丸尾

レプタイルの一番の収益になっているのは、法人向けのWebサイト制作やマーケティング事業です。ただ、そのお客さんは、FAAVOがきっかけで繋がったところが多くて。エリアオーナーとしてクラウドファンディングをサポートした方たちが「レプタイルさんっていい会社だね」と思ってくださって、Webサイト制作を発注してくれたり、別のお客さんを紹介してくれたりするんです。

友光

FAAVOが本業の集客に繋がっていると。

丸尾

そうですね、会社のメディア的に利用しているイメージです。創業すぐの状態って、会社の「看板」がないわけじゃないですか。知名度も、法人としての信用も乏しい。すると、いきなりBtoBの仕事を取ってくるハードルは高い。そんな時に、FAAVOという既存のプラットフォームを利用して、地元の顧客開拓と自社のPRが同時にできたのは大きいです。特に地方のベンチャーにはおすすめの使い方というか。

白石

FAAVOの手数料で利益を上げることも可能なんですが、レプタイルは「FAAVO岡山」での利益は求めていなくて。FAAVOのお客さんと丁寧に接して関係性を作れば、それがあとあと本業のほうにつながるんです。本当にやりたい事業をフロント(看板)に置いて、それでレプタイルのことを知ってもらえるので、収益が上がらなくても割り切る。そして、そこで出会ったお客さんからバックエンド、つまりマーケティングやWeb制作の事業へ繋げて収益を上げています。

友光

よくできた仕組みですね。

丸尾

実は、「いーなかえーる」や「Homing」などの他の事業も、同じ構造になっています。フロント事業を通じて、地域を盛り上げながらプロモーションをお手伝いしたい、という会社の姿勢をアピールしているんです。


レプタイルの事業一覧。上段のアイコンとともに紹介されているのが看板事業、下段の【業務内容】の部分が利益を上げるバックエンドの事業という位置付け(会社案内『レプ太通信』より)

友光

そこでバックエンドの本業へつなげていくために、心がけていることはありますか?

白石

やっぱり真摯に対応することですよね。クラウドファンディングでいうと、プロジェクトの目標金額が300万円だろうが5万円だろうが、私たちがやらないといけないことは同じなんですよ。「目標5万円のプロジェクトだったけど、レプタイルさんはすごく良くしてくれた」って気持ちが残ってくれたら、何年後かにきっと返ってくるだろうと。一時的に損をするかもしれないけど、そこは覚悟してます。

友光

クラウドファンディングは派手にも見えますが、そうした地道な、地に足のついた戦略が欠かせないということですね。

白石

地に足のついた戦略は、クラウドファンディングを起案するオーナーさんの側にも重要だと思います。プロジェクトを公開しただけではダメで、起案者さんが自分ごと化して、まわりに広報しないとお金は集まりませんから。

丸尾

本当に事業性がある会社やプロジェクトであれば、資金をネットで集めるより、金融機関で借り入れしたほうがいい場合もあります。

友光

クラウドファンディングは魔法じゃない、というか。新しくて便利そうな仕組みだから、と興味を持つ人も多いと思うんです。

丸尾

いくらクラウドファンディングが便利な仕組みだからといって、そもそもの事業としての実現性や市場価値は必須です。FAAVOには「地域の魅力を発信するプロジェクト」が集まる場所、というコンセプトがあります。だからもし失敗プロジェクトばかりが並んでいると、その地域に魅力がないようにも見えてしまうじゃないですか。プロジェクトの数を増やしたいってプラットフォーム側の気持ちも分かります。でも、少なくともレプタイルは岡山県で事業をしてる以上、岡山のブランディングの視点で、載せたプロジェクトは成功させたい。だから、実現性や起案者の方の本気度はかなり真剣に見ています。


レプタイルがサポートし、FAAVO岡山で目標達成した地元のネクタイブランド「SHAKUNONE」のプロジェクト。ネクタイ縫製の下請けメーカーがオリジナルブランドを立ち上げた。全国の百貨店などの販路開拓に成功

ローカルでは継続性こそ「尖っている」


レプタイルのある津山の街並み。津山はかつての城下町で、岡山県北の交通・産業の要所だった

友光

おふたりの話からは地元への思いも強く感じます。ただ、そもそも津山で起業すること自体がきっと大変でしたよね?

白石

よく言われますね。創業当時、ベンチャー的な会社は津山になかったですし、今もないかな。県庁所在地の岡山市にも、多いわけではないです。

友光

そんななか、県北の津山で起業されたのはなぜだったんでしょう?

丸尾

地元だからですね。せっかく岡山に住むなら、もっといい場所にしたいよね、と。僕は東京で就職したあと、Uターンして津山の会社で営業の仕事をしていたんです。そこで同僚だった白石に「仕事が面白くない」と話していたら「じゃあ会社作ったら?」って言われたんですよ。

白石

私はそう言っただけで、一緒にやるつもりはなかったんですけどね(笑)。

丸尾

それで実際に会社を辞めて起業する話をしたら、白石も「じゃあ行くわ」と、本当に来てくれて。ただ、さっき半年間は売り上げゼロと言ったように、最初は予想以上に仕事がなかった。信用がないと何もできないんですよね。レプタイルの最初のオフィスは小さなアパートだったんですが、見栄を張って名刺の住所には「〜〜ビル」と書いたり、いろんな努力をして(笑)。でも「FAAVO岡山」を機にだんだん好転していった。事業面もそうですが、クラウドファンディングの認知が広まるにつれて、いろんなところでレプタイルにお声かけいただくことが増えたんです。会社も今の場所へ移転して、シェアオフィスとしてオープンしました。

友光

シェアオフィスもまだほとんど普及していない頃ですよね。ご近所の目はどうでした?

白石

すごく喜んでくれたんですよ。というのも、シェアオフィスのオープンをちょっとしたイベントみたいにして、「ご近所の人も見に来てください!」って招待したんです。実際にオフィスの中にも入ってもらうと、「ここに若い人が来るん? ええなー、ここらへんは若い者がみんな都会に出てっとるから」と受け入れてくれて、味方になってくれました。

友光

なるほど! 新しいものって「よく分からないもの」だと思われがちですが、根回しとコミュニケーションをして、ちゃんと説明するのが大事だと。

白石

クラウドファンディングもシェアオフィスも起業スクールも、どれもレプタイルが津山に持ってきました。初めは「何だろう?」って思われるけど、ちゃんと地に足をつけてやってるので、地元の人に応援してもらえるのかなあと。レプタイルは新しいことをやるけど、尖ってはないんですよ。

丸尾

うん。都会の起業家っぽい感じも苦手で、カッコつけるのが苦手というか……(笑)。

白石

「新しいことやります!」と、変に目立ちたくはなくて。私たちはどちらかというと、おばあちゃんおじいちゃんとかにも分かってほしいし、人に嫌われないように……って感じで(笑)。津山初の事業だから注目されるけど、ちゃんと地元の人にていねいに説明しますし。

友光

東京だと「尖ってる」ことが差別化の戦略になるけど、ローカルだと、むしろその逆が求められるのかもしれませんね。

白石

ローカルで新しいことをやってる時点ですでに尖ってるから、それ以上尖らせなくていいんですよ。東京の会社が普通にやってることを岡山でやるだけで、すっごく奇抜に思われるので。よく「レプタイルさんはいつも面白いことやってるよねー」と言われるんですけど、それが実は東京では普通のことだったりしますから。

友光

東京から新しい考えや手法をどんどん取り入れること自体には抵抗はない?

白石

はい、新しいものは好きなので。「東京では当たり前だけど、岡山では当たり前じゃないもの」を取り入れることが地域にとってプラスになるなら、情報はどんどん持って来ます。そういうポジションでもあるんだろうなと。

丸尾

そんな新しいものを尖らせずに、うまくやるのが「ローカライズ」なんだと思います。やっぱり、外から来たものへのアレルギーはあると思うので。

友光

「よそもの」への抵抗感というか。

白石

でも私たちは2人ともUターンしてきて、何年間か津山で働いたあとにレプタイルを立ち上げてるので、津山の人がどういう風に思うか?というのをわかっていて。軋轢を生まないように気を使っています。「まずはあの人に言ってからやったほうがええ」とか「あの人が『うん』って言わんかったらそれはできんで」とか「あの人は新しいもの好きだから、Iターンの人が来てもたぶん受け入れるよ」とか、新しく津山で何か始める人にはいろんな角度からアドバイスしてます。地元の情報だけじゃなくて「人」を分かってるのは大きいと思いますよ。

友光

なるほど。人を知るのが、ある意味ローカルにおけるマーケティングというか。

白石

外から来たものを馴染ませるためのワンクッションが必要なんだろうなと思います。ローカライズにおける通訳みたいなもので、だからこそ尖らないようにしてるんです。

丸尾

結局、ローカルにおいては、継続性こそが一番の「尖り」だと思います。事業として拡大させながら地域の魅力を発信し続けて、地域の課題やフラストレーションを解消する。それを継続的にやるのが、僕らのめざす「ローカルの事業家」像なんです。

構成:大島一貴

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書いた人 : 友光 だんご

BAMP編集長。1989年生まれ、岡山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。出版社勤務ののち、2017年3月より編集者/ライターとして独立。Huuuu所属。インタビューと犬とビールが好きです。

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