多くのベンチャー企業へチャンスを与える。JR東日本スタートアップがCVCとして取り組む理由

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『コーポレート・ベンチャー・キャピタル』通称CVC。
自社の事業分野とシナジーを生むベンチャー企業へ投資を行う取り組みで、近年大手企業を中心に年々数を増やしている。

鉄道会社のJR東日本のグループ会社である『JR東日本スタートアップ株式会社』もそのうちの一つだ。なぜ、JR東日本がCVCの取り組みを始めたのか。2018年の設立以来、どのような取り組みを行ってきたのか。
同社シニアマネージャーの隈本伸一さんに話を伺う。

ベンチャー企業とコラボレーションしたJR東日本の新しい取り組み

── なぜJR東日本がベンチャー企業、スタートアップ企業のCVCを始めたのでしょうか?

隈本伸一(以下、隈):JR東日本は自前主義が当たり前の世界でした。私は、もともとJR東日本の事業創造本部・新事業/地域活性化部門にいたのですが、社内の人間からすると中で何か新しいことを始めるのには難しさ感じていました。
そこで外部の企業、特に命を懸けて良いサービスを生み出しているベンチャー企業の皆さんと上手くコラボレーションできれば、弊社としてもお客様に良いサービスを届けられるのではないか、JR東日本が抱えるペインを解決できるのではないかと考えたんです。

ただ、最初から全社的な取り組みは難しい。なぜなら、「ベンチャーってなに?」「CVCってなに?」という人が多いかったからです。なので、一番最初に私が所属していた事業創造本部内でスタートアッププログラムという企画が立ち上がりました。他の鉄道会社でもスタートアッププログラムを実施している企業があったため、社内認知も多少はあったので、じゃあやってみましょうかと。なったようです。

── そこからどうやって『JR東日本スタートアップ』に?

:2017年に「JRと面白いことを始めませんか?」と実施した、第一回目のスタートアッププログラムが盛況で。237社ほどの応募があり、そのうちのアクセラレーションコースとして11社採択しました。
そして、採択した11社と実際に駅を使ってサービスの実証実験をしたり、もとあるサービスに変化を加えたりする形で実証実験を進めたんです。

そしたら、思いのほか、マスコミの反応も世の中の反応も良く、社内の反応も徐々に良くなってきました。ベンチャーとの付き合いも悪くないんじゃないかと。

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とはいえ、ベンチャー企業さんと最後までお付き合いするとなると、出資やエクイティの話が出てきます。それをJR東日本の本体で進めるのは非常に時間がかかるんですよ。
プロセスが煩雑で内部コストがかなりかかってしまう。であれば、社外に丸っと機能をつくってしまった方が早いのではないかと、2018年にJR東日本スタートアップが設立されました。

── 分社化するのに社内の説得が大変だったのでは?

:私が説得したわけではないのですが、最初にスタートアッププログラムである程度のムーブメントがつくれたので、説得は比較的スムーズだったようです。また、弊社の内部には、実は新しいことを生み出していかないと会社の新陳代謝が促せないと思っている人もいるということです。国鉄時代からの方々が経営層にいるので、新しいことや変化に対してはチャレンジした方がいいという話がでたようです。

事業領域、企業ステージはさまざま…JR東日本スタートアッププログラム

── 会社設立後にもスタートアッププログラムを実施されていますが、いかがでしたか?

:2回目となる2018年スタートアッププログラムも182社ほど応募がありました。そのうちの18社を採択して、1回目同様に実証実験をさせていただいてます。

── 採択する企業の選考基準や共通点はありますか?

:JR東日本の持っているリソースと掛け合わさる事業領域が共通点ですね。

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http://jrestartup.co.jp/about/

ただ、弊社のリソースは鉄道と観光がベースではあるものの、グループ会社まで広げれば飲食・小売・不動産…ほとんどなんでもあります(笑)。
さまざまなリソースが使えるので、JR東日本のリソースとベンチャー企業のアイディアやサービスをかけ合わせて、新しいサービスや社会課題の解決につながれば最高ですね。

── 採択された企業の中から、最終的に出資する企業を決めているのでしょうか?

:そうですね。8~9割はスタートアッププログラムで選ばれた企業に出資しています。出資の依頼を受けたり、タイミングが合ったりした企業に出資する形を取っています。

というのも、採択された企業は、短くても半年は一緒に実証実験を行う。その中で、企業内部の状況や、信頼に値する企業なのか、サービスとして上手くいくか…と会社の状況が分かります。
出資先が決めやすいのは、実証実験を実施しているメリットであるかなと。

―― 出資される企業も事業領域はさまざま?

:さまざまですね。インバウンド、小売、フィンテック、ヘルスケア、シェアリングエコノミー…など。企業ステージもさまざまです。

ただ、弊社の良さはそこにあると思っていて。インフラやリソースがたくさんあります。これらを活用して、基本的にどんな企業でもとことん実証実験に取り組める。そして、チャンスがある。
それは他のCVCと違う部分だと思いますね。

課題を想像した分、チャンスが巡ってくる

── 一見、JR東日本のリソースと関係なさそうでも、アイデア次第ではチャンスが巡ってくる場合もあるんですか?

:ありますよ。例えば、2018年のスタートアッププログラムで採択され、現在出資も行っている株式会社TBMさん。LIMEXという石灰石由来の素材をつくっている企業です。
LIMEXは、水をほとんど使わずに紙がつくれたり、石油資源をほとんど使わずにプラスチックがつくれたりする素材。最近では飲食店のメニュー表などに使われることも増えていて、環境保全の技術としても注目を浴びている会社です。

最初は、LIMEX素材の紙で何かできないかと考えてみたのですが、割と色々な場所でもすでにされていた。なので、LIMEX素材のビニール傘をつくって、エキナカで傘のシェアリングを展開するのはどうかと考えました。

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── そんなシナジーの出し方もあるんですね。

:とにかく企業さんと話して、面白いアイデアを出したり、JR東日本の抱えるペインを探したりしています。傘でいうと、駅内の落とし物やポイ捨てが多く、駅で困っているのをよく聞きます。JR東日本はさまざまな事業を行っているからこそ、目の前に現場の課題がたくさんあります。

ベンチャー企業さんの技術を使って解決できるJR東日本の課題を、アイデアを出す際には考えています。

2つの実証実験成功事例

── これまでの実証実験の中で、これは上手くいった、面白かった事例を教えてください。

:一番好評だったのは、2017年のスタートアッププログラムで採択されたサインポスト株式会社の無人決済AI店舗『TOUCH TO GO』ですね。金融コンサルティング会社ですが、レジの研究もされていて。「無人決済店舗を作りたい」とお話があって、我々としてもすごく面白いと選出させて頂きました。

JR東日本の抱える一つの課題に人手不足があります。皆さんが利用されているであろう、エキナカのコンビニはアルバイトを募集しても人が集まらない。今後さらに人手不足は加速すると考えています。

その課題を解決できるだろうと、2017年に第一弾の実証実験を大宮駅で実施。2,000人に体験してもらいました。2018年には第二弾の実証実験を赤羽駅で実施し、1日平均300人以上が利用。利便性が確認できたので、本格的な実用化に向けて動いています。

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(赤羽駅で実施された無人AIレジ『TOUCH TO GO』)

あと、面白い事例としては、2018年のスタートアッププログラムで採択された株式会社はなはなの鳥獣侵入忌避システム『境界守』。養蜂家なのですが、スズメバチの羽音による害獣駆除のシステム開発をされていて。
鹿や熊の侵入に困っていたゴルフ場で実験してみたら出なくなったと。「よく鹿にぶつかって電車が止まってるので、役に立つのでは?」と応募して頂いて、実証実験を開始しました。

設置させて頂いた、岩手県のJR山田線では年間で約400件も鹿と衝突しています。非常に長い路線なので、さまざまな区間で衝突していると思うのですが、かなりの件数です。
そんなペインを抱えていたので、2018年12月から一部の区間に『境界守』を設置。その区間には鹿が出なくなり、近隣住民の方にちょっとしたヒアリングを行ったところ見かけなくなったと。
この事例は面白いなと思いますね。

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(鳥獣侵入忌避システム『境界守』HPより)

JR東日本が抱える地域課題の解決に向けた『地域にチカラを!プロジェクト』

── CAMPFIREの『地域にチカラを!プロジェクト』も2018年のスタートアッププログラムで採択いただいていますが、選定の理由について伺ってもよろしいでしょうか?

:弊社の経営課題として、地域活性化があります。広域に路線のある会社なので地域問題はつきものです。これまで、JR東日本の中でも、地方への移動促進、地域産業の創出などの取り組みを行っていきました。
私が元いた部署の地域活性化部門では、地産品の開発や農業の展開等をしていました。今後も取り組みを続けなければいけない一方で、JR東日本の中だけでは限界があると感じていたんです。

その課題をベンチャー企業さんの力をお借りすることで、進展できるのではと考えていたところ、JR東日本スタートアップ2018にCAMPFIREさんからの応募がありました。

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URL: https://camp-fire.jp/channels/jreast

クラウドファンディングを活用した地産商品の開発プロジェクトと無人駅有効活用プロジェクトをご提案いただき、これはいいなと。地域のPRにも繋がるし、資金も集まる。CAMPFIREさんと連携して、地域の課題解決に上手く活用できると考えました。

特に無人駅は、弊社としても課題を感じていましたが、何か新しいことを始めたり、お金をつぎ込んだりするのは経営判断として難しかった。でも、駅はその地域の象徴的な存在なので、何か活用したいという人は少なからずいると思いました。
実際に、無人駅有効活用プロジェクトの公募をしたところ、想いを持っている方たちも多くいて。それなら、地域の人にお任せしようと。

── 現在、実証実験中ですが、取り組んでみての率直なご意見をいただきたいなと。

:地産品は生産者の方から大変好評で。商品の見せ方が勉強になったという意見をいただいています。また、クラウドファンディングが終わってからの販売経路をJR東日本グループで用意できているので、安心してクラウドファンディングに臨めるというお話もありました。
弊社側としても、CAMPFIREさんと一緒にできてよかったなと。

無人駅は難しさを感じつつも、地方のメディアで取り上げられていて、PRに繋がっていると感じています。地域を盛り上げたいという熱い想いを持った方がいらっしゃると知れたのも収穫でした。
また、他のJRグループのほとんどが持っている課題ではあったので、反響が大きかったです。
駅を貸すのは、それなりに調整があるので進みが遅いのですが、スタートアッププログラムから2年越しで実証実験を頑張っていきたいと思います(笑)。

── 引き続きよろしくお願いします(笑)。

ベンチャー企業成長のステップに

── 最後に、今後JR東日本スタートアップでコラボレーションを考えている企業さんに向けてメッセージをお願いします。

:JR東日本のリソースを使って、先進的な分野から地域活性化まで幅広く、バラエティに富んだコラボレーションを色んな企業さんとつくっていきたいと考えています。
また、JR東日本が抱えている課題は、他の鉄道会社さんも同じ課題を抱えています。弊社で選出された企業が他の鉄道会社のスタートアッププログラムに応募するといった横展開している事例もあります。

弊社で実証実験して上手くいけば事業展開がしやすい。ベンチャー企業さんにとっても良いことだと思いますし、弊社としても大歓迎です。多くの人が豊かになれる未来に向かって、私たちもベンチャー企業さんと共に進んでいきます。

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書いた人 : 阿部 裕華

取材好きなフリーライター/編集者。WEBメディア中心に編集・企画・進行管理(たまに撮影・デザイン)もやります。アニメ・コンテンツビジネス・映画・音楽(主にBUMP)が大好きです。

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