「カッコよくて儲かる仕事に」ライブ配信を駆使する革職人の広報戦略

東京・中目黒駅から歩くこと約10分。静かな住宅街の中に、1軒のレザークラフトアトリエがある。

ここは「アールアトリエ・ドゥ・トラバイユ」。革職人の小花亮介さんが2016年4月に立ち上げた店だ。

この店には三つの顔がある。一つ目は小花さんが手がけるレザー作品のショップ。二つ目は革のサンダルなどを手作りできるワークショップの教室。三つ目は会員制のレザークラフトアトリエ。

しかし、アールアトリエの特徴はそれだけではない。注目したいのは、ライブ配信を活用したその広報術だ。作り手である小花さんの人柄や作業の裏側を動画で包み隠さず見せることで、日本人だけでなく多くの外国人客の心を掴んでいる。

「ものを並べるだけでは売れない。誰が、どんな風に作ってるかで物を買う時代」と小花さんは語る。

Instagramからライブコマースまで、ネットを駆使したアールアトリエの広報戦略はいかにして生まれたのだろう? 小花さんに話を聞いた。

「会員制アトリエ」を作ったわけ

まずお店について教えてください。レザークラフトの会員制アトリエであり、ワークショップや販売も行うというのは珍しいのではないでしょうか。

はい、うちみたいな個人が利用できるアトリエはまだ少ないと思います。でも、需要はあるはずなんですよね。なぜならレザークラフトを趣味にした人の抱える悩みが「騒音」だから。

うるさいイメージはなかったですが。

革に縫い目の穴を開けるためにハンマーを使うんです。木工の釘打ちみたいな音がするので、集合住宅だと気を遣うレベルで。プロ用の機械も家にはなかなか置けないし、アトリエを作ったらみんな来るでしょ、とここを作りました。

革だけ別料金ですが、それ以外の糸や工具は会員なら自由に使えます。僕も横で作業してるので作り方も教えますし、「こんなの作りたい」みたいな相談にものります。これで会費は1回あたり3000円なので、お得だと思いますよ。

ただ、あんまり会員は増えなくていいんです。

そうなんですね。それはなぜ?

会員ビジネスで儲ける気はなくて。

利益を上げるためにはもっと人を詰め込まないといけませんが、そうなると好きな時間に使ってもらえなくなる。あくまでみんながのびのびと自由に使えるアトリエが理想なんです。だから、できればアトリエはこっそりやっていたい(笑)。

その代わり、宣伝に力を入れているのはワークショップの方ですね。革のサンダルを1日で作れるワークショップって、たぶん世界でうちしかやってないと思いますよ。


ワークショップの参加費は20000円前後。すべて手縫いでサンダルを手作りする。初心者の参加も多い

ニッチなところを攻めたんですが、これが当たりました。海外のお客さんも参加してくれますね。7時間かけて、わいわい話しながら作業するんです。

7時間!

参加者とは1回飲みに行ったくらいの仲の良さになりますね(笑)。ワークショップ参加者は一見さんが多いんですけど、そういう初めての人を掘り下げるのが面白くてハマってます。

「作りたい人」向けの場所を作りたかった

ワークショップも会員制アトリエも「買いたい人」というより「作りたい人」のためのように思えますが、そうした意図はありますか?

もちろん。それがアールアトリエを作る動機でしたから。

僕は独立前に革のメーカーにいて、作るだけじゃなくて営業も担当してたんです。お客さんと直接コミュニケーションをとったり、SNSを活用したりしてブランドのファン作りを頑張っていました。

売り上げも4倍くらいになったんですが、1着16万円もする革のジャケットを何着も買うお客さんたちを見てて「ちょっと待てよ」と思ったんです。

いくら好きといっても、高価な革製品を買い続けたらお金がなくなっちゃいますよね。その次に彼らはどうするだろう? というと、やっぱり自分で作りたくなるんじゃないかと。

なるほど。そこで「作りたい人」向けの店を作れば、需要があるはずだと。

はい。あとは僕自身、趣味でレザークラフトを始めた人間なんです。革の財布が欲しかったんですけど、高くて手が出ない。じゃあ自分で作ろうというのが始まりでした。ばあちゃんがレザークラフトの道具を持ってたので、それを借りて。

で、20歳くらいでレザークラフトを始めて、普通に就職もしたんですけど、やっぱり好きなことに挑戦したくて革のメーカーに入りました。だからアールアトリエのコンセプトは「趣味として長く続けられるレザークラフトの面白さを伝えたい」。

レザークラフトをやる人を応援するために、素材の革の販売も行なっています。一般の人が気軽に買える場所ってまだまだ少ないので、ネットショップの方でも革は意外と人気の商品ですね。

韓国ではレザークラフトが大ブーム

「作りたい人」の話でいうと、韓国で3年くらい前からレザークラフトのブームが起きてるんです。うちくらいの規模のレザーアトリエが、ソウルだけで300店舗くらいありますよ。

300ですか?

すごいですよね。アトリエ数は日本よりはるかに多いです。

韓国で起きているのは、ハイブランドと同じデザインのバッグを自分用に作ろう、というブームです。ブランド品を買う時代が終わって、自分で作ることを楽しむ流れが来ているように感じますね。

その背景には、ネットの普及があると思います。YouTubeを見れば作り方の動画があるし、材料もネットで買える。型紙さえ手に入れば、同じ革と糸を使ってハイブランドのバッグが作れちゃう。

だから韓国ではまず自分用に作り始めて、上達したらアトリエを開いて人に教える、みたいな流れになっています。

日本の場合はどうなんでしょう。

韓国は開業志向ですけど、日本は趣味から始めて、ネットでお小遣い稼ぎ的に販売する人が多いですかね。

「minne(ミンネ)」や「Creema(クリーマ)」のようなハンドメイドマーケットのサービスも増えましたし、ネットショップも作りやすくなってますから。

主婦の人が趣味で作ったアイテムを売って人気が出て…みたいな話も聞きますよね。ホームページを立ち上げて作家活動を始めるような。

いや、今はそこの流れが変化してて。わざわざホームページを作る人が減ってるんです。

そうなんですか!

うちもホームページはありますが、更新頻度は相当落ちています。ホームページがなくても、Instagramとネットショップの組み合わせで事足りるようになったんですよ。

うちの場合、Instagramでブランドのフォロワーを増やして、販売にはネットショップ作成サービス「BASE」を利用しています。クラフト界隈で同じ組み合わせの人は多いですよ。

ホームページって、いわばネット上のカタログですよね。プロフィールがあり、商品のラインナップがあり、各商品のページに詳しい説明があり。でも、その情報って、今やBASEのショップページで全部見せられるんですよ。おまけに同じBASEのページで商品を買えちゃう。

もはやホームページの意味がなくなりつつある…。

そう思います。やる意味があるとしたら、海外の人向けに外国語対応してるとか、それくらいじゃないですかね。

では、店の情報を伝える場所としてはSNSが重要になってくるのでしょうか。

ええ。メインのSNSはInstagramです。Facebookも一応使っていますが、拡散力としては今や圧倒的にInstagramが上ですね。国内だけではなく海外の人とも手軽に繋がれるツールとして、Instagramはとても役に立っています。

売り方/ライブ配信の最前線


アールアトリエで使う革は、すべて小花さんの地元・栃木にある会社「栃木レザー」製

アールアトリエでは、Instagramのライブ配信機能もよく利用されているんですよね。

そうですね。ライブ配信機能が始まったのは、Facebookの方が先だったんですよ。だから、最初はFacebookで配信をしていたんです。ただ、毎週欠かさず配信しても、視聴者は1回に10〜20人くらい。なぜやっているのかわからなかったんですが、その意味を見つけるために意地で配信を続けてました(笑)。

そしたら、Instagramでもライブ配信が始まったんです。そちらで配信してみたら反応が段違い。それ以来、配信はInstagramをメインで、BASEのライブ配信機能「BASEライブ」と併用しています。


2017年9月にスタートしたBASEによるライブ配信機能「BASEライブ」。2017年はCandeeやメルカリなどもライブ機能を導入し、日本におけるライブコマース元年となった

Instagramでは、夜10時から深夜の2時3時頃まで、僕の作業風景をずっと配信してるんです。すると、時間とともに視聴者の国籍がどんどん変わっていくんですよ。

最初は日本が多くて、次はタイやイランのようなアジア系に。2時ごろになると急にロシア人が増えます。そのあとにアメリカが朝になってロサンゼルスあたりから「おはよう」って言ってきて「こっちは深夜だよ!」とかね。面白いですよ。

時差とともに変わっていくわけですね。

最初は疑いましたけどね。なんでInstagramのフォロワーにこんなに外国人が多いんだ? 業者のアカウントじゃねえか?って(笑)。

その理由を調べてみると、さっきの韓国のブームを筆頭に、海外にもレザークラフトのファンがいることがわかって。Instagramという場所が今、国境は関係なしに趣味や関心でどんどん繋がれるようになってるんですね。


アールアトリエのInstagramより

そうやって繋がった海外のファンたちの中には、店に来てワークショップに参加したり、アイテムを買ってくれる人も多いんです。

日本人のInstagramを見る人って、何かしら日本に所縁がある場合が多いんですね。日本企業の現地法人で働いてたり、親類が日本にいたり。だから何かしら日本に来る機会があって、そのタイミングでうちの店に来てくれるんですよ。

今は「誰がどんな風に作ってるか」でものを買う時代


アールアトリエではフルオーダーメイドの注文にも対応している

BASEライブは「ライブコマース」、つまり動画を利用した商品の販売なんですが、僕としては売るのが一番の目的じゃなくて。「誰がどんな風に作ってるか」を伝えたいんです。だから、InstagramでもBASEライブでも、作業風景やどんな道具を使ってるかをひたすら見せます。

もはや、ものをただ並べても売れる時代じゃないと思うんですよね。

そう思うようになったのはいつからなんでしょう。

前の会社にいた頃からですかね。10万円超えのレザージャケットって競合が何社もあって、横並びにした時に「誰が、どんな風に作ってるか」を伝えなきゃ売れないんです。

例えば職人や、社長本人がディテールやこだわりについて語る写真や動画を見せると反応がよくて。「この人から買いたい!」くらいにならないとダメなんだって気づきました。

その点、自身のファンを作ることも意識されていますか?

どうでしょうね、ヒゲはもう剃れなくなっちゃいましたけど。近所の小学生にも「ヒゲ」って呼ばれてるくらいなんで(笑)。

ただ、そんな風に自分のトレードマークがあるっていうのは大きいです。ライブ配信を見たお客さんにも「ヒゲの人」で覚えてもらってるので、ワークショップ初参加でも、人見知りせずにスッと入ってきてくれるんです。店に来る前から顔や人柄を知ってもらえるのは、配信のメリットだと思いますね。

とはいえ、配信に関して言うと、日本はまだまだこれからだと思います。ライブコマースの文化もまだまだ使い手が少ないし、ユーザー側も慣れてない。もっと人が増えれば面白くなるんじゃないでしょうか。

ハードは整ってきたので、あとは使う人次第かもしれませんね。最後の質問になりますが、この先、アールアトリエはどんな展開を考えてるんでしょうか?

今の商売のまま続けるつもりはなくて。ここを旗艦店に、業界の裾野を広げる「教育」の活動をしたいんです。

というのも、カッコよくてちゃんと稼いでいるレザー職人はいるんですが、その存在は世間に知られていない。業界の裾野を広げるためには、そういうすごい職人がいることを世の中にもっと伝えていかなくちゃいけないと思うんですよ。

レザークラフトの魅力を広めていくことで、いつか中学や高校に「レザークラフト部」ができたら最高ですね。

区切り線

ネットの登場により、ものづくりへチャレンジするハードルは大きく下がった。初心者でも気軽に手作りを始め、その完成品を販売できる。

しかし、誰でも参入できるということは消費者側の選択肢が増え、その先の「売る」ことのハードルが上がったことも意味している。いくらプロの素晴らしい技術で作られた製品でも、そのこだわりを伝えられなければ消費者に選ばれることは難しい。

いかに自らの思いとこだわりを知ってもらうか。そして消費者に選んでもらうか。「伝える」姿勢は、これから来るかもしれないライブコマースの時代においてますます重要なものになるはずだ。

店データ
  • アールアトリエ
  • 職人の小花亮介によるレザークラフトショップ。人気のレザーサンダルをはじめ、レザーバッグや革小物などを販売する。

書いた人 : 友光 だんご

BAMP副編集長。1989年生まれ、岡山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。出版社勤務ののち、2017年3月より編集者/ライターとして独立。Huuuu所属。インタビューと犬とビールが好きです。

写真 : なかむらしんたろう

デザイン会社でアプリやWeb中心のディレクターをしながら、メディアで写真撮らせてもらっています。素直なポートレートがすきです。「ぐる娘」の中の人のひとり。年中呑んでいます。
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