「メディアと農業は似ていて、3年で良い土になる」対談・家入一真×徳谷柿次郎

【前編】BAMP1周年記念企画

「小さな声を届ける」をテーマに様々な記事をお届けしてきたウェブマガジン「BAMP」は、2018年5月30日で一周年を迎えました。

今回は一周年を記念して、BAMPの発起人・家入一真とBAMP編集長・徳谷柿次郎による対談を前後編に分けてお送りします。

前編ではBAMPを1年続けることで見えてきたもの、そしてこれからのBAMPについて二人が語り合います。

【後編】「評価経済とシェアの先をどう越えるのか?」対談・家入一真×徳谷柿次郎

BAMPを1年やって見えてきたもの


写真左:家入一真、写真右:徳谷柿次郎。柿次郎が長野市に作ったリアル店舗「やってこ!シンカイ」(プレオープン中)にて対談は収録された

柿次郎

おかげさまでBAMPが1周年を迎えました。これまで80本近くの記事を作りましたが、一番話題になったのがフリーランス保険の記事ですね。あとは歌舞伎町の二ュクス薬局の記事もすごく反響がありました。


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柿次郎

家入さんとしては、BAMPを1年間見てきてどうでしたか?

家入

「小さな声を届ける」メディアとして、すごくいい記事を作ってくれていますよね。BAMPを始める前から、地域ですごく面白い動きが起きているなと思っていたんです。BAMPにはEコマース・プラットフォーム「BASE」とクラウドファンディング・プラットフォーム「CAMPFIRE」という僕の関わる2社が出資していますが、ある時期から、どちらも地域への取り組みを始めたんですね。そのなかで日本中を回っていると、いろんな声をもらったんです。「BASEを使わせてもらってます」とか「ここの古民家、CAMPFIREで改装したんですよ」とか。

家入

僕も目立つショップやプロジェクトは追っていますが、すべてを見られているわけではありません。だから、そうした地域での出会いを通じて気づくことは多くて。最近、僕は「小さな経済圏」って言葉をよく使うんです。それは個を中心とした、小さいけど熱狂的なコミュニティやファンを作って、その中で小さく経済を回して支え合って生きていくモデルのことです。決して大きな経済圏ではないけど、徐々に増えてきているし、むしろ地域だからこそできることはたくさんある。そのことを、BAMPの記事を通じてもっと知ってほしいと思っています。

柿次郎

小さな経済圏は、僕も地域を回るなかで色んなところで感じています。

家入

BASEやCAMPFIREはプラットフォームだけど、同時にロールモデルを作っていると思うんです。この人は長野でこういう生き方をしているとか、この人は就職して一度挫折したけど、今は鳥取でこんな風に幸せに生きている、とか。そんなロールモデルを知ってもらうことで、自分にも何かできるかもしれないと思ってもらえたら嬉しいですね。

柿次郎

BAMPの記事が読者の皆さんにとって、何かきっかけになると嬉しいですね。ひとつひとつのロールモデルは「小さな声」かもしれませんが、それを拾い上げて届け続けることには意義があると思ってます。

家入

そうですね。そんな風に「小さな声に光を当てる」メディアをやりたいと思ったときに、やれる人が柿次郎くんしか思いつかなかった。ただ当時から柿次郎くんは『ジモコロ』の編集長をしていたので、どうかなと。

柿次郎

初期の家入さんは「ジモコロを辞めて、BAMP一本にしてくれよ」と言ってましたね(笑)。

家入

我ながら、なかなか強引なことを言ってたね(笑)。

柿次郎

だけど、結果としてBAMPとジモコロの両軸があることで、いろんな人に仕事の機会を与えられているのをすごく実感しています。特に僕のアシスタントの友光だんごさん(BAMP副編集長)がBAMPに関わるようになって、すごく成長している。もちろんBAMPに関わってくれている他の人たちも。今のWeb業界で頑張っているライターの皆さんの多くは、しっかりした赤字の戻しや原稿への指摘を受ける機会が少ないんです。それは業界としての問題でもあって。BAMPはその点も意識して記事を作っているので、ライターの皆さんの成長ということを考えても、すごくいい結果が生まれていると思っています。ここからどれだけ外に広げていけるかが、2年目の課題かもしれないですね。

家入

BAMPは、CAMPFIREとBASEが運営費を出してるじゃないですか。だけど、そこに縛られ過ぎないほうがいいと感じていますね。当然、会社としてお金を出してる以上は、BASEのショップやCAMPFIREのプロジェクトは取り上げてほしい。でも個人的には、そういう枠から取り払われた方が、もっとメディアの意味が出るのかなと。そこは今後、少しずつ広げていけたらいいかなと思っています。

柿次郎

僕が面白かったのが、BASEとCAMPFIREで利用者のタイプが全然違うことですね。CAMPFIREのネタって利用者の熱量が高いんですよ。隔月で行うクラウドファンディングで、新作を完全受注生産で作っているアパレルブランド「ALL YOURS」の木村昌史さんだったり、パンク精神で介護をするNPO法人「Ubdobe(ウブドべ)」の岡勇樹さんだったり。彼らは積極的に人に何かを伝えたいという思いがある。


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柿次郎

逆にBASEの利用者の方は、いいものを作りたいという内的な欲求が強い印象があります。近い思想である二つのサービスですが、それぞれ利用者さんの特性に違いがあるのが面白い。CAMPFIREの場合は取材の時にはじめから言語化できてる人が多い印象です。

家入

クラウドファンディングは「皆に自分の思いを知ってほしい!」というところからスタートしますからね。

柿次郎

BASEの場合は、子どもやおばあちゃんの話が面白いと感じています。例えば、お母さんが子どもに新しいお金の価値観を教えるため、子ども自身に稼がせることに挑戦してる「おえかきおみせ」とか。若い子がおばあちゃんに「ECサイトで売ることができるよ」と伝えてBASEを利用する事例もありました。そうすると、ショップを通じておばあちゃんたちの元々持ってた思いも表面化してくるんですよね。


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家入

どちらかというと、BASEはインフラ寄りなのかもしれません。もともとショップやものづくりの活動をしていて、その延長線上でBASEでネットショップを始めました、みたいな。

柿次郎

そうかもしれませんね。実は初期の頃、CAMPFIREとBASEに縛られてる感覚が正直あったんです。ただ、そのうちにBASEとCAMPFIREがあるからこそ生まれた企画もあるし、取材できた人もいることに気づいて面白くなってきました。BASEの枠も聞き手次第でもっと利用者の思いや熱を引き出せると思うので、さらに面白い見せ方を工夫していきたいです。

メディアは3年で「土」のようになる

柿次郎

これから先のBAMPを考えると、メディアの価値の出し方やPV数という資本主義的な壁にぶつかったときに、どうメディアを維持するかが課題のひとつだと思います。僕は仮にCAMPFIREとBASEがお金を出さなくなったとしても、BAMPは続けるべきだと思うんです。

家入

まあ、いつ何が起きるかわからない世の中だからね……(笑)。

柿次郎

(笑)。せっかくこうして小さな声を拾う仕組みができたので、もしも僕がいなくなったとしても、BAMPは続けられるようにしたい。5年、10年と続けることがメディアの価値だと思ってます。

家入

ちなみにジモコロは今、何年目ですか?

柿次郎

今年で4年目です。この3年で相当変わりましたけどね。メディアって、3年やると「土」みたいになるんですよ。1年目は強い農家(ライター)が「俺のトマトうまいやろ!」ってガンガン面白い記事を書いて、いい「種」をまいてくれた。でも、彼らは忙しいので、次第にジモコロでは書けなくなる。そこで今度は知名度はそれほどだけれど、コツコツ頑張ってくれる若手ライターたちと記事を作るようになりました。すると、だんだんジモコロでしか収穫できない野菜(記事)がわかってきたんです。3年目でようやく成果が見えてくるのは、実際の農業の感覚とすごく近いなと。

家入

短期的に化学肥料をジャンジャンまいて大量に生産しても、それによって土地がダメになってしまうということですよね。

柿次郎

そうです。農業もメディア運営も一緒で、化学肥料や、とにかく数字を求める記事のように「過剰なもの」も最初はあってもいいと思うんです。時には話題になる記事も作らなきゃいけないから。その努力はしながらも、数字だけじゃない世界でコツコツ頑張ってきた人たちがBAMPで書いてくれてよかったと。

柿次郎

BAMPで広く読まれる記事ができれば、それがライターの代表作になる。代表作ができれば、ライターの単価が上がることにもつながります。これはすごく面白いし、他のメディアじゃなかなかできないことです。

家入

そうやって書き手もどんどん育っていくのは、いいメディアの証ですよね。

柿次郎

書き手に愛されるかどうかって、メディアとしてすごく大事だと思うんですよね。そういえば最近、TBSの人がBAMPは素晴らしいと言ってくれたんです。BAMPのように小さな声を広げることは、本来テレビがやるべきこと。それなのに、最近は不倫や大人が足を引っ張り合うニュースばかりになっていると。だから今度、CS放送「TBSニュースバード」で、僕が司会を務める「Dooo」という対談番組を始めることになったんです。「Dooo」とBAMPのネタを絡めて、テレビで話題になった番組を見た後に、しっかり取材したインタビュー記事がBAMPで読める…みたいな連携ができればいいと思いますね。

家入

そういえば、僕もNHKの人から「BAMPみたいな番組を作りたいから相談に乗ってほしい」と言われました。やっぱり、BAMPのような取り組みはテレビもやるべきだと思うし、何より彼ら自身がやりたいんですよね。

柿次郎

地元の情報を取り上げ続けてきた関係性やネットワークのような、ローカルでのテレビの強さってあるじゃないですか。ただ、ひとつの場所にずっといると客観視できなくなる危険はあるんですよね。土着に寄りすぎて、「土化」してしまう。ちょっと概念的な話になっちゃうんですけど、情報が「風化」するっていいますよね。「風化」はネガティブに捉えられがちですが、さっきの「土化」の反対の言葉として考えると、「風化」はちゃんと風の視点を入れる、外の視点を入れるという意味として考えることもできます。だから「風化」って言葉をどう捉えるか、みたいなことも大事かもなあと。

家入

面白い。なるほどね。

柿次郎

僕の会社名である「Huuuu」には「風」という意味も込めています。ジモコロで全国を回ってるうちに、「土の人」「風の人」って言葉を知ったんですが、僕は完全に「風の人」なんですよね。外の視点で編集して、情報を引っ張り上げて、いろんな人に掲示する。それってものすごく「風化」の行為じゃないかなと。同時に地元の人、つまり「土の人」がいなければ、僕たち「風の人」は生きません。長野に来てから、その感覚はいっそう強くなりましたね。

「おじさん2.0」と「経営者の孤独」というBAMPが掲示する2つの問い

柿次郎

実はBAMPで連載をしたものを、2冊の書籍にするって目標があるんです。それはCAMPFIREとBASEは関係なく、BAMPとして社会に問いを投げるものにしたくて。ひとつは「おじさん2.0」です。

家入

「おじさん2.0」?(笑)

柿次郎

僕が今、一番興味があるものなんです。テレビで話題になるのって、大体おじさんじゃないですか。失態とかセクハラとか。「おじさんは今、なぜこんなにも追い込まれてるのか?」ということを、宗教学や霊長類学、経済学の教授に聞いて、まず「おじさん1.0」を定義したいんですよ。

家入

旧来的な「おじさん像」ということですね。

柿次郎

はい。その上で、これからの若者がどういうおじさんになるべきなのか、今のおじさんたちはどう変わるべきなのか、という答えにたどり着きたいんです。

家入

面白いね。

柿次郎

もうひとつは「なぜ経営者は孤独になるのか?」を考える「経営者の孤独」です。経営者の過去の孤独にまつわる体験と、それをどう乗り越えてきたかを聞いて、あまり話したくないであろう「かさぶた」に触れていく企画なんです(笑)。1人目の取材はすでに終わっていて、BAMPでも以前取材したことがある「かもめブックス」の柳下恭平さん。「経営者の孤独」は全部、ライターの土門蘭(どもん・らん)さんに書いてもらうんですけど、この人がすごくて。取材の場でぐいぐい聞いてくるわけじゃないんですけど、なぜかいろんなことを話してしまう。僕もこの前インタビューを受けて「自分が地方に興味を持ってるのは精子を強くするため」っていう話をしました(笑)。

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家入

土門さん、僕もちょっと取材を受けてみたいな(笑)。たしかに起業家や経営者って、社会というものに自分を合わせられず、ある種、独善的に自分の側へ社会を寄せようとしている人たちだと思っています。要は、基本的に社会不適合者なんですよね。

家入

それゆえに、ちょっとねじがずれてたり、お酒を飲むと乱れちゃったりする人もいます。みんな、何かしらの闇を抱えてると感じることは多くて。堀江貴文さんとたまに飲みますけど、あの人も不感症みたいに見えて、かさぶたが分厚くなりすぎているだけなんだと感じます。すごく繊細で弱いところもあるんです。SNSでいまだに罵詈雑言を浴びているので「もう慣れっこですか?」と聞くと、「俺だって傷つくよ。だって人間だよ?」と言ってましたから。そりゃそうですよね。だから僕は、大きく分けて2種類の経営者がいると思っています。自分の弱さを鎧で固めて、何重にも鎧を重ねて強くなっていくタイプと、最初から弱さを面白おかしくひけらかしちゃうタイプ。そういう視点で見ていくと、結構面白いですよ。

柿次郎

そうですよね。我ながらすごく良いテーマだと思ってます。この2本の連載もBAMPの新たな展開として、WEBだけじゃなく、本というリアルな形で深く届ける挑戦をしたいんです。これからのBAMPの取り組みの中でも面白いものになりますよ。

【後編】「評価経済とシェアの先をどう越えるのか?」対談・家入一真×徳谷柿次郎

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書いた人 : しんたく

文章を書いたり、映像を作ったりしています。新宿・「歌舞伎町ブックセンター」に書店員としても在籍。現在は東京と長野を行ったり来たり。気がつくと青い服ばかり買っているけど、広島東洋カープがすき。

写真 : 小林 直博

長野県奥信濃発のフリーペーパー『鶴と亀』で編集者兼フォトグラファーをやっている。1991年生まれ。ばあちゃん子。生まれ育った長野県飯山市を拠点に、奥信濃らしい生き方を目指し活動中。

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