「評価経済とシェアの先をどう越えるのか?」対談・家入一真×徳谷柿次郎

【後編】BAMP1周年記念企画

2018年5月30日で一周年を迎えたウェブマガジン「BAMP」。一周年を記念して、BAMPの発起人・家入一真とBAMP編集長・徳谷柿次郎による対談の後編をお送りします。

柿次郎が長野市に仲間と作り、6月にオープン予定のリアル店舗「やってこ!シンカイ」。そこへ突然やって来た家入と、店主の柿次郎が「やってこ!シンカイ」を通じて実現したいこと、そしてこれからの社会について語り合います。

【前編】「メディアと農業は似ていて、3年で良い土になる」対談・家入一真×徳谷柿次郎

「WEB」と「リアル」が絡み合う「やってこ!シンカイ」という総合メディア


写真左:家入一真、写真右:徳谷柿次郎

家入

対談の前編で「BAMPの編集長は柿次郎くんしか思いつかなかった」って話をしたけど、数年前ならまた違ったと思うんです。「ジモコロ」が始まるまでは柿次郎くんに対して、前職の「バーグハンバーグバーグ」に所属するライターのひとりというイメージしかなくて、地方や地域って文脈は全く感じなかったから。

柿次郎

ジモコロ以前の僕は、パソコンの前にずっといましたからね(笑)。

家入

ただ、ジモコロが始まってから「全国を飛び回ってるなあ」とか「ジモコロで面白い記事が定期的に上がってるなあ」と、柿次郎くんの印象が徐々に変わってきて。それに、僕が行った日本の先々で名前を聞くことも増えてきて、地方=柿次郎のイメージが付いてきたんです。つまり、柿次郎くんは置かれた場所で変わっていくことを繰り返して、今ここに行きついているんだよね。少しずつ見える景色が変わるなかで、自分の生き方や考え方も変わっていくのを体現している人だなと。

柿次郎

本当に、地方に行くようになって人生が変わりましたね。

家入

しかもそれが普通の人より早いサイクルで回っている。今年は長野市で「やってこ!シンカイ」ってお店まで始めちゃったわけじゃない。この先の1年、どうしたいのかは気になるね。


長野市・善光寺前にある「やってこ!シンカイ」。現在はプレオープン中。月額会員制で運営する「お店2.0」をコンセプトに掲げている

柿次郎

「やってこ!シンカイ」は「CAMPFIRE」 でクラウドファンディングを立ち上げて、公開12時間で目標の100万円を達成したんですよ。予想以上の早さだったので、すごくびっくりして。結局、そこでプロジェクトに支援してくれたのは、僕が地方で出会って、ちゃんと向き合って話した人がほとんどなんですよ。もちろん会ったことない人もいますけどね。それと、なぜお店を始めたかというと、実のところ、 WEBの情報をただ扱うことに飽きてきたからなんです。BAMPで言うのもどうかと思いますけど(笑)。もちろん世の中でWEBメディアの需要が高まっているのは実感してますし、僕なりに、さらにメディアの価値を上げるやり方はあると思います。だけど、これまでと同じことばかり続けていると、モチベーションを保つのが無理だなと思ったんです。

家入

なるほどね。そもそもは1年前に、長野と東京の二拠点生活を始めてるじゃない。

柿次郎

ええ。でもせっかく長野に家を借りたのに、この1年間、長野の仕事を何もやってなかったんですよね。すると、このままだと長野にいる意味もないし、本当の意味で長野の人たちの土俵に上がれないと思い始めたんです。というのも、自分で店をやってたり、生業があったり、とにかく自分で手を動かしている人が長野にはすごく多い。そういう人ばかり取材してるのに、自分はいつまでパソコンを触ってるんだろう?という違和感がずっとあったんですよね。

家入

それで店をやろうと思ったんだ。

柿次郎

この店が回るようになれば、WEBメディアの方も面白くなると思っています。東京と長野を行き来して、自分のエネルギーを貯めて、さらに地方に行って。ジモコロとBAMPの振り子だけじゃなく、今度はWEBとリアルな場所を振り子みたいに動いていく。その方がより早く、より強く動けるってことを体現する一年にしたいです。あとは、ジモコロとBAMPを通じて全国で出会った面白い人たちを、長野に連れてきたいんですよね。

家入

僕が今日、長野に来たのも、店があるからっていうのは大きいね。

柿次郎

急に「これから長野行く!」って連絡が来た時は驚きましたよ(笑)。でも、家入さんがこうして来てくれたのが、まさに僕にとってやりたかったことなんです。「店でイベントをさせてほしい」って話も来てますし、特に若者にどんどんこの場所を使ってほしいんです。若者には料理でも、写真でも、ライティングでも、得意な何かを提供してもらう。その代わりに僕たちは場所を提供して、Webを通じて宣伝してあげる。そういう「リアルなメディアの編集」を、この店でやっていきたくて。1年間やりきることができれば、より強い場所になると思います。

月額支援制というクラウドファンディングの相似形

家入

「やってこ!シンカイ」のフォーマットって、今後、例えば違う地域で展開していくこともあるんですか?

柿次郎

僕自身というより、色んな人がやってくれたらいいかなと思ってます。その時は「やってこ!」って名前を付けなくてもいいですし、実際に「同じようにやりたい」って反響もあるんです。興味のある人には実際に遊びに来てもらって、やり方をアドバイスできたらと。「やってこ!シンカイ」を始めるにあたって「お店2.0」なんて仰々しい言い方をしてますけど、要するに「定額制でお店を回せるのか?」という実験なんです。

小売業の利益を求めない!新しい価値観『お店2.0』を始めます(『Huuuu inc. blog』)

家入

月額課金のシステムで店をやるんだよね。

柿次郎

はい。というのも小売の利益に依存しないで、好きな人や物が集まる場を作りたいんです。月5000円を出してくれるファンが40人いれば、月に20万円の収益が出ますよね。その20万円で利益が出ていれば、その分、お客さんにサービスとして還元できます。そんな風にお金の価値観を変えていく挑戦をしたいんですよね。これは東京よりも長野のローカルでやった方が面白いし、ニュース性もあると思ってます。

家入

実際、世界中でそういう月額支援の流れが生まれてきているんですよね。日本では「pixiv FAN BOX」や「SUZURI People」のようなクリエイターを月額で支援できるプラットフォームが生まれているし、CAMPFIREにもファンクラブの仕組みがあります。海外でも同じような流れが生まれていて、「PATREON」っていうクリエイター系の月額支援サービスが伸びてるんですよ。

柿次郎

そうなんですね!海外でも。

家入

一定期間で支援金を募る既存のクラウドファンディングは、短期で熱量を集めるにはすごく最適です。だけど、ずっと続けていく活動を考えると、足りない部分もある。応援してくれる多くの人から、毎月小さな金額を少しずついただいてやっていく方が、活動を持続させやすいんですよ。実際、PATREONの利用者にはゲーム制作者や絵師やいろんな人たちがいますが、彼らは別にPATREONだけで生活できなくていい。なぜかというと、彼らの多くは創作活動だけで食えているわけではなくて、生活のための仕事や本業が別にある。だからPATREONで月1万円でも収入が増えて、仕事のシフトを一つ減らせたり、生活費を得られたりするのは大きな足しになりますから。

柿次郎

世の中的には、月額支援制の方に流れているんでしょうか?

家入

海外でも日本でも、定着し始めているんじゃないかな。月額支援の仕組みは、持続的に応援してもらいながら活動を広げていける、優秀なプラットフォームになりうるんじゃないかと思います。

柿次郎

ではCAMPFIREのファンクラブの仕組みも、さらに変化していくんですか?

家入

僕は既存のクラウドファンディングが最適解だとは思っていません。やっぱりまだまだ支援へのハードルが高いので、そのハードルを下げるために「polca」(※1)というサービスを作りました。

※1 polca…身近な友人や知人からお金を集め、企画を実現するためのアプリ。クラウドファンディングと異なり、URLを知っている人のみが企画を閲覧・支援できる。

家入

クラウドファンディング自体はもちろん好きですよ。だけど、声を上げる人たちのために何ができるのかを考えていくと、今の形が最適ではないなと思っています。具体的な形はまだ見えないですけど、短期間でまとめて集めることと、少額で持続的に集めることがもっと繋がっていくのかなと。

柿次郎

polcaといえば、知り合いでライターの永井勇成さんの話があって。彼は突然、難病を患って仕事ができなくなったんですが、polcaで支援を募ると本人の想定以上の金額が集まったんです。

【ご支援感謝】難病にかかったけどインターネットは愛で溢れていた(永井勇成さんのブログ)

柿次郎

僕もその時にいくらか入れたんですけど、お金を入れることによって、自分も気持ちよくなることができるpolcaの仕組みはすごいなと思って。アプリのインターフェイスもよくできていて、支援金額をプラスするときも気持ちいいんです。あとは単純に、こんなに金額が集まるんだという驚きもありました。自分が交通事故とかで働けない状況になったとしても、もしかしたら2ヶ月くらいなら生きていけるかもなと。だからBAMPでも、polcaで支援を募った結果、すごく助かったという人たちに取材してみたいんです。世の中の新しいサービスや、家入さんがこれから作るものに合わせて、メディア側も新しい声を拾っていくのは大事じゃないかと思います。

家入

僕はネットサービスを黎明期から見てますけど、記事や人に対してチップを投げるサービスってなかなか浸透しなかったんです。だけど、ようやく今がその時期かなという感じがしています。それこそBAMPの記事を読んで面白いと思ったら、polcaで記事に対する投げ銭ができるっていう仕組みを作るとか。それでライターにそのままお金が行くようになると面白いですよね。

柿次郎

めっちゃいいですね!「この記事が良かったから払いたい!」って読者からのお金が入ったら、ライターのモチベーションにも、活動にもめちゃくちゃいい影響が出ると思います。BAMPが一番実現しやすいかもしれないですね。絶対やった方がいいですよ。

家入

やりましょう!

※対談の収録後、こちらの記事からBAMP×polcaの仕組みを試験的に導入しています!

来たるべき評価経済社会の中でどう振る舞うべきなのか

家入

最近、「ランキング」があまり好きじゃないんです。WEBサービスの相談にのることも多いんですけど、みんなトップページにすぐ「新着」と「ランキング」を乗せちゃうんですよ。そこにちゃんと本質的な意味があればいいんだけど、「とりあえず」で載せて思考停止してしまってるケースが多くて。

家入

C to Cのマッチングプラットフォームや誰かを応援したいものって、本来は従来の「大きな経済圏」、つまりもともと有名な人がさらに有名になることに対してのアンチテーゼのはず。個々人が応援されるためのものなのに、ランキングの仕組みを入れてしまうとバイアスがかかって、結局「できる人がさらに上に上がっていく」仕組みになってしまう。多様な出会いを提供しようとしてるはずなのに、ランキングを入れることで一元的な出会いしか生み出せなくなってしまうんですよ。

柿次郎

いわゆる「評価経済」(※3)に近づくんですね。

※3 評価経済…貨幣経済における「お金」ではなく、「評価」を仲介にしてモノやサービスが交換されること。

家入

そうですね。評価経済自体は、昔から「贈与経済」のように言葉は違えど近い概念みたいなものはありました。それがここ数年、ブロックチェーンやフィンテックの到来で、より騒がれるようになってきている。でも、どんな物事も負の側面はありますから、単純に「評価経済の素晴らしい時代がやってくる!」と考えてしまうのは違うと思います。僕が反・評価経済なわけではなくて、重要なのは「その中で自分たちはどう振る舞うべきか」に自覚的であること。そして、自問自答し続けることなんです。

柿次郎

すでにある程度フォロワーを持ってる人たちが、自分に対する評価をマネタイズする仕組みになっちゃうと、大半の人からは縁遠くなってしまいますもんね。

家入

今まで無名だった人が「タイムバンク」や「VALU」で資金やフォロワーを得て有名になることもあるでしょうから、有名人だけが儲けていると言い切るつもりはないです。ただ、そうなりかねない流れは感じていて。

家入

評価経済の本質はおそらく評価をお金に変えることではなく、「評価を評価で支え合う」みたいなことだと思うんです。単純にフォロワー数をお金に変えるのとはちょっと違う。

柿次郎

評価経済でいうと、NETFLIXの番組『ブラック・ミラー』で「ランク社会」の回が面白かったんです。SNSでの評価ポイントで人々のランクが決まってしまう話で、いい挨拶をすると、ランクが上がっていいサービスが受けられる。だけど、ちょっと失敗してランクが下がると飛行機に乗れない、とか。

家入

僕も見ましたが、面白かったね。評価経済に限らず、このままSNSが広がり続ければ、そのうちあんな世界になっていくんだろうなと。たとえば、中国の「Mobike」というシェアサイクルサービスがすでに似たようなことになっています。所定の位置に止めないと評価が下がるし、逆に誰かが違うところに止めたものを戻すと評価が上がるって仕組みがある。

柿次郎

へえー! 現実世界での徳がポイントに反映されちゃうんですね。未来感がすごい。

家入

その仕組みでみんなルールを守ろうとするのは面白いと思います。ただ一方で、それがエスカレートすると「赤信号を渡ったからマイナス1点」みたいになっていく。そうやってペナルティを課されることで「いい人でなければいけない」という同調圧力の働く世界になっていくのかなと。まさに『ブラック・ミラー』の世界だよね。

柿次郎

性悪説ですね。「やってこ!シンカイ」は基本、性善説でやりたいですし、評価経済が性善説を無視して、全てを数値化しちゃうと生きづらくなると思ってます。

家入

僕は最終的にテクノロジーは人が幸せになるためにあるものだと思ってますし、そう信じてます。だけど、大きな流れとして評価経済が支配する未来がやってくるとするなら、そのなかで僕たちがどう振る舞っていくべきか、問い続けることしかないとは思ってます。

あらゆるものがシェアされた先に何が見えるのか

柿次郎

実は最近、「シェアのその先」というテーマでいろいろ考えているんです。ひとつはBAMPの記事がシェアされて、取材された人が幸せになったり、逆に話題になりすぎて困ってしまったという単純な話。もうひとつは、みんなが同じリソースやノウハウをシェアしすぎた結果、これから先、同じようなものばかりが生まれていくんじゃないかなと。この記事の写真を撮っている「鶴と亀」の小林直博くんとよく話すのが、「大事なものは、自分たちでオリジナルを持っておかないといけない」ってことなんです。シェアしすぎると目立てなくなって、生きてることがつまらなくなるんじゃないかって危機感があって。

家入

それは面白いですね。確かに、シェアによって様々なものがおすそわけされ続けた結果、すべてがフラットになる未来がある。それは素晴らしいことだけれど、やっぱり負の側面もある。例えば中国がグレートファイアウォール(※2)で情報を遮断してたのは、一つの生存戦略として間違っていなかったというのが、今になってみるとわかるんです。ガラパゴス化して独自進化を遂げたからこそ、中国ならではの強いサービスや企業が生まれてますから。日本でも、もしかしたら「amazon」のような海外の強いネットサービスを遮断しておけば、日本から独自のサービスが生まれて、世界でも戦えるものになったかもしれない。フラットになることと、その弊害みたいなものに、みんながようやく気づき始めた感じがしてますね。

※2 グレートファイアウォール…中国政府に不都合な情報を遮断するためのネット検閲システム

家入

だから「フラット」な世界に対抗するためには、小さいけど外に漏れない熱狂的なコミュニティをどう作っていけるか。拡散ではなくて「滲み出ていく」みたいなものが大事なんだよね。

柿次郎

なるほど。僕の最近の口癖で、店名にもしちゃった「やってこ!」は、一つは「鼓舞」なんです。自分もやるし、一緒にやろうなっていう意味合い。要は実践主義ですね。さっきの圧力釜的な話で言うと「やってこ!」という熱狂が滲み出て、勝手に人が集まってくる。

家入

僕もよく言っている「共犯者を作る」みたいな発想に近いですよね。

柿次郎

そうですね。それが僕なりの「やってこ!」っていう言葉。僕らは勝手にやってるから来てみなよ、っていう。

家入

僕もよく遊びに行く熊本の「サイハテ村」(※4)のテーマは「お好きにどうぞ」なんですよ。やって来て泊まるだけでもいいし、滞在して、そこを起点に何かの開発を始めるのもいい。基本的には「お好きにどうぞ」っていうスタンスでやっている。その点は「やってこ!シンカイ」とすごく近いものを感じました。

※4 サイハテ村…パーマカルチャーなどの思想をベースに、持続可能かつ新しいライフスタイルを実践するコミュニティ

柿次郎

そうなんですよ。すごく似ている。ただ「お好きにどうぞ」って、「自分のことは自分でやる」ってことだと思うんですよね。スキルがあればここでやっていいですよっていう、ある意味アウトドアとかキャンプとかの精神と一緒なんですよ。どちらかというと「やってこ!シンカイ」は教育機関みたいなもの。ちゃんと場所も用意して、ノウハウとかアイデアも与えて、自分でも考えさせてっていう教育的な側面をこの場では再現したくて。

家入

つまり、より「開いてる」な場なのかな。

柿次郎

そうですね! いつでも開いてるし、来た人には誰にでも「具体的にこんなことやったら? てか、やってこ!」って伝える。そこから丁寧に畑につれて行くとか、スナックのイベントを開催してママとして振舞ってもらうみたいなこともやりたいなと思ってます。広く開いてるんだけど、閉じてる状態の価値も両方持ちたい。つまり欲張りなんです(笑)。「やってこ!」にピンとこない人もいると思います。だけど、僕自身は今持っているすべてを賭けて取り組みますし、やる気があるやつを応援したい。そういう強いプレイヤーが増えないと、熱狂は広がらないと思うんです。

☆やってこ!シンカイ のクラウドファンディングは6/8まで実施中。支援はこちらから!

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書いた人 : しんたく

文章を書いたり、映像を作ったりしています。新宿・「歌舞伎町ブックセンター」に書店員としても在籍。現在は東京と長野を行ったり来たり。気がつくと青い服ばかり買っているけど、広島東洋カープがすき。

写真 : 小林 直博

長野県奥信濃発のフリーペーパー『鶴と亀』で編集者兼フォトグラファーをやっている。1991年生まれ。ばあちゃん子。生まれ育った長野県飯山市を拠点に、奥信濃らしい生き方を目指し活動中。

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