押入れの中のセンスに光を。色とりどりの靴下が紡ぐ価値のサイクル

亡くなった祖父は竹細工が好きで、遊びに行くと竹でできた鳥やカニがわらわらと家にあふれていた。

「好きなのを持っていけ」と祖父から行く度に勧められたが、10代の自分には魅力的に思えず、もらって帰ったのは最初だけ。あとはなんだかんだとお茶を濁し、勧めをかわすばかりだった。祖父亡き今、あの大量の竹細工は一体どこへいったのだろう。10年以上経って、手芸品の尊さに気づいた時には遅い。

そんな風に、誰に頼まれるでも、売るためでもなく、趣味としてつくられる手芸や手仕事の品は世の中にあふれている。

この写真の靴下もまた、ある80代の女性がひとり黙々と編み続けているもの。その数は100足を優に超えていた。そのまま何も起こらなければ、靴下たちはひっそりと消えてしまっていたかもしれない。

「こんな素敵な靴下が、誰にも履かれずに待っているのがもったいない」

そんな風に靴下に惚れ込んだ女性との出会いがなければ。

靴下を買い取り、英語で「おばあちゃん」を意味する「Nanny(ナニー)」という名のブランドを立ち上げたのは、おおくまあつみさん。

ピラティストレーナーとして活動するおおくまさんは、2018年からネットショップと委託販売で「おばあちゃんの靴下」を販売し始めた。


Nannyの靴下は1足3000円。すべて一点もので、ウールやコットンの毛糸を使い、色も柄もさまざまに手編みされている

「つくり手も売り手も無理をしないのが理想」というNannyのスタイルは、資本主義的な拡大志向とは真逆をいく。目的はたくさん売ることではなく、行き場をなくしていた靴下を使い手の元に届けること。

ネットショップとSNSの普及が叶えた、新しい循環の形を取材した。

思い切って買い取った、120足の靴下

Nannyの靴下を編んでいる「おばあちゃん」は、どんな方なんでしょう。

知人のお母さんで、今年で86歳の方です。ぼけ防止も兼ねた趣味で、毎日靴下を編まれていたんです。

去年の秋口に知人からその靴下のことを教えてもらって、1足購入したんですよ。そのときはショップで販売しようなんて思っていなくて、あくまで個人的に。

そうしたら、すっごく履き心地がよかったんですね。それまで履いていた市販品とは全く違っていて。

どんな風に違ったんですか?

太い毛糸でしっかり編まれているので、とても暖かいんです。肌触りも足にとても気持ちよく感じられて。それに何より、おばあちゃんがひとつひとつ心を込めた編んだ「温もり」みたいなものが感じられたんです。

これはもっと欲しいと思って、知人に「何足あるの?」と聞いたんです。そしたら「実はたくさんあって……」と。それで私、一気に60足を買い取っちゃったんです。

自分で履くには多すぎますよね。なぜそんなに…?

この素晴らしい靴下を、私のまわりの人にも履いてほしいと思ったんです。それも売るんじゃなくて、プレゼントしようと。

人にプレゼントするのがお好きだったとか?

いえ、人並みですよ。そんな規模は初めてでした。でも、なんだろう……やったことがないからこそ、自分がどんな気持ちになって、どんな結果が生まれるんだろう? と、すごくワクワクしたんですよね。

それで、ピラティス教室の生徒さんやお世話になってる人にプレゼントしてまわりました。

反応はどうでしたか?

喜んでいただきました。私が靴下から感じた温もりを、大切な人にも感じて欲しかったんですけど、それが通じた気がしましたね。

「よかったからもう1足ほしい」という方もいたので、もう60足ほど買い取って、身近な方向けに販売もしました。ただ、その時点ではショップもなにもなくて、手売りのレベルです。こんな風にブランドを立ち上げるなんて想像していませんでした。

何かアクションを起こさないと、靴下はそのままだったから

では、どうして今年になってショップを開くことになったんでしょう。

今年の秋口に、また知人に連絡をしてみたんです。すると、もう160足も編み終わってるって返事が返ってきて。

びっくりしたと同時に、これは困ったな、と思いました。そうプレゼントばかりもしてられないし、かといって何もアクションを起こさないと、靴下は編まれる一方。来年には300足とかになってるかもしれない。

そこで、私がショップをつくって、おばあちゃんの靴下を広げてみよう、と思ったんです。

知り合いのデニムブランドの方にも手伝っていただきながら、ブランド名とコンセプトを考え、今年の10月にネットショップを立ち上げました。実際に手にとってご覧いただける場所もほしくて、3箇所で委託販売もしていただいています。

こうしたショップ運営は初めてだったんですか?

はい。ただ、知り合いのネットショップを手伝ったことがあったので、流れは知っていたんです。

販売を始めてみると、去年プレゼントした方たちが「あの靴下、今年も手に入るのね!」と反応してくださって、自分用やプレゼント用として購入してくれました。

なるほど、すでにファンがある程度いる状態になっていたんですね。

すぐに売れたって言い方で合ってるかわかりませんけど、ユーザーさんはたくさんいたので、そこからの拡散はスムーズでした。

お互いに無理しない、ニュートラルな形を

おばあさんが今年も編み続けていたのは、またおおくまさんが買い取ってくれるだろう、という気持ちもあったのかな?と思ったのですが。

いえ、純粋に靴下を編むことが趣味なんだと思います。生きがいと言ってもいいかもしれません。時間があって、手を動かすのが楽しくて編まれている。

「また来年も買いますね」みたいな話もしていなかった?

はい。ショップを立ち上げてからも、生産ノルマとして「来年も100足編んでください」というような話もしていません。「こんな風に編んでください」とか、私からの要望はいっさい伝えないようにしています。

そうしないと、目的が変わってしまうように感じたんです。

目的が変わる、というと?

おばあちゃんは、ただつくるのが楽しくて靴下を編んでいたはず。でも、それが「売るため」に変わってしまうと、苦しくなっちゃうんじゃないかと。

私はNannyをやる上で、誰かが苦しくなってほしくなかったんです。編む人は楽しく編んでほしいし、私もいいものを届けるためだけにショップを運営したい。たくさんの靴下を売りたいわけじゃなかったんですよ。

本職は別にあるので、ショップで売上げを立てたいわけじゃないんです。

その人がその人らしくあったほうが、いろんな物事はスムーズに進むと思うんです。頑張ってつくったものは、頑張り続けないとその状態をキープできませんよね。プレッシャーを感じてしまうと、つくったものにも現れてしまうので。

だから、常にニュートラルな状態であろうと思っています。人間の体でも、頑張りすぎたり、疲れすぎたりしていないニュートラルな状態のほうが呼吸がしやすいですから。

それは、おおくまさんが仕事にされているピラティスと繋がるんでしょうか?

はい。例えば肩こりみたいに、体に力が入って疲労が溜まった部分は血流が悪くなります。その状態が続けば、痛みが現れる。それって仕事や人間関係でも同じなんですよ。プレッシャーやこだわりが強すぎるとやがて澱んで、良くない結果が起きてしまう。

だから私がいつもインストラクターとして伝えているのは、なるべく体も心もニュートラルな状態にしておくこと。滞りを感じたところに風を通して、楽にすること。

その状態を、Nannyでもつくっておきたかったんです。

世の中で埋もれていた価値に光を当てる

Nannyのやり方は、無理しないショップ運営といえますね。

「無理しない」形は、初期投資がほぼ必要ないネットショップだから実現したのかもしれません。SNSを使えば広告費もほとんどかかりませんから。昔ならショップを立ち上げるコストもかかっていたので、販売ノルマが発生して、おばあちゃんも私も無理しないといけなかったでしょうね。

なるほど。手編みの「おばあちゃんの靴下」に魅力が生まれているのも、ものがあふれた現代だからこそだと思います。

「本当に大切なものはなんだっけ?」と皆が立ち止まって、考え始めている時代ですよね。靴下でいうと、大量生産されたものではなく、家族のためにお母さんやおばあちゃんが編んでいたような毛糸の靴下の価値が再注目されていくのも自然じゃないかなと。

そういえば最近、別のおばあちゃんがつくっている毛糸の座布団に出合ったんです。

これもすごく暖かいですし、ペット用の座布団や赤ちゃんのおくるみにも使えます。Nannyの新商品として扱う予定です。

Nannyはこうした「おばあちゃんの手づくり品」を扱うブランドにしていくんですか?

いえ、特に考えていないです。座布団もたまたま出合っただけなので。「商品を増やしていこう」と思うのも、またショップをやる上で「無理をすること」に繋がっちゃいそうじゃないですか。

なるほど。ちなみに、つくり手の女性たちとはどんなやりとりを?

やりとりはご家族を通じてで、直接はほぼ会っていません。もちろん、こうして販売していることや、お客さんの反響はお伝えしていますよ。

というのも、靴下の編み手であるおばあちゃんは、とってもシャイな方なんです。注目いただくのは嬉しいですけど、表に出ることで編むのが楽しくなくなってしまうのは本当に嫌なので、あえて距離をおいています。もっと会いたいんですけどね。

誰かに使ってほしいけど、どこかに出品したり、販路を開拓したり、そこまではできない。そこに、たまたま私が出会った形なんだと思います。私のほうも、自分がつくったものではないので、いい意味で力を抜いておすすめできています。

もっと色んなところで真似できそうな形ですよね。世の中で埋もれてしまっていた価値に光を当てるような。

そうなったら嬉しいですね。私はこれからも、あくまで自然体で楽しみながらNannyを続けていきたいと思っています。

おわりに

あの頃、もしネットショップがあれば、規模はどうあれ祖父の竹細工も世に出ていたのかもしれない。おおくまさんの話を聞きながら、そんなことを考えていた。

誰に頼まれるでもなく生まれた手づくり品を「そのまま」の形で外へ届ける。ショップ運営のコストが限りなく低くなったからこそ実現した新しいつくり手と売り手の関係から、どのような価値が生まれていくのかとても興味深い。

身近に眠っている価値を、埋もれさせることなく必要とする人へ届けること。そんな実験の輪が広がっていけば、世の中はもっと面白くなるに違いない。

Nanny おばあちゃんの編みもの https://nanny.shopselect.net/
Nanny 公式instagram https://www.instagram.com/nanny_handknit/

☆12/23(日)〜25(火)、神奈川・平塚「オケラハウス」でのイベントにNannyが出店します!イベント詳細はこちらから。

区切り線

☆この記事が気に入ったら、polcaから支援してみませんか? 集まった金額は、皆さまからの応援の気持ちとしてライターへ還元させていただきます。
『押入れの中のセンスに光を。色とりどりの靴下が紡ぐ価値のサイクル』の記事を支援する(polca)

書いた人 : 友光 だんご

BAMP副編集長。1989年生まれ、岡山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。出版社勤務ののち、2017年3月より編集者/ライターとして独立。Huuuu所属。インタビューと犬とビールが好きです。

RANKING

ARTICLE